第172話 豚王との戦い

「貴様も糧となれ!」


 豚王の振るった肉切り包丁から、巨大な斬撃が飛んできた。


 斬撃は一発だけでは終わらない。

 豚王は肉切り包丁を振りきると、すぐに斬り返して次の斬撃を飛ばしてくる。


『これは確か【剣術】スキルの【斬撃波】だったか……』


 斬撃と斬撃の間をかいくぐるようにして躱していく。


 巨大な斬撃を連続で飛ばされるのは厄介だ。

 躱すのは問題ないが、豚王に近づく隙がない。


 だが、それでいい。

 豚王の背後に回り込んだ子ぎつねがいるのだから。


『【ウィンドスラッシュ】!』


 子ぎつねが風の刃を放つ。


 ランクは子ぎつねのほうが下だが、レベル差と魔法型のステータスもあって、子ぎつねの魔法力は豚王の防御力を上回っている。

 いくら豚王といえども、真正面から当たるわけにはいかない。


「ム……!」


 豚王が振り返りざまに風の刃を斬り裂き、同時に【斬撃波】を放った。


 それを躱す子ぎつね。

 相手の行動を予測できていれば、対処するのは簡単か。



 子ぎつねが豚王の気を引きつつ時間を稼いでくれたおかげで、俺は豚王に肉薄することができた。


『【プラズマアロー】!』


 進化で獲得した新スキルのうちの一つ、【プラズマアロー】。

 【クリムゾンアロー】の雷版で、中級魔法だ。


 これを至近距離から三発放つ。


「防ぐのは間に合わんか……!」


 そう言いながら、豚王は肉切り包丁の腹を顔の前に持ってきた。


 刹那、俺の蹴りが肉切り包丁に直撃した。


「ぐっ……!」


 豚王の体に【プラズマアロー】が突き刺さる。


 が、豚王はそれをもろともせず、肉切り包丁を持つ腕に力を籠める。


 俺は魔法力の高い鳳凰とはいえ、下手な魔法よりはフィジカルを活かした物理のほうが火力が出る。

 俺の蹴りを喰らうくらいなら、【プラズマアロー】を喰らったほうが安く済むと判断したのだろう。


「ぐ……ォォォオオッ!」


 豚王が咆哮を上げながら、さらに腕に力を籠める。


『うわっと』


 俺は力業で強引に吹き飛ばされた。


『【ウィンドスラッシュ】!』

「【グランドウォール】!」


 子ぎつねの魔法が届くよりも先に、豚王を囲むように土の壁がせり上がった。


 風の刃は土壁の表面を削ったところで消え去った。


 次の瞬間、土壁が砕け散った。

 俺の眼前に豚王が迫る。


 速い!

 迫る速度がこれまでよりも明らかに速くなっている!

 躱しきれない……!


 豚王のタックルが直撃する。

 俺の体にとんでもねぇ衝撃が襲いかかる。

 わかってはいたが、やっぱりすげぇ威力だ……。


 俺は地面を数回バウンドしながら、近くの建物に突っ込んだ。


 ここで追撃が来たらたぶん死ぬが、そうはならなかった。


 吹き飛ばされる時に、カウンターで【サンダーウォール】を使ったからな。

 俺も大ダメージを受けたが、【サンダーウォール】をもろに喰らった豚王もかなりのダメージを負ったことだろう。


『【再生ノ蒼キ炎】!』


 またもや新スキルを使う。

 俺の体を青色の炎が覆う。


 スキルの説明ではこの炎は熱くないと書かれていたが、なんかアレだ。

 温泉に浸かってるって感じで心地いい。


 体力をある程度回復させて傷の修復も済ませてから、建物の外に飛び出た。


『【ウィンドスラッシュ】!』

「なんのこれしき……!」


 建物の外では、子ぎつねと豚王が戦っていた。


 豚王の【斬撃波】を躱しながら、子ぎつねが風の刃を放っていく。


 俺がカウンターで【サンダーウォール】を当てた時に追撃したのだろう。

 豚王の顔や首には、子ぎつねの魔法で切り裂かれた傷がいくつかできていた。


 子ぎつねの冷静な判断のおかげもあって、豚王の動きは最初よりも精彩を欠いたものになっていた。


『さっきの攻撃は効いたぜ』


 こちらを振り返った豚王が、忌々しそうに吐き捨てた。


「貴様、生きていたか……」

『【グランドウォール】を発動させてから、すぐに奇襲してきたのはよかったぜ』


 土壁のすぐ近くにいたから、いきなり壁を突き破って来た豚王の攻撃を躱すことはできなかった。

 タックルによって大事な骨を折られたが(すごく痛かったぞ)、【再生ノ蒼キ炎】のおかげで何も問題ない。

 鳳凰はタフネスな魔獣だからな。

 二発殴られてる間に一発殴って回復魔法を使えば、基本俺が勝つ。


 それはいいのだが、魔力の消費が多いのはきつい。

 鳳凰は魔力も優れているが、今はまだ低レベルだからな。

 自動回復があるとはいえ、子ぎつねに150も譲渡してから中級魔法をバンバン使っていたらあっという間に減るのは当然か。


 最後は殴って仕留めるしかなさそうだ。



 【猪突猛進】

 【一直線に突き進み、相手に体当たりする。使用中はまっすぐ進むことしかできなくなるが、素早さの数値が上昇する。】



 俺が豚王の奇襲を躱しきれなかったもう一つの理由がこれだ。

 このスキルの効果によって、使用中の豚王の素早さは俺たちを上回る。

 直線にしか進めなくなるみたいだが、移動目的で使われると少し厄介だ。



 豚王の残り体力は、371/800。

 俺の体力は、589/799。魔力は、123/811。

 子ぎつねの魔力は、222/901だ。


 もしもの時に回復魔法を使うためにも、これ以上魔力を浪費するわけにはいかないな。

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