28、明智秀頼は吹っ切れる

「奇異な運命とはなんですか?」

「そうですわね……。あなたは、普通の人が一生に1度あるかないかくらいの特殊な体験に巻き込まれやすいみたいですわね」

「あー……」


心当たりしかなかった。

前世ではどこにでもいるようなただのギャルゲーマー。

しかし、明智秀頼に転生してからは常に慌ただしい毎日が繰り広げられていた。


「納得するのであれば心当たりがありますのね。あなたの場合、そんな運命がずっとまとわりついているみたいです」

「…………」


嫌過ぎるなぁ……。

俺は平凡に暮らしたいだけだ。

いつも、なんかトラブルが俺目掛けてやって来るんだもの。


「と、次は学生さんが絶対に知りたいだろう……」

「!?」

「恋愛運よ」

「佐山さん!待ってました!」


奇異な運命が回避出来ないっぽいんで、そっちの興味は失せていた。

そうなると、恋愛運が知りたい。

彼女が欲しい、そんな心の内を見透かされたようでもある。


「サーヤ、よ」

「サーヤ……」

「そうそう」

「マッ!」

「だから佐山って言うのをやめなさいって!この美人なミステリアスな女性が佐山ってダサイでしょ!」


縦ロールを優雅にかきあげる仕草を見せる佐山さん。

自分でミステリアスを自称しても、ミステリアスさが欠片も見当たらない……。

いらっしゃいませの練習や、俺にビビり散らす様を知らなかったら理解くらいはしてあげられただろうに……。


「なんと明智君と妾の相性は最高じゃ。結婚するべき相手って出てきたわ……」

「何を占ってんだよ」

「いや、気になったお客さん相手に妾との相性占いをするのが密かな趣味なんだが、まさかこんなところで運命的な出会いをしていて驚いたわ。今日だけの出会いにしないためにもツバ付けておこうと思って……」

「そんな事言われちゃうと俺、マジで佐山さんが好きになるからやめてくんない?」

「その性器みたいな手は毎日擦りたいわ」

「なんか自分の手を変な目で見ちゃうから性器って言うのやめろ」


現状、佐山さんの印象は変人しかないんだから。

俺との変な運命のせいで、ギャルゲーでルートが存在しないんじゃないの?


「……と、まぁ冗談風なガチ話は置いておいて」


冗談じゃなくてガチなの?

佐山さんは華麗にスルーしているので、俺もスルーしておく。


「あなた、人に好かれやすい体質してるわね。友達多いでしょ?」

「まぁ、中の上くらいの友達の数だとは思います」


前世の方が友達多かったけど、女性の友達は今より少なかったな。


「そういう人って嫌う人は大嫌いってなるとは思うけどね」

「俺のこと嫌いっぽい人とは極力近寄らないようにはしてますね」


ヨルとかも本当はあまり近付きたくなかったしね。

ゲームのメインヒロインじゃなければ、絶対関わらないタイプの嫌われ方をしてたし。


「人に好かれやすい体質。というか好かれてるわよあなた」

「いやぁ、なら良いんですけど」

「でも、絶対あなたは踏み込まないでしょ」

「…………ん?んー?」


よくわかんない。


「明智君、あなたは人に対し好かれることをする癖にその好意を見ない、気付かない、知らない」

「……?」

「あなた、かなり人間不振でしょ。人間を信じさせておいて、信じるのが怖すぎる臆病者。そんな人間関係を続けたらいつか一気にあなたの交遊関係消えるわよ?」

「……そ、そうなんですか?」


人間を信じさせておいて、信じるのが怖い?

そりゃあ、怖いよ。

そんな当たり前のこと、なんで指摘してくるんだよ……?


「あなたの人間不振は、後天的なモノ。人間が怖いって言うのを何回も痛感した人の考え方だわ。あなたはそれを無理して気にしてないですって振りが上手過ぎるわ」

「……そうですね。多分合ってます」


前世の両親から無人島に連れて行かれて死にかけて……。

部長に肩をぶっ壊されて……。

虐待で毎日叩かれたり、キノコみてぇな汚いものを口にぶっこまれたり……。


そりゃあ、人は怖いよ……。


「悲観をするな!」

「!?」

「人は確かに怖いけど、怖い人しか居ないわけではないでしょ!?あなたに優しくしてくれる人がたくさん居るでしょ!?想いを向き合ってあげなさい!」


想い……?

向き合う……?


「すぐに治すのは無理ですよ。別に妾は精神科の医者じゃないし。……でも、人の好意と向き合うことで君は1人や2人くらい彼女が作れるくらいに覚醒出来るわよ!胸を張りなさい、明智秀頼」

「は、はい!ひ、人の好意と向き合います!」

「そんなわけで妾と向き合って付き合うのは」

「え?これ、佐山さんが俺を落としにきてる?」

「そ、そ、そ、そ、そんなわけないでしょ!以上、占いを終わります!学生料金1000円出して帰りなさい!」


1000円を支払って、占いを終えた。

人の好意と向き合うか……。

そうだな、ちょっと人の好意に疎かったところが合ったんだと思う。


「頑張りなさい。君の人生は曇り空が広がるモノかもしれない。……でも、君の周りにはそんな人生を晴れにしてくれる子がたくさんいるんだからね。覚えておきなさい、愚民が」

「ありがとうございます、サーヤさん!」

「だからサーヤ……サーヤって呼んだ!?」

「約束通り佐山さんは世界一って口コミしておきますから!」

「…………え、好き」


『暗黒真珠佐山』をあとにする。

俺の人生は曇り空が広がるか……。

でも、確かに俺は人と向き合えなかった。


そういう意味では、俺は絵美や理沙、円、咲夜、永遠ちゃん、和、星子、ゆりか、ヨル、三島、美月、美鈴とかと向き合ってなかったんだな。


「よし、もう少し人を信じてみるか……」


俺の中にあった何かが吹っ切れた気がした。





──そんな俺を嘲笑うように、人生の曇り空はまた俺に刺客を放ってくるのであった。






─────





学校の仕事が終わった頃。

ギフト狩りを統括する瀧口は車を走らせた。

彼の目的は家に帰ることではなかった。

人に会うのが目的だったのだ。


「久し振りっすね、先生」

「あぁ、久し振りだな」


同じギフト撲滅を目指す教え子の男性を車に乗せる。

思い出話に華を咲かせるわけもない。

瀧口は教え子に指令を下す。


「学園長、近城悠久を殺害しろ」

「へぇ、あの若い先生を殺せって命令ですかい」

「最近、厄介そうな動きが活発だ。面倒になる前に彼女を殺せ」

了解ヤー。美しい花を血で染め上げてみせますよ」


教え子の男はクックック……、と嗤う。

その自信満々な姿に瀧口は頼もしさを感じる。


「俺の最強のギフト能力があれば、どんな人間でも殺してみせますよ」


暗雲はもうすぐそこまで迫っていた。

束の間の平穏は終わりを向かえそうになっていたのである。











次回、近城悠久ヲ暗殺シロ。

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