26、津軽円は秘密を明かす
変な反応ばかり見せる円に困惑する。
こちらは真面目な会話をしているのに、どうしても邪魔したいらしい。
「その子さ、ピ●チュウ好きな子でさ」
「私も!私もピ●チュウ大好き!」
こんな風に円は茶々を入れてくるのだ。
ふざけてんのか?
「でもさ、その子転生した先で出会った人を気になってるらしくてさ……」
「え?え?え?」
「幼馴染、親友の妹、喫茶店の娘、推しキャラ、その人の妹、実の妹、ストーカーA、ストーカーBに想われているのに全然気付かない鈍感野郎を思うと胸が苦しいんだって……」
「明智君じゃん!まんまじゃん!」
「は?俺は鈍感じゃないですが?」
「バカな人ほどバカじゃないって言い張るものでしょ!」
「失礼な。俺ほど鋭い男子居ねえぞ」
ヨルのタケルへの矢印をなんたって見えてるからな。
鈍感なんかサヨナラバイバイよ。
「てかなんでぇ!?なんで明智君が1年後死んじゃったとかそんなこと知ってるのー!?」
「夢にね、来栖由美さんって言う俺が前世で好きな子が来たから教えてもらったんだよ」
「なんで来たの私!?私がそんなの知らないんだけど!?」
「円には関係ない人だからね、ははっ」
円の反応が面白くて笑ってしまう。
焦ってるみたいな感じでテンション高くて草生える。
俺の前世の名前は教えなかったけど、前世の好きだった人の名前は流れで挙げてしまい恥ずかしいな……。
授業参観みたいな恥ずかしさがある。
明智秀頼になってからは1度も来ないようにおばさんに言ってあるから授業参観の経験ないけど。
「あ、明智君!」
「あん?」
プリンをスプーンで掬っていると円に呼び止められる。
あー、来栖さんのこと知られたし弄られるかもしれねーなと思い、掬ったプリンを一口入れて紅茶を口に含む。
「わ、私の前世が来栖由美だよ」
「ブッ…………ッ!?」
リアルでお茶を吹き出しそうになったのを我慢して、無理矢理お茶を流し込む。
すると、変なところにお茶が入っていき、むせる。
「ゲホ、ゲホッ……」
「だ、大丈夫……?」
「お、お前っ!?言って良い嘘と言って悪い嘘があるだろがっ!?」
マジで今日1日でエニアのみならず円まで来栖さんを弄ってくるとは思わなかった。
みんなして来栖さんを侮辱すんじゃねーぞ。
「ご、ごめんね!明智君!」
「ったく……。不謹慎なこと言うんじゃないよ。もう俺は過去を捨てて叶わない前世の恋愛感情を捨てたんだからデリケートな部分に触れないでくれ」
だから俺は新しい一歩として、原作が終わったら恋愛をする気で考えている。
正直、俺が選べる立場ではないが、原作を終わらせた後くらいは女の子とイチャイチャして結婚とかしたい!
「よし、じゃあ原作の打ち合わせしようぜ。タケルがよ」
「と、豊臣君!」
「…………僕は明智ですが?豊臣秀頼とごっちゃになるなよ」
びっくりした。
円の声で、来栖さんみたいなイントネーションで『豊臣君』って呼ばれてドキッとする。
「私が前世で好きだった男の子の名前……。豊臣光秀君って名前だったんだよ」
「え?え?」
豊臣光秀?
な、なんか聞き覚えあるなぁ?
どこだっけなぁ?
なんか俺の両親の変なネーミングセンスを彷彿とさせる酷い名前だ。
明智秀頼並みに酷い名前だ……。
「それで、私は来栖由美」
「……は、ははっ。冗談やめろよ」
そんなわけないだろ?
偶然でしょ、だってあり得ないもん。
なんで来栖さんが『悲しみの連鎖を断ち切り』をプレイしてんだとか色々わけわかんねーもん。
「私の理想はね、剣道が強くて、手品が上手な人。挫折しても立ち上がって前向きになれる様な芯が強い人。私だけが意識していると思ってたらお互いが意識していて、私が倒れた時も優しく直行で保健室に駆け込んでくれる人だね」
「ははっ……。なんだよそれ……」
数年前に聞いた円の好きな理想のタイプであり、和に『ちょっと処女拗らせ過ぎですね』と一蹴された言葉。
あの時はどんな奴だって突っ込んだけど……。
来栖さんから見た俺のことだったのか……。
「来栖……さん?」
「うん!久し振りだね、豊臣君!」
俺が度々円と来栖さんが重なっていたのは偶然じゃなかったのか……。
「そんなデスティニーなこと、起きるのか……?」
「起きますよ!あと、関係ないけど急に『デスティニー』とかいう単語が出て驚きました」
「じゃあ横文字NGだね」
なんでもありなゲームの世界とはいえ、ちょっとなんでもあり過ぎやしないか……?
どうせこれも夢なんだろ……?
「…………」
「あ、明智君完全にオーバーヒートしてますね……」
「…………関係ないけど急に『オーバーヒート』って単語が出て驚いたよ」
「ふふっ、じゃあ明智君も横文字NGですね」
「…………」
円ってこんな表情も出来たんだなとか色々と関係ないことを考えてしまう。
誰かこの状況を説明してくれ……。
「…………」
「あ、完全に明智君魂が抜けかけてる……」
「…………ッ」
「あ!顔が真っ赤になって可愛い!」
「ッ……!?ん…………、ごめんちょっと何を喋ったら良いのか……」
「うん、なるなる。……私もなったよ」
経験者は語るともいうべき態度だ。
円の反応から考えていくと、ダークサイドウーマン円の態度が一変したのが三島遥香の『エナジードレイン』で気絶した出来事の様に思える。
ちょうど来栖さんが登場した夢の日だ。
あの日、円が見舞いに来ていた。
もしかしたらうわ言で来栖さんの名前を口にしてしまったのかもしれない。
「俺……、来栖さんにゴミクズ扱いされてたのか……?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!本当にごめんなさいぃぃぃぃ!」
「だから怒ってねーから!」
茶化さないとやってられなかった……。
「ご、ごめん円……。ちょっと頭を整理してからゆっくり話そう」
「うん。待ってるよ。ずっとずっと待ってたんだから。だから、いっぱい話そうね」
円は涙を流しながら、俺の胸に顔をうずめる。
やっぱり、感触も声も雰囲気も匂いも全部来栖さんとは別人だ。
そりゃあ、気付くわけねーよ……。
気付けたのが奇跡だし、近くにずっと居たのが奇跡以上のなんかだ……。
俺もわけがわからないまま目に涙が浮かぶ。
実感出来ない再会を果たし、俺は胸の位置にあった円の髪を撫でる。
来栖さんと身体は違えど、精神は同じ。
自分と同じことが起きている少女を力強く抱き締めた。
†
剣道が強くて、手品が上手な人。挫折しても立ち上がって前向きになれる様な芯が強い人。私だけが意識していると思ってたらお互いが意識していて、私が倒れた時も優しく直行で保健室に駆け込んでくれる人
この言葉の初出は、
第5章 鳥籠の少女
第44部分 1、中学生はじめます
和に『ちょっと処女拗らせ過ぎですね』と非難されたのが
第6章 偽りのアイドル
第101部分 4津軽和はガチ説教をする
次回、失敗。
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