第39話 三姉妹、成敗される2


「あぁ…………」


 死罪という言葉を聞かされたベラは、ショックのあまり気を失う。


「少し、言い過ぎ……じゃない?」


 その様子を眺めていたソフィアは、思わず呟いた。


「ぶひぃぃっ!」

「……………………?」

「この期に及んで、ベラ様のことを庇ってくださるのですかっ?! あぁ、なんとお優しい……!」


 ドレースは、ソフィアの前で肩を落として咽び泣く。


「…………びっくりした」


 一方ソフィアは、急に大きな声を出したグレースに驚き、硬直していた。


 目の前で泣いているオークの姿は、なかなかの迫力があるので無理もない。


「あなたは魔女のようなお方ですわ……!」

「それ……褒められてるの……?」

ブヒはい、魔女様のように素晴らしい方だという意味ですので」

「魔族の価値観は……よく分からない……」


 いまいちピンと来ず、首をかしげるソフィア。


 どうやら、魔族にとっての魔女は、他の種族にとっての聖女のような存在らしい。


「ブヒ……っ。とにかく、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」

「……気にしないで。…………授かった魔法を試せて良かったと思ってるから……」

「もしや、ソフィア様は儀式から帰る途中だったのですか? よろしければ、お屋敷までお送りしますが……」


 ドレースに提案された瞬間、ソフィアの体がびくりと反応する。


「そ、その必要はない……大丈夫……!」

「ですが……この件グレッグ様にご報告しなければ…………」

「だめっ……それは絶対にだめっ……!」


 グレッグに報告すると言われて、更に慌てるソフィア。


「ぶひぃ……なぜですか……?」

「あの……えっと、その…………!」


 そんなことをされたら、自分達の居場所が完全にばれてしまう。


 だが、理由を説明すればドレースに家出をしていることがばれてしまう。


 どちらにせよ、屋敷に連れ戻されるという結果が待っていることは明白だ。


 どうにかしてこの場を切り抜けなければいけない。


 ソフィアが言葉に詰まっていると、ドレースが困惑した様子で言った。


「しかし……ベラ様達の処遇を決めていただかねばなりませんし……」

「お……お父様は血も涙もない人だから……そんなことをしたら間違いなく……『ふん、ヴァレイユ家に仇なす不届き者には命をもって償ってもらうしかないな』……と言われてしまうわ……! だから……何も言わない方がいい……!」

「つまり……全てなかったことにしようとおっしゃるのですか……?」

「そ、そう。……そういうこと! この町で私たちを見なかったことにして……!」

「ぶひぃ、ぶひいいいいいいいいいいぃぃぃんっ! お優しすぎますうううううぅぅぅぅっ!」


 再び泣き出すドレース。


 もはや、ソフィアが何を言っても、ドレースからの好感度が上昇していくようになっていた。


「うおおおおおおおおおおおおんっ!」

「あの……私は別に優しくないわ……だからそんなに褒めないで……罪悪感がすごい……」

「うぅ、わかりましたわ。ソフィア様のお心遣い、感謝します……ぶひぃ……ひぐぅっ!」

 

 ドレースは、涙を拭いながらそう言った。


 ――グレッグには報告しないということで、うまく話がまとまったようだ。


「ですが……この町でしたことに関してはきっちりと罪を償ってもらいます」

「それは好きにしていい……私、関係ないし……」


 言いながら、ソフィアは近くにあった椅子に腰かける。


 魔力を大幅に消費したので、すでに限界が近いのだ。


「ブヒ……それでは、私どもはベラ様に捕まっている方々の救出に向かいます。……護衛をお付けしますので、ソフィア様は他のお二人と一緒に宿でお休みください」

「……うん……そうね、分かったわ……ふわぁ」


 大きなあくびをするソフィア。


 家出していることがドレース達に知られてしまう可能性を考慮すれば、今すぐにでもこの町を離れるべきだ。


 しかし、今の疲れ果てたソフィアにそこまでの思考力は残っていない。


「来世の分まで……働いたわ……」


 ソフィアはそんなこと呟きながら、不満げに伸びをするのだった。

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