第22話 三姉妹の優雅な家出1


「「「じゆうだーっ!」」」


 ――デルフォスの目をかいくぐり、家出を成功させたメイベル達は、神殿から一番近い町の宿屋でひと息ついていた。


「ふぅ、疲れた。とりあえずは計画通りね」

「あぁ……おにーさまは今ごろどこで何をしているのかしら…………」

「早く見つけられるといいね。まだそんなに遠くまで行ってないはずだし……」


 大きな荷物を降ろし、一つしかないベッドに腰掛ける三人。


「ふん、勝手に居なくなっちゃったお兄ちゃんのことなんて知らないわ。しばらくは可愛い妹と会えなくて寂しい思いをすればいいのよ!」

「強がりね……家出しておにーさまに会いに行くって……最初に言いだしたのはメイベルよ……?」

「急に分かりやすすぎる照れ隠しされても困っちゃうよ。せめてそういうのはおにーちゃんの前でやってね」

「う、うっさいわねっ! ――と、とにかく、今日はお風呂に入って早く休むわよっ! 明日からお兄ちゃん探しで忙しいんだからっ!」


 かくして三人は、仲良く部屋を出て宿屋のお風呂へと向かうのだった。


 *


「…………誰もいないね」


 と、エリーが呟く。


「この町に着いてから……ほとんど人と会っていない気がするわ……」

「みんな儀式を見るために神殿に行ってるんでしょ? ほぼ貸し切りでお風呂に入れて良かったじゃない」

「でも……それにしたって……」

「いいから早く脱ぎなさい」


 メイベルは、脱ぎかけだったソフィアの服を引きはがした。


「……ありがとう。……脱ぐのが面倒だった」


 同時に、ソフィアの平坦な身体が露わになる。


それを見て、メイベルは勝ち誇ったように微笑んだ。


「――あんたを見てると安心するわねソフィア!」

「心外だわ……大して変わらないのに……」


 ソフィアの一言によって、脱衣所に不穏な空気が流れ始める。


「ちょっと、それどういう意味よ!」

「さあ……? ……自分の胸に聞いてみたら……?」

「なっ……! 聞くのはあんたの胸の方よッ!」


 メイベルは怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、ソフィアに飛びかかった。


「意味が分からな――やっ、だめっ、あんっ!」

「ほら、ちゃんと見なさい! 何なら触ったっていいわ! どう考えたってわたしの方が大きいでしょ!」

「ほとんど同じ……変わらない……むしろ私の方が大き――やんっ……ひうぅっ!」

「まったく、強情な子ね。あんたがそのつもりなら認めるまでこうしてやるわっ!」

「だ、だめぇっ……触ったって分からないでしょっ……ひんっ!」


 仲良くきゃっきゃするメイベルとソフィア。


「――二人とも何してるの?」


 そんな様子を見て、仲間外れにされているような寂しさを覚えたエリーが言った。


 すでに入浴する準備は整っている様子である。


「ケンカしないで? そんな恰好でもみ合ってたら風邪ひいちゃうよ?」

「「…………………………」」


「ね、ねえ、どうして何も言ってくれないの……?」

「「…………………………」」


「そ、そんなにまじまじと見られたら恥ずかしいよぉ……っ!」

「「…………………………」」


「うえええええええええええんっ!」


 身体を隠しながら、逃げるように風呂場の方へ走り去るエリー。


「……あの……気のせいかしら。エリーが……この中だと一番……」

「――この話はやめにしましょう。わたしが悪かったわ」

「…………………………」

「…………………………」


 微妙な沈黙が、辺りを支配する。


「……き、気を落とさないでメイベル。実際……三人とも大して変わらないわ……。確かに、エリーのはちょっと大きいって感じたけれど……」

「う、うええええええんっ!」


 ソフィアの言葉がとどめとなって、メイベルも泣きながら風呂場の方へ走り去ってしまった。


 ――こうして、ソフィアは一人脱衣所に取り残される。


「……こんなところでも負けず嫌いなのねメイベル。……魔力の大きさなんて……私達みんな同じくらいなのに……」


 そして、ため息混じりにそう呟くのだった。


 *


 ――――ざぶん。


「ほぁぁ……あったかくて、心が安らぐ……。つまり……おにーさまはお風呂だったのね……私、ついにおにーさまを見つけたわ……!」

「しっかりしなさいソフィア。お兄ちゃんと会えなさ過ぎておかしくなってるわよ」


 メイベルはそう言って、呆けた顔で湯船に浸かるソフィアの頰をぺちぺちと叩く。


「……ダメそうね。残念だけど、もう手遅れみたい」

「ソフィアっ! しっかりしてよぉっ!」


 エリーは、完全に気力の抜けているソフィアに縋り付いてそう叫んだ。


「気を確かに持つのよエリー。……ソフィアの今までの頑張りを無駄にしないためにも」

「あたし、ソフィアの分まで頑張るからねっ! ぐすっ、うわあああんっ!」


「……現実逃避していただけよ。勝手に死なせないで……」


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