23、十文字タケルはラブコメを語る

教室内。

絵美とタケルと咲夜と同じクラスなわけだが別に彼女らとばかり会話をしているわけではない。

俺は男子との交流も多いのだ。

その中でも特に山本グループの3人の交流も多いのだ。


「明智よぉ、聞いてくれぇ!」

「どうした山本?」


彼らとは別に河原で殴り合いをしたとか、共通の敵を倒したなどの絆を深めた出来事は何もないが、仲はそこそこ良い。

原作には登場しないし、していたとしてもモブくらいな人だとは思う。


「最近、転校生と幼馴染と教師の3人で争うラブコメ人気じゃん」

「あれ面白いよな。単行本は買わないけど、ネットで読んでるわ」

「つい読みふけるよな」

「時間忘れますねぇ」


いかにも男子学生な会話ができるのが楽しい。

あとは前にやったみたいな恋バナとかもよくしている。


「絶対転校生勝つよな」

「露骨だよなぁ……。1・2巻どっちも転校生表紙だし。出番多いし」

「絶対幼馴染のが可愛いよなー」

「わかるー」


今日はラブコメマンガの会話で盛り上がっていた。

ギャルゲー好きは大体セットでラブコメマンガも読むのだ。


「スポット当てまくるからくっつける気満々じゃん感やめてほしーわ」

「だいたい1巻表紙の子勝つでしょとか思うと萎えるよね」

「公式サイトで1番に紹介されるとか、アニメのキャスト紹介で主人公の次にクレジットあるとかな」

「酷いネタバレみたいで好きになれませんねぇ」


ああいうの、どうにかならないのかなとかよく考える。

負けヒロインばかり好きになる人の気持ちがわかりすぎる。


「ラノベでもありがちよな。最初に出た子とくっつくやんみたいなね」

「最終盤に出たヒロインが大勝利してる作品ないよな?」

「出来レースみたいですねぇ」


野郎4人でラブコメ・ラノベあるあるで盛り上がる。

確かになぁ。

主人公の双子弟が死ぬ有名野球マンガも序盤から出番が多かった幼馴染が勝って、終盤に登場したアイドルが負けたりなど、なんか序盤から出てる子が勝ちみたいな風潮好きじゃないんだよな。


「ちいせぇ事に悩んでんなぁ、おめーら!」

「十文字!?」


『待ってました』と言わんばかりなタケルの登場であった。

そのまま山本や西山に近付きながら力説を始める。


「聞け、山本!良いか?大体負ける実妹に比べればヒロインレースに混ざれるだけマシじゃねーか!」

「た、確かに……!」

「俺は……、俺は……、ラブコメで悔しい思いを100回以上してきたんだ……」

「お、落ち着いてよ十文字君。僕も同じ気持ちになったことがありますねぇ」

「秀頼!実妹エンドのないラブコメが嘆かわしくないか!?」

「腋に魅力がなければヒロインじゃねぇ!」


野郎5人のラブコメヒロイン談義は大盛り上がりになった。

タケルがフィクション作品でも実妹応援するのは意外だった。







ーーーーー






「ラブコメなんだから血の繋がりとかなんだってよく思うぜ」

「はぁ……」


タケルと一緒に移動教室をしていても、まだ語り足りないのかタケルは実妹談義をはじめていた。

理沙ルートで血の繋がりがどうこうなる主人公のセリフとは思えない。

『悲しみの連鎖を断ち切り』の『禁断の恋愛』シナリオの理沙ルートが大体そんな内容である。


「もし俺がギャルゲーの主人公だったり、ラブコメマンガの主人公だったりしたら理沙を攻略しまくるね」

「…………」


何言ってんだこいつ?


既にあるんだよ。

君が主人公のギャルゲーにコミカライズに小説にアニメとメディア展開しまくったんだよ。


しかもギャルゲーの個別ルートでしか理沙攻略ないんだよ。

大体お前、どの媒体でもメインヒロインのヨル・ヒルとばっかり結ばれるじゃねーか……。

嘘ばっかりだな、この無能主人公。


宮村永遠ルートだけで専用コミカライズしてたな。

濃厚なタケ×トワのいちゃラブシーン追加、秀頼の胸お触り削除、ヨルが秀頼にトドメを刺すシーンをタケルがするなど結構展開は違うけど、タケ×トワ信者ならまず持っとけと言われるオススメの一冊だ。

