28、『悲しみの連鎖』スイッチ
「ぁぁぁぁぁ!?」
無理矢理顔に杭を打たれ、顔を震源地にして激痛が身体全体に浸透していく。
ジタバタしたくても、身体が拘束されて生き地獄になっている。
痛い、痛い、痛い!
悲鳴を上げたくても、口枷が嵌められてロクに声が出ない。
ただただ、唾液が口元に垂れてくる。
「少しでも形がズレると失敗するからな。本当に申し訳ない……」
ホワイト博士は謝りながら2本目、3本目と杭を刺していく。
「これで全部だ。大丈夫、刺した跡は残らない特殊な形状をしている。安心しろ」
ホワイト博士はそう言ってぶつぶつと何かを呟いている。
詠唱と説明していたものだろうか?
それから杭を刺したところを線で繋がれた不思議な感触が広がる。
おそらくこれは博士のギフトの力を流し込んだ瞬間なのだと思う。
「ぅ……!?ぅぅぅぅぅ!?ぅぅぅぅぅ!?」
ギフトの力が流し込まれた瞬間、顔から発熱する。
熱湯でも掛けられたのかというくらいに暑い以上に熱いとしかいえない熱が生み出された。
「ギフトの力を使いこなし、身体に馴染ませろ。これが出来ないなら、一生紋章の呪いと付き合っていくことになるぞ」
嫌だ……。
この熱と一生付き合っていくのなんか……。
博士が言っていた危険とはこのことだったんだと、紋章が刻まれてから後悔が募る。
「よく耐えたな1605番。あとはこの紋章が消えるように祈るだけだ」
「いの……る……?」
口枷を外され、拘束具を外されながら博士と会話をしていく。
あたしとの会話に「あぁ」と答えた。
「2週間程度以内だったかな。この紋章が消えればめでたくギフト陽性者。……しかし、それでも消えぬ者は一生ギフト陰性者のカカシだ」
あたしに博士は鏡を向けてきたのでそちらを凝視する。
そこにはあたしの顔をした者の左側いっぱいにクモの巣のようにおぞましく禍々しい紋章が刻まれていた。
触ってみると手が火傷しそうになるくらいに熱い。
自分の顔が醜いと幻滅するくらいに酷い……。
「さて、1605番には2週間の休暇を与えよう。君に限らず紋章を身に付けた者全員がもらえる休暇だ。あと、順番待ちをしている子供たちにその紋章が見られないように地下に幽閉させてもらうよ」
「っ…………」
何か博士が言っているがこくこくと頷く。
紋章の熱さのせいで人の話に集中出来ない。
そのままあたしは手錠をされて、地下の牢屋と博士が呼んでいた場所にぶちこまれた。
『いでぇぇよぉぉ』
男子が呻く声が地下に響き渡る。
あたし同様に苦しんでいる奴がいると思うと仲間意識が芽生えてくる。
牢屋内にはトイレ、鏡、寝袋しかない簡素な場所だ。
鉄格子を振り返ると下の方に長方形の小さい穴がある。
あの穴から食事でも渡されるのかと推理する。
「くっ……」
そろそろ考えるのが苦痛になり、よろめく。
そのまま苦痛に顔を歪ませて寝袋にまで移動し、横になる。
ひんやりした地面が気持ち良い……。
ホワイト博士の粋な計らいかな?と考えながら目を瞑る。
『あづぅぅぅい』
『だしてくれぇぇ』
『あ……!?あぁ……!?』
『ぶるぅぅぅぅぅぅ!ぶるぅぅ!』
何人かの苦しむ音がずっとずっと響く。
「ぐ……。やめろ……。やめてくれ……」
熱さくらいは耐えられる。
ただ、おぞましい声を出すな……。
『あつい……、たすけて……。おとうさん、おかあさん……』
『ここから出してください……、出してください……』
『苦しいよぉ……。…………助けて……』
わかったよ!
