32、細川星子は気にする
三島と別れ、疲れた身体を引きずり明智家へ向かう。
『エナジードレイン』の威力はゲームでは実感がなかったが、かなりしんどい……。
家族全員を白骨にするし、絵美を殺すことになるまさに危険の塊みたいなギフトは遅かれ早かれ制御する術を教えないといけない。
「ぅ……」
なんの役得もなく、なんでこんなことやらなくちゃいけないのかと投げ出したくなってくる……。
真夏のエアコンがない武道館で3時間くらい防具着て竹刀振っていた時くらいにキツイ……。
あの時よりは汗が少ないのがまだ救いか……。
原作の秀頼はちょっと努力の方向音痴過ぎないか……?
もうちょっとどうにかならないもんか……。
「っ……」
三島遥香に関わったことを後悔しそうだ。
3年放置しても何もなかったんじゃねーかと思う。
……けど。
……永遠ちゃんと同じで孤独を感じる目をしていた。
あの目を向けられると、剣道を失った自分と重ねて干渉してしまう。
俺だって常にクズでゲスな悪魔の明智秀頼に転生して孤独を抱えている。
円とマスターみたいな俺の事情を知る人が居なければ多分潰れていた。
本当に感謝しかなくて頭が上がらない2人だ……。
あー、やってらんねぇ……。
やらなくても良いことに本気出して、後先考えない自分が嫌になる。
三島のことは嫌いじゃない。
本気で助けてやりたい。
……でも、俺はこんなことをして三島を助けられているのかな?
突然現れてありがた迷惑とか思われたら本気で凹む……。
本当、俺って主人公向けな性格じゃねーよなぁと文句ばっかりの自分に苦笑していた。
タケルみたいな普段は無能だけどいざという時に頼れるみたいな奴の方がモテるよなぁ……。
山本みたいに顔がイケメンだとモテるよなぁ。
自分を見つめ返しながらの帰宅をする。
自分の家が見えてきた頃、見慣れた人影が家の前に立っていた。
スタチャと同じくツーサイドアップにしている髪を揺らして細川星子が立っていた。
「よ、よぉ!星子!」
「あっ!?お兄ちゃん!」
声を掛けると、嬉しそうに微笑む星子の顔に俺の表情も緩む。
『エナジードレイン』の疲れなんか吹っ飛んだ。
今ならギフト耐性を付けなくてもいけそうである。
「どうした?こんなところで?」
「いや……。高校入学してから全然会えてなかったから顔が見たくなって来ちゃった」
「そっか。仕事も大変だろうにご苦労様だな。まぁ、上がれよ」
「はぁい!」
中学時代はちょくちょく遊んでいたけど、高校入ってからはめっきりそれも無くなり、ベッドで悲しくて嘆いた時もあった。
今日も、三島が廃墟に来る前は星子に会いたいとか思いながらスタチャの情報を眺めていたのでベストタイミングであった。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
俺と星子で順番に声を出すとおばさんが顔を見せる。
「お帰り、秀頼。その隣の子は?」
「あぁ、そういえばおばさんは知らなかったんだっけか……」
星子に対してちょっと目を丸くするおばさん。
多分おばさんが見たことあるのが、絵美とタケルと理沙くらいかな。
咲夜は親戚だから知っているはずだ。
おばさんとマスターが姉弟なのに、一緒に会話してるところを見たことないし、話している図が全然想像出来ないのは、知り合いの共通認識である。
いつかおばさんとマスターの姉弟会話を見てみたいものである。
マスターが立場下になるのはなんとなくそんな気がするけどね……。
「はじめまして、私の名前は細川星子と申します」
「星子、ちゃん?」
「はい。秀頼さんの妹になります」
「あらあら、弟や秀頼から話には聞いていたけど……。目が秀頼にそっくりね」
「ははっ、そうですね」
「ゆっくりしていってね」
そう言っておばさんは星子に優しい目を向ける。
明智家には関係ない出自のおばさんだけど、どこか嬉しそうな目だ。
「おじさんにご挨拶は……」
「しなくて良いよ。多分今は仕事行ってるし……」
「あはは……。そうね、あの人は今家には居ないわ……。クッキーとコーヒー入れるから部屋に行ってなさい」
「はーい」
おばさんが俺の叔父さん嫌いセンサーに反応したのか俺に部屋へ行くように促す。
ちょっと星子はきょとんとしているけど、本当にそこは触れてはいけないデリケートなところだから知らない振りをする。
そのまま、俺の部屋へ星子を招き入れる。
そして、聞いてみたかったことを聞いてみることにする。
「目が俺にそっくりとか言われて気にしない?」
「どうしてですか?」
「いやぁ、……俺って目付き悪いし……」
「全然気にしないですよ。スタチャになる前はコンプレックスでしたけど、むしろ今はこの目が誇らしいです」
「そう、なの?」
「はい!」
星子がにっこり笑う。
その笑顔に、俺も笑顔になり、嬉しくなる。
「絵美先輩や色々な人から『お兄ちゃんと同じ目をしてる』って言われると、私も嬉しいんです」
「そっか……、なら良かったよ」
でもな、星子?
俺、本当はお前の兄ちゃんじゃないんだ……。
本当の兄ちゃんは俺の中にいる……、こいつなんだ。
…………こいつじゃなくて、俺で良いのかな?
それからすぐにおばさんがやってきて、市販のクッキーとマグカップ2つを持っておばさんがやって来た。
それを星子が頭を下げながら受け取っていた。
「ごゆっくりー」と役目を終えたおばさんが部屋から出て行った。
「……お兄ちゃん、叔父さんと仲悪い?」
「……」
おばさんが消えると、女の勘が反応したのか単刀直入に星子から叔父さんについて聞かれる。
凄いデリケートなところだから何を伝えようか……。
毎日俺と叔父さんの両方のやり取りをするおばさんは大変だなぁとつくづく思い、おばさんには頭が上がらない。
それくらい、俺にとって叔父さんの話題はおばさんともタブーになっていた。
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