原作の『自首を勧めるためにわかりあおうとした』原作のタケルが秀頼を殺害してしまい、ゲームの行動と矛盾してしまうが、そんなのもはや些細なことである。


「男2人でラブコメ談義はださいっすねー秀頼先輩」


廊下とすれ違い様に声をかけてきたのが、津軽の妹の和であった。

もう1人、和の付き添いをしていた女性がペコリと頭を下げる。


「聞いてるこっちが恥ずかしくて耳をふさいじゃいます」

「じゃあ聞かないで素通りすれば良いじゃないか」

「秀頼先輩の弱点や恥を暴いてガールズトークのネタにするんです。大盛り上がりします」

「なるわけないだろ!」

「……ガチっす」


和がボソッとなんか呟いていたが、小さい声で聞き取れなかった。

バカにされた気がする。


「そっちの子は和ちゃんの友達か?」

「はい!そうなんですよ!せーちゃんです!」

「こ、こ、こ、こんにちは」

「緊張しなくて良いよ。こんにちは。ん……?んん?……せーちゃんの持ってる教科書を見る限り次は理科の授業かな?」

「そうなんです!実験です!実験!」

「あはは、のーちゃん楽しみにし過ぎ」

「……」


タケルには気持ちの良いにっこりした笑顔で返事をする和。

納得いかない。

ギャルゲーの親友役を見る度に可哀想と思ったが、自分が親友役になると、全部タケルに好感度が持っていかれていた気もする。


「じゃあ、また会いましょう!タケル先輩と隣の人」

「露骨な差別をやめろ!なぜタケルには普通に接して俺はこんな扱いだ!」

「え?なんですって?」


難聴スキルが発動して質問を却下された。

無敵すぎる。

根本的に津軽姉妹と俺の相性が悪いんだと思う。


「あはは……。では、どうもです。明智先輩、十文字先輩」


苦笑しながら挨拶を交わし、和と一緒に女子生徒のせーちゃんと呼ばれた子が廊下の奥へと消えていった。

出会って騒いですぐに消える。

存在感は台風かよ。



……ん?

和と同行していた子に俺たち名乗ったか?

和の口から俺とタケルの名前は出たが、名字は一切なかったはず。


……もしかして、ギャルゲー主人公と悪役親友として俺たち2人結構有名だったりする?


「あっ、こんにちは和ちゃん」

「理沙先輩、ちーっす」

「こんにちは」


ちょうど和ちゃんとせーちゃんと呼ばれた女の子は理沙とすれ違い、俺とタケルのところへやってきた。


「どうしたの兄さん?そんな考え込む顔して?」

「…………」

「おい、タケル?」


和たちが消えていったのに動こうとしないタケルに異常を感じる。

しかも理沙から声をかけられているのに、返事すらしない。

ずっと立ち止まり何かを抱え込んでいる。

同じく名字を名乗ってないのに知られていたことに疑問になっているのだろうか?


「いや……、まあな」

「どうしたんだ急に」


歯切れが悪いタケル。

そのまま「ははっ」と何か誤魔化したみたいに笑う。

なんだ、全然タケルの意図が伝わらない。


「あー、別にたいしたことじゃないんだ」

「はぁ?なにを伝えたいんだ?」

「だからさ……、その……」


言いにくそうにモジモジしている。

照れているのか、考えがまとまらないのか、口を開こうとしては停止を3回繰り返す。

そこで3秒ほど制止する。


「……だから」


意を決したみたいな表情でタケルが口を開く。
















「和ちゃんと一緒にいた子、せーちゃんの顔が結構好みだった」

「…………ファッ!?」

「に、兄さんが女子に興味!?」


ギャルゲー主人公がまさかの一目惚れ!?

あのタケルが!?

八方美人になれとか言うあのタケルが!?


…………いや、まだ惚れたわけじゃないか。

顔が好みなだけか。

先走ったな……。


和の顔だけで、同行者の方は全然顔見てなかった……。

戻ってきてくれー和!

お前もしかしたらギャルゲー主人公とくっ付けられる可能性のある子を連れてたんだぞ!


「……え?」


ちょっと待て!ちょっと待て!

でも、絶対今のヒロインじゃなかっただろ!

嘘だろ、まさか変な分岐してない……?


俺がチンピラになって、ピアスをしてない影響でタケルの女の好みが変わるみたいに原作からタケルという設定がズレていっているのかもしれない。

やばいやばい。

タケルが中学で誰かと付き合ったら、ゲーム始まらないじゃん!


タケルがヒロイン以外とくっついて『悲しみの連鎖を断ち切り』の世界を救う存在になれなかったかったらどうしよう……?

俺は今、世界が滅びるか否かの場面に立ち会っているのかもしれない。


普通の学生生活をしているから忘れそうになるけど、実は『悲しみの連鎖を断ち切り』の世界はかなり世紀末な結末が約束された世界なのだ。

明智秀頼殺してハッピーエンド!……とはならない。

あくまで小物の悪役・明智秀頼は前座でしかない。


狂った世界をどうにかできるのが目の前の主人公シスコンドラゴン・十文字タケルなのだ。

無能だのなんだの叩かれるが、腐っても主人公だ。


ギャルゲーとは思えないほどにシビアで、積んでいる救いのない未来が待ち受けているのがこのゲーム世界。

こいつの選択肢はそれくらいに大事なのだ。


「別に付き合いたいとか、一目惚れはねーよ」

「そ、そうなん?」

「だって俺もお前も沢村ヤマ好きだろ?でも付き合いたい、結婚したいから好きじゃなくて、ニヤニヤしたいから好きって感じだろ?あの感覚」

「ニュアンスとしてはなんとなく伝わるが……」

「沢村ヤマやめて!」


理沙は顔を赤くして沢村ヤマを否定した。

よほど俺が渡したエロ本が記憶に残ってるらしい。


「好きの形って色々あるだろ。俺だって理沙は大好きだけど、当然結婚したいとか考えてないしな」

「私が兄さんと結婚するわけないでしょ……」

「……」




あるんだよ!

理沙とタケルで結ばれる可能性も高くはないけど、ゼロではないんだよ。


「ははっ!さっ、行こうぜ」


タケルは笑って移動を始めた。


「……」


俺はタケルのことを色々知った気になっていた。



しかし、隠されている理沙のギフト。

真意の見えないタケルの考え。



俺は、自分が思っているほど、実はこの男からの信頼を得られていないのではないかと最近考えてしまう。

ゲームのタケルと秀頼の方が良い人付き合いだったのかもしれない。


そう考えると、ちょっと寂しいなと思う。

前世を思い出す前の自分に、ちょっと嫉妬するのであった……。

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