21、スターチャイルドは見付けた

「いただきます」と全員で手を合わせて、ラーメンをすすっていた。

スタチャも同じくラーメンをすすってビックリする。

アイドルってラーメン食べるんだな。


俺の目の前に座っているスタチャが俺の視線に気付き、ニコニコと笑っていた。

俺に微笑んでいる事実で、顔が赤くなる。

本当にちょろくて恥ずかしい。


「佐々木さんに質問良いですか?」

「は、はい!?わ、わたしにですか?」

「はい。明智さんか十文字さんの彼女とかですか?」

「い、いえいえいえいえ!ちが、違います……」


絵美がスタチャの質問にどぎまぎしながら答えていた。

彼女ではないが、タケルに片思いしている事実があるから羞恥心でも溜まったんだろうな。


「ふふっ、どっちかに本命が居るようね」

「そ、それは……はい」


スタチャの質問に絵美が小さくなりながらも肯定した。

明言したな、俺はわかってたさ。


「俺とお前のどっちかが佐々木の本命なんだと」

「おう」

「ちゃんと考えねーとダメだぜ」

「お前もな」


考えなくても答えはわかってるけどね。

鈍感主人公だ、ちょっとやきもきさせてやろう。


「彼、気付いてないわね……」

「そうなんですよー」


目の前でガールズトークが始まってしまった。


「ところでスターチャイルドさんはなんで秀頼君の家に来たんですか?ファンレターでやり取りしていたとはいえ普通こういうことはしないと思うのですが……」


そこで絵美が、俺もタケルも知りたがった質問に踏み出す。

考えればあり得ない案件だ。

俺も本当はずっと聞きたかったけど、切り出せなかった質問。

その答えをスターチャイルドの口から待つ。







「それはですね……スタチャは達裄さんとライン友達なんですよ」

「…………は?」


達裄さん……?

予想外なところで、タケル以上のシスコン野郎の名前が飛び出した。


「達裄さんって誰ですか?」

「俺の師匠」

「意味がわかんないのですが……」

「ギャルマスターの弟」

「もっと意味がわかんないのですが……」


絵美の頭がパンクしそうになっていた。

あんまり達裄さんのことを他の人に教えたくなかったから教えてなかった……。


「それで達裄さんにファンレターをよくくれる明智さんの話をしたら、『面白い人だよ、会ってみると良い』と言われました」

「秀頼君は面白い人ですよね」

「あぁ、否定できねぇ」

「なんか達裄さん含めて全員俺をバカにしてない……?」


達裄さんとスタチャの接点がまったく想像できなかった。

あの人、謎ばかり抱えてる人だから次会ったらスタチャのこと聞いてみよう。


そんな会話をしていると、全員ラーメンを完食した。

スタチャが使ってるラーメンの器、昨日俺が使ってたやつだ。

洗ってるとはいえ、スープを飲む際に器を口に付けていたので、間接キスしていると思うとあの器を明智家の家宝にしようかと悩むところだ。


「すいません、そろそろ時間になりました」


昼食も済ませるとスタチャが立ち上がった。

大人気アイドルで自由時間もあんまりないだろうにわざわざこんなところまで来てくれるなんて思ってもみなかった。


「あっ、最後にツーショットとサイン良いですか!?」

「ふふっ、良いよ。十文字さんと佐々木さんもどう?」

「お願いしますっ!」

「わたしもお願いします!」


おぉ!?

スタチャ個人に興味がなさそうな絵美の心まで動かしたのが凄い。

オーラとかそういう感じがとても出ている。

タケルに明智家のデジカメを渡して撮影してもらう。


デジカメをリレーしていき、全員キャッキャとしながらサイン会や撮影会が行われた。


「会えて嬉しかったです明智さん」

「俺もめちゃくちゃ嬉しかったです」

「ふふっ、また会いましょう」


サングラス、マスク、帽子の変装セットを身に付けたスタチャはそのまま玄関から消えていく。


「うおおお!?スタチャと会ったあああ!」

「わたしもスタチャのファンになりそうです!」

「…………」


盛り上がる2人の言葉が頭に入らない。



まるでスターともいうべき輝く金髪が頭から離れない。

夜を象徴したような暗い黒髪が頭から離れない。


最後にかけた言葉。

『ふふっ、また会いましょう』の言葉が脳裏にリフレインされる。






また、スターチャイルドに会えるの……?



























「ふふっ、ようやく見付けた……。素敵な人だったなぁ……。あぁ、気分が良い……。最高の気分ね……。あはっ、はははははは!私、可愛いって言われた……、あの人に可愛いって認められたっ!」







ーー私はずっと、……あなたを探していたんだよ。








彼女は己の顔を隠すマスク、サングラス、帽子を全部剥ぎ取った。



そして、自身の長いを揺らしながら、人通りの多い街の中へと消えていった……。




流れ星の如く、ーースターチャイルドの姿は一瞬で消えていた。








ーー騙してごめんね。

ーーでも、この気持ちは本当だよ。









ーーお兄ちゃんにまた、会いたいな。





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