苦しいのも、助けて欲しいのも、熱いのも全部わかってる。
だから黙っててくれ……。
「はぁ……、はぁ……、やめろ……。わかったから……、やめろって……」
あたしに命乞いをしているわけじゃないのはわかっている。
わかっているけど、苦しい声を出すな。
やめろって……。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……。
声を聞くだけで、心が冷える。
もう、やめてって……。
「わかったてばぁぁぁぁぁ!」
耳を塞いで、寝袋に顔が埋まるようにして丸くなりながら奥に入り込む。
寝袋の温度が上がった気がして、紋章が強く疼く。
2週間なんて言わず、明日には死んでしまうんじゃないかという不安が襲う。
「怖い……、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」
ただ思いっきり目を瞑る。
見えていないのに、苦しんでいる子供たちがすぐそこにいるみたいで心が押し潰されそうになる。
聞こえない、聞こえない、聞こえない。
そうやって自分に言い聞かせて、目を瞑る力と耳を塞ぐ手の力が強くなる……。
地獄のような声は止まない……。
寝ていた記憶はなく、気絶していたんだと思う……。
そうでなければ、地下の牢屋でのんびり寝ているなんてあたしには不可能なんだから……。
あたしなんて生まれない方が良かった……。
時間が巻き戻って、あたしなんか存在しない世界に行きたい。
そう願った。
─────
『クハハッ!クハ!クハハハハハッ!』
「……?」
気付けばあたしの前に白髪の黒い肌の女の子が笑っていた。
何が面白いのかわからないけど、宙に浮きながらこちらを見下ろしていた。
施設では見たことない女の子だ。
ただ、その可愛らしい姿を見て『神様』と思ってしまった。
『なるほど、なるほど。生まれてこなければと願う者はたくさん見てきた』
「……?」
その神様は何が面白いのか、あたしに対しクハクハと笑いながら語り掛けてくる。
『時間が巻き戻って欲しい。──あぁ、ありきたり過ぎて飽き飽きする願いだ。ただ、自分が存在しない世界に行きたいと願うのは中々面白いではないか。幼いのに、世界を引っ掻き回す魅力がありそうではないか……。クハッ!』
そう笑うと、神様の姿が空気と混ざるようにして消えていく。
わけがわからない。
ただ、何かをあたしに期待している目をしている。
バッツ教官も、ホワイト博士もあたしには向けてくれない特別だと褒める目をしていた。
『お前に渡すのは1度きりの世界そのものを狂わす力だ。クハッ……、スイッチはお前が好きな時に押すんだ』
その声が届いたと同時に、この謎の夢は覚めた……。
─────
身体を起こし、鉄格子に目が行く。
数日ぶんの食事がお盆に載せられていた。
人生で1番量の多い食事がまさか牢屋に入ってからだとはと皮肉になり笑ってしまう。
「クハッ…………。じゃねーよ、けらけらけら」
何かが移ってしまったみたいで、慌てて訂正する。
その結果、大嫌いな男である1581番みたいにわざとらしく笑う。
変な夢を見ていた気がするが、『クハッ』とは誰の声だっただろうか?
数日ぶりに目を覚ましたからなのか腹ペコになり、近くにあったコッペパンに手を伸ばす。
味のしないパンを黙々と食べていると、声があんまりしないことに気付く。
みんな疲れたからなのか、単に時間帯が夜だから寝てるのか……。
時計も窓もないから時間がわからないので確認のしようがない。
「…………ん?」
そういえば常に熱を発していた紋章の辺りに違和感がない。
あまりにも普通過ぎて、パンを全部食べるまで熱が引いていることに気が付かなかった。
鏡の前に立ってあたしの顔を見ると、熱が消えていた理由に気付く。
「…………あ、紋章消えてる」
いつの間にか、あたし1605番は紋章を克服していたのであった……。
†
因みに深森姉妹が紋章を刻んだ時は麻酔をして、眠らせてから杭を打ちました。
1605番は痛み止めすら打ってません。
麻酔なんかしなくても身体を拘束しておけば大丈夫じゃね?と考えたのが『シャドウG』時代のホワイト博士である。
身体を拘束する方がコスパが良いのが理由。
決して嫌がらせではなく、コスパのため。
『ギフト享受の呪縛』はギフト所持者なら誰でも可能。
ギフトの力をギフト陰性者にわけ与えるのがこの紋章の真価である。
ただ、やり方がかなり難しい。
世間では非人道的なので禁忌扱いされている。
紋章にまとわり付く熱の正体は、ギフト陰性者の身体にとってギフトの力が毒だから。
ギフト陽性者でないと紋章を分解できないのである。
まさか10章でこの辺の説明をすっ飛ばしたどころか、考えてすらいなかったのに今更解説することになるとは思わなんだ……。
簡易的な登場人物紹介。
神様
『クハッ!』って笑う癖のある白髪褐色肌の幼女。
人の悪意が大好きなサディスト神。
退屈が死ぬほど嫌いだけど、めっちゃ可愛い。
今まで、あんまりヨルについての印象が良くなかったのですが、掘り下げていくと愛着が湧きますね……。
作者自身が1番秀頼成分に飢えてキッツい……。
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