36、細川星子の末路

ーーズシャ、ズシャ、ズシャ。





突然、私の顔に血が降ってきた。

ギフト狩り3人は私の目の前に倒れて死んでいた。


何が起こったのか、わけがわからなかった。



「大丈夫か……?」


私に中年の男性が声をかけてきた。

純粋に私も年を取ったらこんな感じのおばさんになっていたんだろうな……。


口をパクパク動かすも声が出ない。

せっかく助けられたのにもう死ぬしかない運命だと悟った。


「タケル、ギフト狩りこいつら全員殺してやったぜ」

「あぁ、ありがとう。流石ヨルだ」


その横にまだまだ幼い10歳くらいの無邪気な女の子が赤く濡れたコンバットナイフを持って笑っていた。

親子、かな……?


わからない、どうでも良い。


「クソッ……。また助けられないのか……?おいっ、起きてくれ!声を出してくれ!?ギフト狩りに負けるな!これからは俺たちが護ってやるからっ!起きてくれっ!」


男性が私の身体を揺すっているのがわかる。

起きたいのに、骨が折れて立てません。

返事がしたいのに、声が出ない。


「おい、タケルのギフト効果出てる」

「ん?顔が変わった?…………まさか……?おいっ!?あんたもしかして秀頼の妹かっ?なぁ、そうだろ!?あんたあの時走って行った細川星子ちゃんだろ!?顔を変化できるギフト持ちだしそうなんだろ!?星子ちゃん!?星子ちゃんっ!!」


あの時っていつだろ……?

何を言ってるのこの人?

……そういえば学校でなんかそんなことあった気がする。



あれ?


年相応の姿になっているのか手に衰えたシワがある。

今日は出勤する時の若作りをした姿にしていたはず……?

……もしかしてギフトが解けた……?


昔を思い出したからギフトが解けたのか。

死ぬ直前だからギフトが解けたのか。


そんなの今更どうでも良い。


「なぁ!?俺は十文字タケル!明智秀頼の唯一の親友なんだよっ!よく見たら、目もあいつそっくりで良い目だ……。間違いない、君は星子ちゃんなんだろ!?

……っ!なぁ、死なないでくれ!頼む、秀頼の唯一の家族はあんただけなんだ!

俺はずっとずっと君を探していたんだ!何年も探していたんだっ!……ずっと探していたんだよ!

スターチャイルドも俺大好きでさぁ!公式ファンクラブのメンバーに入ってるし……、未だに君の音楽を聴いているんだぜ!

スターチャイルドはまだ引退してないだろ!?活動休止しただけだろっ!?

またステージに立って俺たちファンを湧かしてくれよっ!

なぁ……、頼むよ……、生きる希望を見せてくれ……

あんたはまだ、秀頼のところに行っちゃダメだっ!苦しんだんだろ!?あんなに酷い誹謗中傷の嵐の中20年間独りで生きたんだろ!?

たくさん苦しんだんだから報われなくちゃおかしいだろっ!?」




お兄ちゃんを親友って。

そんな風に言ってくれる人いたんだ。



お母さんに捨てられても。

私をまだ本気で心配してくれる人いたんだ。



私のために涙を流してくれる人いたんだ。



私の苦しみを理解してくれる人いたんだ。



偽りのアイドル・スターチャイルドの曲をまだ好きだって言ってくれる人いたんだ。



そういえばまだスターチャイルドは引退してなかったんだっけ?

はじめて復帰を望まれた。



それだけなのに、私の人生は報われた気がした。






もっと早く、お兄ちゃんの親友さんに会いたかったなぁ……。



お兄ちゃんも混ぜた3人で遊んでみたかったなぁ……。












最期に、必要としてくれて……。












ーーありがとう。





















「ダメだ……。既に息がない」

「俺、約束守れなかった……。星子ちゃんに何年かかっても悲しみの連鎖を断ち切るって言い切ったのに……。助けるって誓ったのに……

結局殺してしまった……。ごめん、秀頼……ごめん、星子ちゃん……

俺はまた……、大事な人を失った……」

「タケル……」

「神様よぉ、ギフトなんて配る暇あるなら、この地獄を終わらせてくれよぉ!」

「…………ごめん……もっと早く駆け付けられたら助けられたかもしれない……」

「いつになったら……、悲しみの連鎖は断ち切れるんだよっ!?

なぁ……、大切な人を何人奪えば気が済むんだよっ!

