17、月【敵】

「素晴らしいぞ、美月!」

「ありがとうございます」

「まさか1日で紋章の呪いを克服するとは……」


次の日、周囲の人々は驚いた。

わたくしの顔の紋章が消えたこと。

今日1日中受けたギフト適性検査も結果待ちだが、『ギフト享受の呪縛』を克服した=ギフト陽性であるのは確実と言われているので間違いないだろう。


「肝心のギフト覚醒はしたのか?いや、流石にそれは気が早いか……」


お父様は興奮したとばかりに椅子に深く腰を掛けるが、なんとなくわたくしは自分がギフトに覚醒している感覚があった。

そういうお告げがあったなんて言うと変だが、なぜかギフトを使える確信があった。


「ギフトを使えますよお父様」

「な、何!?」

「ちょうど条件も良いですね」


わたくしはお父様の部屋のカーテンを開ける。

昨日よりは小さくなってしまったが、尚美しい月が窓の向こうにあった。


「美月?」

「わたくしのギフトにはどうやら使用条件があるみたいです。…………多分今なら使えます」

「み、見せられるのか?」

「はい。これから、わたくしがギフトを使ってみせます」


窓を開ける。

気持ちの良い風がわたくしの金色の髪を揺らす。

「見ていてください」と声を掛けて、深く息を吸った。


「ギフト使用。──『月だけの世界』」

















「これがわたくしのギフトにございます」

「素晴らしいじゃないか美月!」

「は、はい!」


わたくしのギフトはかなり条件の厳しいモノであり、使い勝手も悪いとかいう次元ではない。

ただ、それでもお父様に認められたことが嬉しかったし、誇らしかった。


そのまま、お父様の部屋を出て廊下を歩くと美鈴の姿があった。


「お姉様!」

「美鈴」

「おめでとうございますお姉様!お姉様が認められて美鈴も嬉しいです。美鈴の誇りです」

「ありがとう美鈴……」


嬉しくなり、美鈴の頭を撫でる。

健気な美鈴が可愛くて仕方ない。


「お姉様、美鈴と一緒に深森家を守っていきましょうね!」

「ああ!」


美鈴と拳を合わせる。

これから双子一緒に家を守る。

そう、2人で誓いあった。


でも、この日が美鈴がわたくしに甘えてくれた最後の日であった……。









次の日。

美鈴は見当たらなかった。

使用人に美鈴の居場所を聞くと『お父様へ連れて行かれた』とのことだった。

それなら仕方ないかと思い、1人で学校へ向かった。


双子の片割れの美鈴がいないことが、常に後ろ髪を引っ張られる違和感がある。


学校で数日振りに永遠と雑談をしながら勉強をしても、どこか引っ掛かりがある。


上の空のまま、帰宅すると美鈴の靴はある。

急いで美鈴の部屋を見るも姿がない。

それから心当たりも探すもどこにもいない。

そうなると多分、お父様の部屋にいるのだろう。


そのまま部屋で1時間勉強していた時であった。

お父様の部屋が開く音がして、わたくしは廊下に出ていく。

そのまま歩いていると美鈴が歩いていた。


「み、美鈴!」


1日振りに見た美鈴に近寄る。

いつもなら『お姉様!』と駆け寄る美鈴であるが、今日はそれがない。

近付いていくと、わたくしは嫌な気配がした。


「熱い……。熱いの……」

「な、んで……?なんで美鈴まで……」

「顔が熱いのぉ……、お姉様……」


『ギフト享受の呪縛』が刻まれていた。

美鈴にはこの魔術を施す予定はサラサラなかったはずだったのにどうして……?

すると、美鈴の後ろからお父様の姿が現れる。


「美月が素晴らしいギフトに覚醒した。ならば、美鈴もその素質があるはずだ」

「お父様……?」

「当然、母さんも承諾済みだ。美月、美鈴を頼むよ」


お母様も許可済みならわたくしからは何も言えない。

美鈴を任された以上、わたくしは美鈴に付く。


「熱い……。熱いよ……」

「大丈夫だ、美鈴!わたくしも苦しんだが1日で消えたんだ!美鈴だって大丈夫さ!」

「本当に……?」

「本当だ」


美鈴はあまり強くない。

だから多分、わたくし以上に苦しいかもしれない。

そのまま、美鈴に肩を貸しながら部屋へ連れて行く。


「それにしても何故美鈴まで『ギフト享受の呪縛』を?」

「お、お姉様が素晴らしいギフトを覚醒させたのだから美鈴にも出来るってお父様が……。あつい……」


美鈴の額の汗をタオルで拭き取る。


「熱いならおでこを出しておくと良い。カチューシャを付けておけ」


美鈴にアドバイスをしながらカチューシャを頭に付ける。

後は部屋の窓を開けて涼しい環境を作る。


「楽になったか……?」

「は、はい……」

「…………」


自分の鏡で見たおぞましい紋章が怪しく伸びる。

第三者視点で見るとこんなに酷い惨状になるのか。

ただ我慢するしかない。


「大丈夫だぞ、美鈴。絶対に治るから。絶対にこの苦しみは終わるから……。耐えるんだ、耐えるしかないぞ」

「うん!あ、熱いけど……、美鈴は耐えるね……」

「ああ!がんばるんだ美鈴!」

「……絶対に終わるんだよね、この苦しみ?」

「ああ!見ろ、わたくしの顔に紋章の痕すらないだろ。大丈夫だ」


そういって弱っている美鈴を励ましてその日は終わる。

1日経っても美鈴の紋章は消えなかった。


「大丈夫だ。お父様は1週間苦しんだという。人によって違うんだから」

「……この苦しみを1週間……?」

「お父様は凄い人だよな。だから今日は休むんだ」


しかし、もう1日。

もう1日。

1日。

…………。


1週間が過ぎても呪いは解けない。

1ヶ月が過ぎても呪いは解けない。







「…………お姉様のウソ付き」

「美鈴……?」


今まで、喧嘩なんかしたこともなかった大人しい美鈴から恨む声がした。

一瞬空耳かと思うくらいに、いつもの声とは別人だった。


「いつ!?いつ治るの!?……いつこの呪いは解けるの!?…………美鈴、ずっと我慢したんだよ?今も熱い……。苦しい……。鏡も見たくない!なんで!?いつ、この呪いは解けるの!?」

「美鈴……。お、落ち着け」

「落ち着いているわよっ!なんなの、お姉様は1日で呪い解けたみたいなマウントしてさ!全然解ける気配がないじゃないの!」

「ち、ちが……。そんなこと……」

「何が違うの!?言ってみてよっ!」

「…………」


なんで……?

なんでわたくしは呪いを解けたのに、美鈴には解けないの……?


「…………お姉様が妬ましい。お姉様が憎い。お姉様が1日でギフトを覚醒させる才能なんかなければ美鈴はこんな思いをしないで済んだのに……!」


美鈴は、わたくしを敵を見る目で睨み付けていたのであった……。









第10章 月と鈴

第248部分 5、深森美鈴

にて、美鈴がおでこを出している理由は顔が常に熱いために露出しているから。

前髪が鬱陶しいため。


拗れた姉妹仲書くのが楽しいです。

秀頼と星子の仲を拗れる初期案もあったがボツになったので、そのぶんこの2人で補いたいです。

美鈴の劣等感が凄く大好きです。






次回、拗れる……?

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