第127話 主人公以外の人たちのお話

 十メートル超えの巨大蛙と、それに比べれば小さいものの二メートルほどもある鳥が戦っている光景を、彼は遠くの岩場地帯から眺めていた。

 森の木々よりも少しだけ小高いその崖の上からだと、巨大蛙が暴れている様子がよくわかるだろう。


 彼の見ている先では、十メートル超えの巨大蛙が縦横無尽に跳ね回っている。

 その余波や音は、かなり離れているところに鎮座する彼のところまで伝わっていた。

 銀色に美しく輝く彼の毛が、巨大蛙が暴れまくっている衝撃で少しだけ|靡(なび)いている。


 ……以前と姿は変わっているようだが間違いない。

 あのバカみたいにでかい蛙と戦っているのはあいつだ。


 彼がそう考えていたとき、配下のうちの一匹が彼の後ろにやってきた。


「グルルゥゥ……」


 配下は|頭(こうべ)を|垂(た)れた。


『モウ終ワッタノカ?』

「ガウッ!」


 彼の問いに、配下は元気よく返事をする。

 彼から出された課題をクリアできたからだ。


『ナカナカニ強クナッタナ』


 目の前の配下の気配は、彼が課した試練をクリアする前よりも明らかに強くなっていた。

 だからこそ彼は褒める。


「グルッ」


 ボスに褒められたことで配下は嬉しそうにしている。


『次ハココカラ北西ニ行ッタトコロニ陣取ッテイル鬼共ヲ倒シテコイ。ホカノヤツラト一緒ニナ。鬼共ハ五匹ホドダ』


 ちなみに彼の言う鬼とは、オーガという一匹一匹がC+ランクの魔物だ。

 筋肉質な体つきで体長は三メートルほど、額から一本の角が生えていることが特徴だ。

 今回のターゲットとなるオーガたちは、上位種はいなくて数は五匹だけだ。

 連携をとって攻めれば、フィジカルでは負けている配下たちでも有利に事を運ぶことができるだろう。


「グルッ!」


 ボスからまた新たな課題が出されるが、配下は嫌そうにしている様子はない。

 ボスの命令をクリアしていけば、確実に自分達が強くなれることがわかっているからだ。

 あと、ごほうびも用意されるから。

 それも、配下一匹一匹の趣味趣向に会わせたものを。


 彼はボスとしてだけでなく、いい上司としても配下から尊敬されているのだ。

 配下に目標を聞けば、全員「ボスみたいになること」と答えるだろう。


『配下タチモ頑頑ッテイルナ。コレハ褒美ヲ用意シテオカネバ』

 上機嫌で去っていく配下を見ながら、彼はそんなことを考えていた。

 そのとき――


『アレハ……』


 群れに属さない「はぐれ」だと思われる狼が、巨大蛙と猛禽類が戦っている方向へ走っているのを彼は見つけた。

 十中八九、漁夫の利を狙っているのだろう。


『行クトスルカ』


 彼は岩山から飛び降りて、狼の方へ走っていった。

 銀色の毛が風に靡くさまは、見ていてとても美しい。


「グルゥゥゥ……!」


 突然目の前に現れた彼に、はぐれの狼は驚いて警戒する。

 目の前にいる彼から発せられるプレッシャーに、はぐれの狼は思わず後ずさりしてしまった。


『ココデ引キ返スナラ見逃シテヤル』


 自分よりも体格が大きく、圧倒的なプレッシャーを放つ彼に逆らうのは無理だったようだ。

 はぐれの狼は、文字通り尻尾をまいて逃げ出した。


『マア、アイツナラ今ノ狼ゴトキニ負ケハセヌダロウガナ』


 彼は元の位置に戻って、蛙と猛禽類の戦いの観戦を再開した。

 否、再開しようとしたができなかった。


『クッ……! ハグレノ狼ヲ追イ払ッテル間ニ決着ガツイテシマッタカ……』


 彼はちょっとだけ悲しそうな表情をしている。

 決着がつく瞬間を見たかったようだ。








◇◇◇◇



 森の木々が派手に倒壊している。

 巨大な死体が転がっている。

 盛大な戦いが起こった跡地に『そいつ』は現れた。


 腹を空かしたそいつは、巨大な死体の体に触れた。

 その肉片を溶かして取り込み――


 そいつの様子が急に変わった。

 体が毒々しい色に染まっていき、苦しみもがくように震えだした。


 そいつは、その状態でも必死に肉片を取り込み続けた。

 そこにあるのは食べることへの執着。

 ほかの魔物に襲われて死にかけていたそいつには、食べられるものは目の前にある死体くらいしかなかった。


 だからこそ苦しくても必死に食べる。

 食べ続ける。


 そして――


 そいつの体が光に包まれた――








◇◇◇◇ 三ヶ月前(Side エレメンタルテイル)



 【そうそう! その調子です!】


 う~ん。

 いまいちうまくできた感じはしないけど、レイラちゃんが言うんだったら成功なのかな?


 目の前で倒れている木々を見て、私はそう思った。


『すごいすごい! もう中級魔法の【トルネード】を使えるようになるなんて……!』

『ママ、お腹すいたー』


 私を見てうれし泣きしているママに、ご飯ちょうだいとせがむ。

 魔法の練習をし続けてたから、もうお腹ペコペコだよ。


 【魔法の習得おめでとう!】


 ありがとう、レイラちゃん。

 それで、進化ってどのくらいかかると思う?

 早く闇魔法も使えるようになりたいの。


 【進化まではまだ時間がかかるから、ゆっくりと安全第一でレベル上げ頑張ってくださいね。】


 うん、わかった。

 弱い魔物と戦うのはママから許されているので、のんびりと頑張っていこう。

 時間はたっぷりとあるからね。

 焦らず毎日の暮らしを楽しみながら頑張っていこう。


『今日のお昼ご飯はね~、ママが採ってきたクナの実だよ』

『わ~い。私あれ大好き!』

『たくさんあるからね』

『やったー!』


 今日のお昼ご飯はクナの実!

 早く戻って食べたいな。


『走って帰ろうよ、ママ』

『ええ、いいわよ』

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