第3話 初めての戦闘。初めての死闘。

火の球ファイア・ボール


少年が詠唱すると、突き出した右手の先に直径二十センチほどの火の球が出現した。

それは勢いよく飛んでいくと、どんどん弱くなっていき、やがてポツリと消えた。

 

「上出来だ。次は剣を振ってみるか」


もしもの事態に備えて出掛けている時は常備していた短剣を鞘から抜いた。

それを思いっきり斜めに切り裂くように振ると、風を切る音がした。


「なんだか自由自在に扱えるような気がする」


その時、後方から威嚇するような鳴き声が聞こえた。


「ガルルルル」


慌てて振り向くと、そこにいるのは獰猛な顔つきをした狼。

だがその大きさは通常の狼とは桁外れ。

通常の狼が全長一メートルにも満たない大きさなのに対し、奴の全長は目測で約二メートル。

ありえない大きさだ。


「なんだあいつ……」


その迫力に思わず後ずさる。

が、後ろにあった大きめな石に躓いて転んでしまった。

それを好機と見たのか、狼は凄まじい勢いで自分へと向かってくる。

 

「クソッ! 火の球ファイア・ボール! 火の球ファイア・ボール! 火の球ファイア・ボール!」


少年はがむしゃらに魔術を放ちまくる。

一発目と二発目は躱されてしまったが、流石の狼も少しバランスを崩して三発目を躱すことが出来なかったようだ。

火の球が直撃すると、狼は動きを止めた。

少年はその隙に立ち上がり、短剣を抜いた。

すると、少し立ちくらみを感じた。


「魔力を使いすぎたかッ! クソッ! こうなったらやけくそだッ!」


少年は腹を括り、短剣片手に狼に向かって駆け出した。

それに気がついた狼も止めていた足を再び動かした。


少年の手が振りかぶるのと、狼の爪が振りかぶるのは同時だった。

凄まじい音を立てて拮抗する両者の武器。

先程得たばかりの剣術を用いてみぎに受け流すと、狼は大きくバランスを崩した。

──それは大きな隙だ。

ここぞとばかりに再度短剣を振りかぶって、ガラ空きになっている狼の右首目掛けて振り下ろす。


「ガウウ! ガウウ!」


血飛沫を上げた狼が悲鳴を上げる。

それでも狼は死ななかった。

短剣を突き刺したことで武器も防具もない状態の少年に、狼の鋭い爪が襲う。


「ッアガァ!」


少年の胸に深く切り裂かれた痕が残る。

その痛みに意識を手放しそうになったが、気合でなんとか持ち直す。

──少しでも気を抜いたら、殺される。

力を振り絞って大きく後方に飛んだ。

彼我の距離は約五メートル。

互いが深手を負っている状態で、相手にはない遠距離攻撃手段を持つ方に勝敗が傾くのは当然。

少年は最後に余っている身体中の魔力をかき集めて、今出せる最大の魔術を叩き込む。


炎の大砲ファイア・キャノン!」


先程の炎の球とは桁外れの大きさのそれは、まるで大砲のような速さで発射された。

それが直撃すると、ジューと身を焼かれ倒れていく狼の姿が見えた。


「勝った……勝ったんだ……! アガァ!」


勝利に歓喜していたのも束の間。

少年は直接心臓を掴まれたようなとてつもない痛みを感じたかと思うと、

突如襲いかかってくる強烈な眠気に抗えず、意識を手放した。

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