4、女の子は楽しい

ブランコから降りた俺と女の子は滑り台までやって来た。

女の子が嬉しそうに滑り台のはしごを登る。


「気を付けろよー」


足を踏み外して怪我とかが怖かったのではしごを登る女の子をへ視線を向けて声を掛ける。


「……」


そして後悔した。

女の子のスカートの中の白い布が見えた。

凄いガッツリ見えた。


「ふぅー……」


若い姉ちゃんのものとか憧れたものだ。

いや、これはまだ流石に若すぎる……。


俺が眼鏡を掛けるくらい目が悪い状態の裸眼であったならまだセーフだった。

いやいや、これは流石に自分で引く……。


「どうしたの?登らないの?」

「君が登り切ったら俺も登るよ。こういうのは順番だよ順番」

「そうなんだ」


純真無垢のスカートの中身を見て大後悔をしていた。

コスプレイヤーのガッツリ見てくださいという見せものと、ナチュラルのものでこんなに罪悪感に差が出るなんてそんなの知らなかった……。


俺、天然のマグロと養殖のマグロの味の違いとかよくわからなかったけど、とても失礼な出来事の様な気がしてきた。

女の子の下着事情をマグロで例えるのも変な意味があるみたいで嫌になる。


「たのしー!」

「だからなんで遊ぶ前から楽しいんだよ!」


滑り台から滑り終わって楽しい気分を味わってくれ。

なんで上に上り終わっただけで楽しい気分を味わってんだ。

ちょっと頭がハッピーセット過ぎるって。


「登って、登って」

「はいはい」


苦笑しながら滑り台のはしごに手を掛けたまま、登りきる。


「このままどうすればいいの?」

「この坂になっているところから下に行くの」

「やってみる!」


女の子と話してみた感じ、初めて公園に来たんだなって雰囲気が伝わる。

はじめて公園で遊んだ時の俺はどんな気分だったかな。

ちょっと思い出してみる。



―――――



「叔父をここから突き落としたら死ぬかな……」


滑り台の上に立ち、上から下を見下ろしていた。


「殺してやるんだ、苦しめて殺してやる」


フフっと笑みが零れる。


「あー、楽しいなー!」


あろうことか、女の子と同じく滑り台を楽しむことなく、登っただけで楽しいと呟いていた……。


―――――



めっちゃ物騒!

これは明智秀頼に覚醒するって!

前世の記憶を思い出す前の俺怖いって!!


「どうしたの……?」

「俺も人のこと言えないなって……」

「?」


よくわかっていない感じであったが、教える気もなかった。


「ほら、ここから下へ行ってみろよ」

「うん!」


彼女は待っていましたかの様に頷き、坂の方へ身体を向ける。


「わーい!」


そう言って楽しんだまま、坂を直接下まで走って行った。


「ふー、これ楽しいね!めっちゃ気持ち良かった」

「さいですか……」


いや、座ってから滑れよと心で突っ込んで俺も滑り台の坂を走り抜けていった。

彼女は「もう1回やろう」と呟いてまた滑り台に登っていった。


「たのしーー!」


2度目もそのまま坂を走り抜けていったが、流石にもう突っ込むことをやめた。

俺はそのままベンチに座り込む。

むわむわとした太陽の熱気が俺の額に汗を作り出す。


「厄介なもんが覚醒してしまったものだな……」


有名人でもギフトを持っている人なんかはバズりやすい。

動画投稿をしている人では最近『人の声を完コピができる』ギフトの持ち主とかで一躍有名になった人も居る。

物まね芸能人や動画投稿者が涙目能力である。


俺もなんか能力を生かしてお金でも稼げないだろうか……。

まあ、原作の描写ではカツアゲをしていたのだが、今の俺には流石にそんなことをする倫理観は持っていない。


原作の明智秀頼はそれはもう酷いギフトの扱いをしていた。

秀頼同様に『家庭環境のよくない』ヒロインの弱みに漬け込み、ヒロインに親殺しをさせて隠蔽をさせていた……。


秀頼は顔だけはイケメンだし、人を操るギフトの能力もあり、『秀頼の彼女』まで操って嫌がらせとかするんだ。


確か彼女とヒロインを親密な関係にさせて、親とは不仲というヒロインの情報を彼女に引き出させるとかとにかくえげつない。


秀頼の彼女とかもすげーヘイト買ってたよな……。

秀頼同様に、彼女も死ぬ役割もあって『カップル揃ってざまあ』とかよくコメントされてたな……。

『悲しみの連鎖を断ち切りシリーズ』の嫌いなカップリング投票において全7556票が応募されて、秀頼とその彼女が約60パーセントの票を占めるという不人気カップリングだ。


