14、殺意の衝動

肩のケガさえなければ助かっていたかもしれない……?


『新しい部長らに右肩を潰された。活躍全部かっさらう豊臣君に部長らは恨んで故意的にドアで肩を潰した。もう肩より上に腕が上がらないんだって』


美奈子の言葉が脳内に再生された。

何それ、そんなの部長に殺されたようなものじゃん。


「許せない……、許せないっ!」


私は、当時の部長を学校から見つけ出して尾行を開始した。

私には気付かず、友達2人と談笑しながら男は笑っていた。


しかも、話す内容は豊臣君についてのものだった。


『豊臣もバカだよなぁ』

『それってお前が半殺しにした奴だっけ?』

『あぁ、あいつ調子乗りすぎでよぉ』


よくも私の前で豊臣君を侮辱できる。

怒りが沸き上がってくる。


『『剣道は勝敗関係ない。礼儀が大事なんだ』とかバカ言いだす奴でよ』

『意識たけー、笑えるな』

『うぜーから2人がかりでドアに肩を固定させてよ、鉄扉でガンガン何回も叩き付けてぶっ壊してやったらあいつピーピー泣いてんのよ。傑作だったなぁ』


傑作?

何言ってんのこいつ?


『俺らが肩をやったことってチクったら部活は廃部か活動停止してお前が大事にしてる部活メンバーの努力ムダになるぞ?って脅したら『自分でケガしました』とか言いだすのよ、ありえねー』

『自己犠牲する俺かっけーみたいな』

『何者だよ、そいつ?』

『まぁ、豊臣がいなくてもウチの部が個人・団体両方優勝だぜ?あいつの存在価値なしよ。イキったガキだったよ。部活辞めたら手品とかゲームとかにはまりだしたらしいぜ』

『うわー、陰キャ落ちじゃん』

『きっしょ』


赤信号の横断歩道を前にして立ち止まる3人。

会話はまだ続くようだ。


『でも、夏休み前にくたばったんだろそいつ?』

『今ごろ豊臣もあの世で喜んでるんじゃねーか?次に生まれ変わったらまた剣道できるわけだしさ、丈夫な身体に生んでもらえれば良いな』


「…………」


殺す。

殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す!


許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せないっ!




ーー殺してやるっ!


私の願いを聞き届けるように横断歩道にトラックが走ってくる。

たった1人の背中を押すだけで良い。


今、この男の背中を押すだけで、殺せる!


殺す、敵を討つよ豊臣君!

私に勇気をちょうだいっ!




















『豊臣が消えて清々したよ』


「……」


押せなかった……。

元部長は死んでいない。

取り巻き2人とそのまま青信号を渡って行く。


「豊臣君の敵、討てなかったよ……」


ごめんなさい、豊臣君……。

勇気が出なかった……。


豊臣君が行った世界に、あのクズまで同じ世界に行って欲しくなかった。

言い訳だ、そんなの……。


所詮、私の決意なんてそんな程度なんだ……。


呆然とした頭で、横断歩道から離れる。

もう、豊臣君を侮辱する言葉なんか耳に入れたくなかった。

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