31、『悲しみの連鎖』残酷な真実
「…………もう、無理だ」
数時間、ずっと待っても人を拷問した感覚が消えない。
あたしが死ぬのを回避させるためだったとはいえ、ホワイト博士が配った教科書みたいな行為をしてしまった後悔は大きい。
確かに拷問の授業は楽しかった。
でも、それは本だけの内容だから楽しめたのであり、自分でやりたいことではなかった。
カカシ……、1581番がまだ生存しているらしいのがまた救いだろうか……。
「あたし、……カカシ落ちの方がマシかもしれない……」
いつも成績は悪くて、嫌な奴も多かった。
けど、仲間とワイワイやっていた方が楽しかった。
あたしが『アーティフィシャルギフト』になってから、いつの間にか周りから仲間が消えて孤独になっていたことに気付く。
博士に申請しよう……。
この生活に耐えられなくなり、拷問を経験したその夜に博士の研究室を訪ねる。
「なんだね?」という声がして、「失礼します」と挨拶をして中に入る。
そこにはコーヒーを飲みながら寛いでいて、ケータイ機器を扱っていたみたいであった。
あたしの姿を捉え、蛇みたいな目がこちらを向く。
「あ、……あたしをカカシ落ちにしてください……」
「ほぅ、カカシ落ちねぇ……」
「あたしは……、お父さんとお母さんの期待に応えられない……」
ギフトが使えるようになり、立派な人になって欲しいと手紙には書かれていたけれどそんな器じゃなかったんだ……。
あたしは特別でも、なんでもない。
「ふっふ……。くっふふふ……」
「……?」
そう言ってあたしが頭を下げるとホワイト博士は腹を抱えて笑いだす。
何が面白いのか、意味がわからない……。
いや、あたしが博士のことで意味がわかった試しなど皆無なのだが……。
「いや、失礼……。あぁ、そういえば君の手紙にそんなこと書いたっけ……」
「あたしの……、手紙……?」
時間が止まった気がした。
呼吸が出来なくなった気がした。
あたし、ホワイト博士に手紙なんかもらったことがない。
手紙をもらったことがあるのは、──お母さんだけだ……。
「教えてあげようか。『白い部屋』の子供たちはみんな親に売られてここに入れられる」
「売られて……?」
「お金と取引ってことだよ。トゥリス、君を100万円で私は買った」
「…………」
お金……?
100万……?
お金の価値はわからないけどそれって安いのか、高いのかわからない。
それじゃあ、あたしは捨てられたってこと……?
「その親の恩返しを君には何もされていないぞ」
「恩返し……?」
「それ以外にも君は私に恩ばかりなのだぞ。毎日支給される食事3食で平均680円、君の着ている衣服上下で2500円、明智秀頼が残したギフトの研究データを私が購入するのに500万円、『ギフト享受の呪縛』に必要な経費30万円、『白い部屋』の毎月の維持費27万円、拷問に使った道具全てで57万8200円……。君をここまで育てたのには、引き取った100万円とは別にもっともっと多大なお金をずっと投資し続けてきた。君の個人的な感情1つでカカシ落ちなんか出来ないんだよ。ギフトに目覚めて、君に使った以上のお金を生み出してもらわなくては意味がない」
「…………」
博士の言葉が耳を素通りする。
お金の価値なんて1000円でスッゲー買い物できるくらいの認識なのに、聞いたことない数字を突き付けられて倒れそうになる。
「因みに君の兄貴すら私は250万円で引き取ったんだぞ。……まぁ、なんの価値もないカカシになったがね」
「あ、あたしの兄……?」
「君が今日拷問した目の色が同じ無能なカカシがいたじゃないか」
「ぅ……」
兄……?
お兄ちゃんってこと……?
大嫌いだった1581番があたしの兄だった……?
嘘だ、そんなの……。
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ……。
「兄、柏木涼真。そして、妹の柏木華子。君は両親に兄妹そろって売られたんだよ」
「華子……」
あたし、1605番でもトゥリスでもなく、そんな名前だったのか……、
「兄の涼真を売って1年後、妹の華子も売却。その1ヶ月後に君の両親は恨みを買いすぎた。裏社会の黒服共にコンクリートで固められて死んだらしい。もう、君に親なんかいないんだよ」
「…………そんな」
「この施設の売った子供を引き取りに戻る親なんか少数なのだよ。あぁ、そういうことでは君と仲良しだった1608番の親は子供思いだね」
「1608番の……?」
こないだまであたしと仲良しだった眼鏡の女の子を思い出す。
ギフト陽性になってからの動向はまったく知らない彼女のことが気になった。
「こないだ娘を引き取りたいと連絡がきてね。事業に大成功したみたいで大金持ちになったみたいだった。彼女がカカシだったらそのまま返却したんだけどねぇ……」
「へ、返却しなかったんですか!?」
「ギフト陽性者だった彼女を返却出来ないんだよ。彼女は付き合いの長い変態なデブ政治家に1億5000万円での売却してしまってね。顔がそっくりで血液型が同じ影武者を用意して引き渡したら大喜びだったよ」
「…………く、クズめ!博士、あんた……どんな神経しているんだよ」
「金を返さないでカカシ落ちしろと言ってくる君も充分にクズだよ」
1608番とは友達だったのもあり、その彼女が家族と再会する機会を奪った博士に殺意が沸く。
あたしなら……、こいつを殺せるんじゃないか……?
我慢し続けた握り拳を博士に叩き付けようとした時だ。
「そこまでだ、『白い部屋』。ホワイト博士を名乗るマッドサイエンティスト気取りのクズ野郎っ!」
「……っ!?」
突然現れたヘルメットを被った男の乱入にあたしの握り拳はパーの形に変形する。
「なっ!?何者だ!?」
「『何者だ』は酷いじゃねーか。同じギフトアカデミーのクラスメートだっただろ」
そのヘルメットを脱ぐと黒髪の中年男性が姿を現した。
見たことない顔だが、どことなく中性的な顔にも見える。
「よっ。俺の親友の研究データを使って王様気取りは楽しかったか?」
「お、お前……。十文字タケルか……」
十文字と呼ばれた男は博士相手に臆することなく、彼に大きな殺意を向けていた。
†
簡易的な登場人物紹介。
後のヨル。
華子→1605→トゥリス→ヨル・ヒルと改名する。
ヨルが日本人みたいな名前なのに驚き。
涼真→1581→カカシ。
ジャイアンみたいな奴だったので、名前を剛にしようとしたがそれはあんまりなので違う名前になりました。
華子の兄だが、妹の存在は知らされていない。
年齢は2つ違い。
・目の色が同じなこと。
・『けらけらけら』と笑う癖。
・1605に対し強く当たる。
この3つ辺りからヨルの兄設定は考えていました。
因みに数字は施設に入れられた順番。
涼真と華子では1年の誤差があるからである(1581と1605。つまり間に23人いる)。
ヨルの両親
子供を売った。
あまり良い性格ではなく、涼真が性格を強く引き継いだ。
恨みを買いすぎてヤーサンに殺害されている。
変態なデブ政治家
ホワイト博士と付き合いが長いが軽蔑されている税金泥棒の政治家。
女の子のギフト所持者を集めている。
次回、有能なタケルがホワイト博士を討伐する……?
(有能なタケルなら、もうタイトル詐欺なんじゃ……)
早くスカッとしたいので、本日19時に次のページも公開します。
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