『純粋に秀頼に彼女いるのがムカつく』、『どっちもクズでお似合いw』、『この作品の汚点』とか色々書かれてたよなぁ……。

擁護コメントとして、『ヒロインと秀頼カップリングよりは100倍マシだろw』、『このクズ男は平気で寝取られもするからこいつらで固定されてる方が良いんだよなぁ』とかのコメントもあった。


「はぁ……、ギフトなんかむやみやたらに使わないように封印しておかないと」


家族では使わざるを得ないけどな……。


「ん?ギフト使えるの?」

「え?」


声の方向へ目を向けると女の子が俺に声を掛けていた。

やらかしたか……。

ギフト関連の記憶でも消しておくべきか。

それとも今日ここでの出来事を全部消しておくべきか。


「ギフトって楽しい?」

「楽しくはねーよ……」


原作の俺はめっちゃ楽しそうにギフトを悪用しまくっていたけど。

……そうだよな、こんなことでギフトを使いまくる癖が付いたらベクトルは違うけどヤバイ人格に育つ筈だ。

やめよう、封印しようとか考えていた矢先にギフトを使うなんて本末転倒だ。


「あと、俺がギフトを使えるとかあんまり人に言うなよ」

「うん!わかった!」


本当にわかったのか不安があるが、頷いているし一応は信じよう。


「その代わりどんなギフトか見せて見せて!」

「……」


そういう手できたか……。

人を操れるんですとか子供なら言ってもいいかなとか思うけど、大人になって『あれ?あいつヤバくね?』とか思われるのもヤバイ。

一応真実は隠しておくか。


「『手品』のギフト」

「みたい!やってやって!」


子供は手品とかマジックとか大好きだからな。

あくまでもイタズラレベルで害のないものとしておこう。


「じゃあここに10円玉があります。この10円玉を君に気付かれない内に、君の手の中にワープさせましょう」

「えー?そんなの無理だよー?絶対気付くよー」

「反応良いねえ。俺はそういう反応好きだよ。君の両手はグーにしておいてね」


おばさんからもらったお小遣いの10円玉を左手に乗せている状態から拳を握り隠した。

興味津々と女の子の視線は俺の左手に釘付けのまま両手をグーにした。


「【俺が今から渡す10円玉を受け取って掌で握れ。受け取った後に、この瞬間の記憶だけを消去しろ】」


女の子は操られながら10円玉を受け取り拳で隠した。

俺も10円玉を渡した左手をグーの状態にしておく。

よし、これで記憶も消えているはずだ。


「はい、いいよ。俺の手から10円玉は消えてしまいました」


パッと手を開くとそこには当然俺の手から10円玉は消えている。

彼女は「すごーい」と声を出した。


「君の手を開いてみて」

「え!?ウソッ!?」


そこには俺のインチキ手品で移した10円玉が女の子の手に移動していた。


「てじなーにゃ」

「ん?なにそれ?」

「通じんか……」


ジェネレーションギャップである。


「すごい!これもらって良い!?」

「いいよ」

「宝物にしよう!」


10円玉で俺のギフトをごまかせるなら安い買収である。

良いな、テレビや動画にはできないけど、対面では手品師秀頼としてのデビューもありかもしれない。


「ねえねえ、お兄ちゃんの名前は?」

「俺か。俺は明智秀頼だ。君の名前は?」


そういえばまだ名乗ってすらいなかったな。

女の子にも名前を尋ねてみた。


「わたしの名前は佐々木絵美だよー」

「なるほど、佐々木絵美か。……ん?絵美?」


あれ?

なんか聞き覚えのある名前だ。

いや、どこにでも居そうな名前ではあるんだけど……。

俺は引っ掛かりを覚えた。

『悲しみの連鎖を断ち切りシリーズ』は全3部作ということもあり、ややヒロインの数は多めである。

その中でも『佐々木絵美』という名前のヒロインは存在しない。

そもそも泣き黒子のヒロイン自体、このゲームには不在なのは先ほども確認をした筈だ。


……あれ?泣き黒子?

すごーく嫌なことを思い出してしまった気がする。

なんでこんな大事なことを忘れていたんだとちょっと前の俺をぶん殴りたくなった……。

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