4、十文字タケルは顔が赤い
「ちょっと良いかしら?」
机に突っ伏すタケルさんと、宥める山本さんというよくわからない図になっている2人に割り込むように私が声をかける。
「どうかしました……か?」
こちらに気付いた山本さんだが、いつもより何故かよそよそしい目でこちらを見ていた。
それと、少し恥ずかしさ混じりの声で目がキョドっている。
なんか、イケメンな彼が童貞なのがわかるウブさを感じる。
「ごめんね、山本さん。そちらのタケルさんに話があって……」
「え?俺の名前知ってるんすか……?」
タケルさんを呼べって言っているのになんで山本さんが聞き返すの?
しかも明智秀頼とは気付いてないらしい。
「あら?何を言っているのかしら?当然よ。山本大悟さんでしょ。長谷川雛乃さんと上手くいっているのかしら?」
「えっ!?」
「あらら、照れちゃって……」
いつもだと『彼女弄るな!』と突っ込まれるのに、今日は急に赤い顔になり恥ずかしがる態度を見せるのでその態度が面白くてクスクスと笑ってしまう。
「……ちょ、十文字!?誰だよ、この可愛い美人!?お前の知り合い!?もしかして彼女!?」
「……は?妹いるのに彼女いるわけないだろ」
「いや、その因果は関係ない。それより起きろって!」
山本さんが逃げるようにタケルさんを起こしにかかる。
あらら……。
ついさっきまで水掛け合って遊んでいたのに嫌われたかしら……。
山本さんと私の距離感が遠くなっているのを寂しく感じながら、机からタケルさんが起きるのを待つ。
「え?何、山本?」
「彼女だよ!彼女!お前の知り合いだろ!?」
「え?」
ギャルゲー主人公のタケルさんだもの、いつでも彼女を作るのなんか余裕なのに私を彼女だなんてそんなわけがないでしょうに。
私なんかヒロインではないもの、タケルさんの彼女なんて烏滸がましい。
「やっほ、タケルさん。起きた?」
「………………えっ!?」
「うわ、顔が赤いわよ?大丈夫?」
もしかして風邪かしら?
モロに水を浴びたのは私なので、風邪を引くならむしろ私だが、まさか水流をくらって体調でも崩したのかな……?
「だ、大丈夫っす!」
「そう?」
「はい!」
テンションのおかしいタケルさんに吹き出しそうになる。
親友を前にして、面白い態度である。
もしかして水で濡らしたことを怒っているんじゃないかとびびってたり?
まさかぁ?
全然私は気にしてないから慌てる必要皆無なのに。
「あの……」
「ん?どうしたの?」
「お名前をお尋ねしても?」
「あら?」
毎日会っているのにタケルさんの様子が変だ。
理沙!?大丈夫!?
兄貴の様子が変よ!?
「私の名前を忘れるなんてショックだわ……」
「!?い、いえ……。そういうんじゃなくてね!なぁ、山本!?誰だっけ……?」
「俺も知らねぇよ……」
「そんな……。山本さんまで私の名前を忘れるなんて……」
「え!?」
「だからぁ、私の名前は!」
男の友情なんて所詮そんなものなのね……。
たった30分程度会わないだけで名前を忘れるなんて……。
自分の名前を名乗ろうとした時であった。
「ちょっと兄さん!?だ、誰ですかこの美人で可愛い人!?兄さんの彼女!?」
「えっ!?ち、違うよ!?」
タケルがブンブンと手を振りながら、割り込んできた理沙の言葉を否定する。
そりゃそうよ。
現段階の彼女候補は理沙、三島、美月、永遠ちゃん、ヨルの5人なんだから。
「り、理沙の知り合いじゃないのか!?」
「え?知らないわよ」
「えっ!?」
「え……?」
理沙からも知らない扱いをされてしまい、多大なショックを受ける。
そんな……。
「え?理沙まで私のこと知らない……?」
「いや、知りませんよ……。授業始まるんで自分のクラスに戻った方が良いですよ」
「…………」
ガーン……。
本気で知らない人扱いで泣きそうである。
「酷い……。私は理沙が下着が外れる事件が多発しているからサラシを検討していることまで知っているのに……」
「って、なんでそんなこと知っているんですか!?」
「なんでって……」
こないだのキャンプでタケルが妹自慢ゲームで実際に口にしたことだから。
……と、そんなこと言えるわけないか!
私も星子に聞かれたらドン引きされそうなことを言っていたし、秘密だぜって3人で誓いあったんだった!
「み、見ればわかるでしょ……?」
「わかるわけないでしょ!?」
「ちょ、理沙!?失礼だろ、そんなこと言ったら!」
「ちょっと!?兄さんはどっちの味方ですか!?」
「ど、どっちって……」
タケルが私の顔色を窺うようにちろっとこちらに目を向ける。
大丈夫よ、タケル!
タケルは理沙が大好きだから私より理沙を味方したくて申し訳ないと伝えたいのよね!
私を味方しなくても、私は傷付かないわ。
「お、俺は……」
理沙に申し訳なさそうなタケルという目の錯覚のようなものが視界に写った時であった。
昼休み終了のチャイムが鳴り響く。
みんな慌てて席へと戻って行く。
「おっと、授業だ。それじゃあね、タケルさんに理沙に山本さん!」
3人に声を掛けて、俺は自分の席へと戻って行く。
次はギフト総合の授業ね。
机の中から教科書やノートを取り出して5時間目の授業に備える。
「ちょ、ちょっと!?」
「ん?」
隣の席の男子生徒から声を掛けられた。
私とはオタ友でギャルゲーを語り合ったりするが、他にもイラストが凄い上手かったり運動抜群だったりする言動以外のスペックが異常に高めである白田である。
「どうかしたの白田さん?」
「そ、そこは明智氏の席でござるよ……」
「知ってますよ」
何を言っているんだろう……?
そう思っていると、なんかクラスの視線が全部私に向かっている気がする。
絵美も、理沙も、咲夜も、永遠ちゃんも、ゆりかも、ヨルも、美鈴も、タケルさんも、山本さんもこちらを向いている。
「…………」
なんか居心地が悪いなと思いつつ、次のギフト総合の授業になり、担当する瀧口雅也という教師が現れた。
「よーし、授業をする…………ぞ?」
教師まで私を見てくる始末であった……。
†
因みに円は体調不良で休んでいます。
しれっと主人公とギフト狩りのリーダーがエンカウントしている瞬間である。
次回、なんかみんなこっちを見てくる……。
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