3、津軽和は暇になりたくない

「部活何に入ろうかなー?せーちゃんは部活決めた!?」

「わ、私は仕事があるから長時間拘束されるような部活はちょっと……。だから選択肢なんかほぼないよ」


星子は、和の意見をやんわり断っていた。

部活に入部するのは任意とはいえ、この仮入部期間にワクワクする和であった。


「そんな……!?せーちゃんを演劇部に入れて『細川星子』を完璧な女優にする作戦がっっっ!」

「いや、余計なお世話」


スターチャイルドと細川星子の両方で有名になったら自分死ぬなと星子は苦笑する。

ちょっと面白そうな提案でもあるにはある。


「のーちゃんは部活決まってるの?」

「ふふっ、よく聞いたねせーちゃん。実は……まだ」

「まだかい。思わせ振りな含み笑いやめて」


星子の突っ込みを受けて、和が「あははー」と受け流す。


「でも部活ってさ、知らない先輩に入部する旨を伝えるの緊張しない?」

「誰もが知っている大物アーティストに挨拶する方が緊張するよ。あっこさんとか」

「比較対象がおかしい」


芸能界の話題と比べたら、学校の先輩後輩は霞んで見えてしまう。


「じゃあ練習しようか。私が部活の先輩するから、のーちゃんが新入部員役するの」

「OK、練習しよ」


和が頷きながら、星子が部活の先輩という認識を受えつける。

「よし、行こう」と和の合図で、部活に入部するシミュレーションがスタートする。


「あのー……、すみません。ここバレー部でしょうか……?」

「そうですよ。あっ、もしかして新入生!?」

「はい!そうなんです!」

「ということは……、入部希望者かな?」

「全然。冷やかしです」

「冷やかしかよ。ちょっと待って」


星子が先輩の演技を中断し、和に向き合う。


「なんで冷やかしから入るの!入部するていじゃないと練習にならないでしょ!」

「だって私、バレー部に入る気ないもん」

「バレー部って設定、のーちゃんが付けたんだよ」

「わかった、わかった。バレー部興味ないけど、バレー部に入らざるを得ない偽りの新入生演じるよ」

「感じ悪いよ!?」


仕切り直しで、星子がサーブする振りなどをしながらバレー部の先輩を演じる。


「入部したいんですけどー」

「あ、もしかして新入生かな!?」

「いえ、津軽和です」

「まだ名前聞いてないから!もうやめよ!?なんかクラス中の視線集めて恥ずかしくなってきた……」


こうして、入部する練習という名の漫才は幕を下ろす。


「おぉ!なんかベテランの漫才師が学校にいるなんて知らなかったよ」

「違いますよ!?」


特に最前列でオッドアイである水色と朱の目をキラッキラさせていたクラスメートが2人へ拍手を送っていた。


「今のコンビ名を付けるならなんて名前にします?」

「西軍」

「厳つい!良いね、西軍!」


和の即答に満足したように少女は称賛を送る。

因みに恥ずかしがり屋の星子は赤くなりながら、口を閉じていた。


「えっと……、五月雨さんでしたっけ?」

「うん、自分は五月雨茜だよ。五月雨って語呂悪いし、茜って呼んでよ」

「わかった、五月雨さん」

「わかってない!」

「あはははは」


和がボケを挟みつつ、彼女を「茜ちゃん」と呼ぶ。

悪い子ではないかと星子も、茜を見ながら親しみやすさを覚える。


「和ちゃんに星子ちゃんだよね!和ちゃんの淡々とボケ放つの好きだよ」

「あ、ありがと……。別にボケ放ってたつもりはないけど……」

「すげぇ、ボケてたよ」


茜の指摘に、星子も同意の頷きを見せる。


「星子ちゃんは良い名前だよね」

「ありがとう」

「自分、スタチャ大好きなんですけど」

「?」

「星子って、スターチャイルドみたいで良いですね!」

「は、ははっ……。そ、そうだね」


