第62話 三姉妹と三姉妹、和解する
「ぶひ、こっちですわ」
ドレースさんは、僕達を屋敷の応接間の前まで連れてくる。
そこの扉を開けると、魔族の女の人が三人並んで立っていた。
「ふふふ、アタシ達の愛の巣へようこそ」
そう言って不敵に笑う、真ん中の女の人。
――たぶん、この人達が噂の三姉妹なのだろう。
僕は少しだけ身構える。
すると、三姉妹はその場でゆっくりと腰を下ろして言った。
「「「申し訳ございませんでしたっ!!!」」」
頭を床につけて謝る三人。……ちょっと可哀想だと思った。
「ぶひ……私からも、改めて謝罪させていただきますわ。本当に、申し訳ありませんでした。ソフィア様、メイベル様、エリー様……」
そこへ、ドレースさんも並んで頭を下げる。
「そ、そんな……」
僕は、前へ出て行こうとしたオリヴィアのことを手で制した。
「アニさ――」
名前を呼びかけたオリヴィアの口を塞いで耳打ちする。
「これはメイベル達の……ヴァレイユ家とフェルゼンシュタイン家の問題だから、僕達が口出ししちゃ駄目だよ。――それと、ここでは僕のこと『ニア』って呼んで。女の子で通すならそっちの方が良いと思う」
「ひゃ、ひゃいっ!」
オリヴィアは裏返った声で答えた。
「ご、ごめんなさい……いきなり口を塞いだりして……」
「ら、らいじょうぶれす! しゅ、しゅてきでした……っ!」
「…………………………?」
僕とオリヴィアがコソコソとそんなやり取りをしている間に、向こうでは話が進んでいた。
「別に、お兄ちゃんと会えたからどうでもいいわ!」
「もしかして……悪いことしちゃったからお詫びに読んでくれたの?」
「エリー……あなた、何も分かってなかったのね……」
ちょっと不安になる感じの会話が聞こえて来たけど、ここは僕が出しゃばるべきではない。
「ダメなアタシ達を許してくれるのね……好き……!」
「わ、わたし……気持ちが抑えられなくなってしまいそうですぅ……!」
「ワタクシ……真実の愛に目覚めたてしまいましたわ……!」
……この人達、全然反省していないのでは? やっぱり許せない!
「お、落ち着いてくださいアニさ――ニア! たった今、自分で言ったことを思い出すのです!」
「う……うぐぅ……」
オリヴィアに諭され、僕は引き下がる。
「ご、ごめん……僕がこんなんじゃ駄目だよね……みんなには自立してもらわないといけないんだから……!」
「いえ、妹思いなニアも素敵ですよ」
「オリヴィア…………!」
「ですが、ここはぐっと堪えて見守りましょう……それで良いんですよね?」
「うん……!」
僕は頷いた。
*
それから、三姉妹――ベラさん達は、メイベル達が家出をしている間の面倒をここで見ることを提案した。
どうやら、本人たちが帰る気になるか新しい住居を見つけるまで、この別荘に滞在させてくれるらしい。
「なんなら、ずっとここに居てもよろしくってよ!」と、リーンさんが言っていたけど、後でドレースさんに「ブヒイイイッ! 私達だって、そのうち国へ帰らなくてはいけないのです! いつまでもソフィア様達のお世話をできるわけではありません! 無責任なことは言わないで欲しいですわッ!」と怒られていた。
その後、リーンさんも何か反論して口げんかになっていたので、噂通りのお転婆なんだなぁと思いながら、僕はその様子を眺めていた。
ちなみに、家出したメイベル達がこの場所に居ることは、ヴァレイユ家の当主――グレッグにも黙っておいてくれるらしい。
……もっとも、これに関しては向こう側としてもバレたらまずいだろうし、お互い様というやつだ。
そして、僕とオリヴィアもメイベル達がこの屋敷に居る間は、一緒に滞在させてもらうことになった。
妹達のことを守るためについて来たんだからそうしてもらわないと困るけど……もしかして、僕ってずっとメイドの格好をしてないといけないのかな……?
――これ以上は考えないでおこう。
……とにかく、これらのお詫びと引き換えに、フェルゼンシュタイン家の三姉妹がヴァレイユ家の三姉妹を襲おうとしたという大事件に関しては、口外しないこととなった。
この場に居る僕達と、フェルゼンシュタイン家だけが知っている秘密ということになる。
……まあ、弱味を握っておけば何かあった時にフェルゼンシュタイン家がヴァレイユ家ではなく『メイベル達三人』の助けになってくれるだろうし……悪くない条件だと思う。
本人達も納得してるみたいだし、僕も許すしかない。
話し合いの途中、何度かメイベルが助けを求めるように僕の方を見てきたので、だいぶ和解の内容に関わっちゃった気がするけど……これくらいは問題ないよね!
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