6、ひぃ君
俺──明智秀頼は物心が付いた時には、既に両親は死んでいた。
明智秀頼の記憶で1番古いのは、虐待されていた時のものだ。
どの暴力が1番古いのか、時系列は完全にぐちゃぐちゃになっている。
年齢にするなら3歳くらいの時だったかな。
俺は家から飛び出したんだ。
ちょうど叔父さんがなんか買い物しに行き、おばさんが泣いていた時だ。
気付かれないように、逃げ出そうとした。
でも、3歳児にはまだ外は広すぎてどこに向かえば良いのかわからなかった。
鳥籠の外を歩き回り家出するにはまだ早すぎた……。
だから、ふらっと歩いてたどり着いたのが近所の──絵美と出会った公園だった。
何回かおばさんと来たけど、1人でここに来たのははじめてだった。
「逃げ出すじゃダメだ。あぁ、全然ダメだ」
殺す、って言うんだっけ?
叔父さんの口癖だ。
酒持ってこねーと殺すぞ。
黙ってねーと殺すぞ。
泣きやまねーと殺すぞ。
他の言葉を知らないのか?ってレベルであいつは殺すを連呼した。
よくわかんないけど、ヤバい単語なのは理解していた。
殺すの意味を理解したのは、昼間にテレビでやっていたドラマだった。
崖から突き落としたり、ナイフで胸を抉ったり。
血を流させて倒れさせたことだ。
その殺しを実行した女の人が最後に泣きながら告白した。
『あの馬鹿な男らはね、私の大事な人を殺したの!だから、私が!ゴミクズのように殺し返したの!楽しかった!楽しかった!楽しかった!あいつらを殺すのは楽しかった!』
その女性を生まれてはじめて美しいと思ったし、好きになった。
俺のあれがパンツを突き破りそうになるくらいにすっげー立ったし、震えた。
いつか、殺しを自分の手でやってみたい。
楽しいなら、そりゃあやってみてぇよな。
なら、殺すならあの叔父は確定だ。
一緒に役立たずなおばさんもやってしまおう。
あと、個人的にあの女性みたいに俺が好きになった人を血に染めたい。
美しい人、好きな人に楽しいことをしてやりたい。
多分、血に染まった好きな人を見たら美しいが限界突破する。
「叔父をここから突き落としたら死ぬかな……」
滑り台の上に立ち、上から下を見下ろしていた。
「殺してやるんだ、苦しめて殺してやる」
フフっと笑みが零れる。
「あー、楽しいなー!」
本当に楽しい。
イメージの中の叔父が、顔面から落ちて血がドクドクと止まらない姿をイメージするのは。
そこに上から「ざまあみろ」って言って、顔をサッカーボールみたいにして蹴ってやるんだ。
蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って…………。
虚しい……。
いくらイメージで叔父を100回殺してやろうが何も変わらない。
クソッ……。
俺に人を動かす力さえあれば……。
絶対的に人を命令に従わせるような絶大な力が足りない。
命令で支配して、俺が思うままに、人を操れるような力が足りない。
このまま、殺されてたまるか……。
殺されるくらいなら、殺して、自由になるんだ。
叔父の支配から抜け出して、俺が叔父を支配してやるんだ。
屈辱に耐えても、あいつのきたねぇもん口にぶっこまれても俺は屈せずにいれば……。
「ねぇ、ねぇ?何が楽しいの?」
「……ひぃっ!?」
「滑り台に乗らないで見てるだけで楽しいなんて変だよ」
「……っ」
俺へ急に話しかけて来た女の子が、服の袖を引っ張る。
ビリビリでヨレヨレの服を弱っちい力で。
それが全力なら笑わせる。
普段からこれの何百倍の力で服が破れるくらいに引っ張られているんだ。
俺を殺そうとするなら、そんなんじゃ全然……。
「遊ぼうよ!ね?」
「ひぃっ……」
「怖くなんかないから!ね?」
「…………」
だ、誰?
突然知らない子に絡まれて、震えていた。
家に連れ戻すつもりなのか、気が気でなかった。
「さっきから『ひぃっ』って驚いてばかりだね。変なのー」
「ぅ……」
「じゃあ、君はひぃ君だね!ほら、せっかく公園にいるんだから遊ばないと!」
「ひっ……」
「ほら、遊ぶとたのしーよ!」
突然、俺は知らない女に手を引かれた。
あぁ、これが俺と詠美のはじめての出会いだったんだ。
毎日が虐待に怯えていた地獄の中で、はじめて地獄以外のことを知ったんだ。
†
滑り台を見て叔父殺そうとしているのは
第1章 覚醒
4、女の子は楽しい
こちらの秀頼の回想シーンより。
前世を思い出した秀頼はギャグで流しているが、原作の秀頼の中ではわりと人格形成に大きく関わる思考だったりします。
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