バレないように演技をしていた星子であるが、隣にいた和は引き吊った顔にしか見えないのであった。


「それでこっちなんだけど」

「え!?え!?突然何!?」


茜は2人に見せびらかすように1人の少女を『おいでおいで』と手招きをする。

ちょうど教室に入った瞬間に茜からの指示に、彼女が引き寄せられていく。


「こっちが赤坂乙葉ちゃん!めっちゃ可愛くない!?」

「そうですね!ぷにぷに頬を弄りたくなりますね」

「よろしくね、赤坂さん」

「よ、よろしく……」


和と星子から悪意は感じられないのをギフトで察知した乙葉はそのまま流れで2人に頭を下げた。

「ちょうど今仲良くなったよ!」と宣言する茜に、大体の流れが乙葉の頭に入ってきた。


「それにしても部活かぁ。何部入ろうかな……」

「何も決めてなかったよ」


茜と和が「うーん」と考え込む。

そんな2人を見ながら星子は「無理に部活に入る必要もないのでは?」ともっともな意見で横槍を入れるも、「そんなんつまんねーじゃん!」と和が否定する。


「私の中学時代は帰宅部の灰色な学校生活だった……。正直、暇々星人にはなりたくない!」

「せーちゃん、暇々過ぎて自分の彼氏を主人公のモデルにした小説書いてたもんね」

「よし、決めた。文芸部にする」

「そんなテキトーに決めて良いの?」


茜は再び始まった掛け合いをほんわかしながら見ていた。

淡々とした会話のやり取りが地味にツボになっていた。


「乙葉ちゃんは部活決めた?」

「お、お兄ちゃんとお姉ちゃんが同じ部活にいるからそこで一緒に部活したいなぁって」

「健気……。乙葉ちゃん、自分の身内を大事にする子……。そういうの好き」

「わかる。身内大事」

「凄い共感してるね、せーちゃん……」


なんだこの空気と、別にそこまで姉と仲良くもないし、悪くもない仲の和には付いていけなかったのである。


「でも、部活って上下関係あるよね……。そういうの本当に苦手なんだよね」


芸能界の強すぎる上下関係の波にのまれている星子は、部活に関してはやや否定的であった。

学校も仕事も上下関係に縛られたら鬱になりそうである。


「ほらー、細川。ぼさっとしてるならパン買ってこいや!」

「は、はい!なんのパンにしますか!?」

「本場フランスのフランスパンじゃけぇ!」

「ひぃぃぃ!?嫌だぁぁ!部活怖いぃぃ!」

「いや、君らの部活はどんなイメージなん?」

「体育会系だねぇ……」


和と星子の部活への偏見が酷すぎて茜と乙葉が「それはないよ」とフォローする。


「因みに乙葉ちゃんのお兄さんたちは何部入ってるの?」

「文芸部だって。特に活動という活動はないけど、遊んでいるだけとかなんとか」

「文芸部あるんかーい」

「え?知らなかったの?なんだったののーちゃんのさっきの決意?」


和は『文芸部にする』と口にしていながら、本当にギフトアカデミーに文芸部があることを知らなかったのである。


「みんなもお兄ちゃんとお姉ちゃんに紹介するよ!」

「へぇ!楽しみ!」

「まぁ、津軽和先生のラノベ作家人生が始まるなら行くっきゃないか」

「仮入部くらいなら、まぁ……」


こうして、仮入部が始まったら文芸部にお邪魔することを決める4人グループが集まっていた。










「ふふふふっ。深森美月、宮村永遠、三島遥香、十文字理沙、ヨルなどの原作ヒロインが集まっている部活も確か文芸部……。行くっきゃないよね!」





怪しい影がにたりと嗤った。












和は原作だと、ラノベ作家になっています。

第11章 悲しみの連鎖

25、『悲しみの連鎖』舐める女

参照





本日、七夕!

秀頼の聖誕祭!

やったね!



スペシャル記念話を本日19時に公開します。

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