教えてくれよ理沙ぁ……教えてくれよ秀頼…………誰か、教えてくれ……

なんでみんな……、俺を置いていくんだよ……

楽しかったあの学校生活は、本当に存在してたのか……、それすらわかんねーよ……

この終わらない地獄はいつ終わるんだよっ!」






男の後悔の叫びと泣き声が、いつまでも私の耳に反響していた……。






ーーーーー




「……」


その日は、とても最悪な目覚めだった。

お兄ちゃんと会う日なのに、とても寝れない夜だった。


「どうして、こんなにもお兄ちゃんに会うのが怖いって思うんだろう……?」


目からは涙を浮かべているし、心臓が握られているみたいに酷く気持ち悪い。

夢の世界と今いる現実の世界で、どちらが本物の世界なのかもわからない。


「怖い、お兄ちゃんに会うのが怖い……」


ファンレターでたくさん綴ってくれた。

私の前で想いをぶちまけた。

とても優しく、周りには笑顔が絶えない人であった。

そんな人相手でも、やはり秘密を打ち明けるのは怖い。


「お兄ちゃん……、あなたは素敵な人ですか……?」


一言で良い。

『可愛い』って言ってくれるだけで私は満足です。



気付けば私の身体は震えていたのであった……。







第6章 偽りのアイドル

第121部分 23、十文字タケルはラブコメを語る

秀頼が語っていた、世紀末な世界観や明智秀頼を殺してもハッピーエンドにはならない真相。

『悲しみの連鎖を断ち切り』・クズゲスの世界は、いずれギフトを巡った対立や争いが絶えない世界に直結します。


理沙ルートや永遠ルートなど、秀頼を殺したところでギフトをめぐる人間の対立問題は何も解決しないため、この結末に直結します。

タケルや他の人物が秀頼を殺害していても、正当防衛やそれに近い扱いになったりします。

すぐに釈放されるか、逮捕自体されません。

秀頼の方がよっぽど罪を重ねています。


この中年タケルは、ヒロインも子供も亡くしています。

このタケルが誰ルートを攻略したかはわかりませんが、ヒロインが理沙・永遠であれギフト狩り集団に殺害されています。

※もしかしたらギフトが陰性である永遠ならば、タケルと結ばれてなければ生存している可能性はあり。

原作に登場するギフト所持者であるキャラクターはタケル以外はほぼ死亡していると解釈をしておいてください。

タケルと一緒に活動している彼女は誰でしょうね?


またこの過去編では、秀頼死亡が高校2年生、星子が高校1年生でタケルと同じ学校だったため、タケルも星子に声をかけられましたが、

秀頼死亡が高校1年生、星子が中学3年生の場合は、タケルとは違う学校なので当然星子はタケルに声を掛けられません。

その場合は、1ページ前のタケルとヨルによる救出シーンなしでそのままギフト狩りに殺害されます。

タケルと星子はあのすれ違いが初対面です。


ゲーム内ではタケルと星子が秀頼死亡以前に知り合うルートがないため、タケルから攻略されないので大体どのルートでも同じ末路を迎えます。

偽りのアイドル編は、タケルがヒロインと結ばれたゲームED後の物語になるので『悲しみの連鎖を断ち切り』のファンもこの出来事のことは知る由もありません(光秀らも知る由がない出来事)。

言うなれば、タケルがハッピーエンドを迎えた裏側の物語であり、ほぼ必ず星子が不幸になります。


原作の明智秀頼は、スターチャイルドのファンではありません。

名前くらいは知っている程度しか認知してません。

そもそもテレビとか見ないし、アイドルも興味ありません。

タケルは原作でもスタチャ推しですが、秀頼が興味ないため、ほとんど秀頼の前ではスタチャの話題は出しませんでした。

星子の存在も、叔父夫婦との仲も険悪だったため、妹が存在することすら知らなかったし、聞かされていたとしても興味も何もなかったでしょう。

秀頼君も、原作の秀頼も本当の両親についてまったく興味がないのは共通しています。

生きてても、死んでても迷惑しか掛けない厄介な存在。


星子は絵美・咲夜と同じく、原作をなぞると不幸になり死亡に直結するキャラクターです。

ランダム分岐によるタケルに看取られるくらいしか救いはありません。

タケルがきちんと助けに来るルート……、無能じゃないタケルはタケルじゃないので……。




次のページは一切シリアス引きずりません。


次回予告

人が来ないマスターの喫茶店を見かねた秀頼が頭を捻らせる……?

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