第20話 デルフォスの想い2
半日ほど馬車に揺られ、俺たちは目的地へとやって来た。
――パルフィーネ神殿。
ここは、俺の成功が約束された場所であり、あのゴミが魔法を授かれず恥を晒した場所でもある。
俺にとって非常に思い出深い地だ。
神殿の周囲には、すでに大勢の人間が集まっている。
中には、ヴァレイユ家に仇なす可能性のある権力者どもの姿もあった。
……まず、入り口で話しているのがスチュワート家にネヴィル家の奴ら。
この二つは、この国でヴァレイユ家に次いで影響力を持っている貴族だ。
ここにヴァレイユを含めて『三大貴族』と称する輩も居るらしいが、どう考えても俺という稀代の大天才が居るヴァレイユが頭一つ抜きん出ているので不愉快である。
他にも、薄汚い獣人どもの国を治るクズノハ家の奴らに、平和主義な腰抜け魔族の長であるフェルゼンシュタイン家、この国の大森林に住むエルフの長老どもや、その他色々な国や種族の奴らが『神託』の為に集まっている。
儀式によって魔法や力を授かるのは、この国の人間だけではない。
同じ神を信仰する者であれば、国家や種族を問わず、平等に能力を授かることができるのだ。
この神殿に足を踏み入れる資格を持ちながら能力を一つも授かれない奴なんて、あのゴミ以外には滅多にいない。
では、何故神はわざわざ信者の代表を集めてこのように面倒なことをするのか。
……曰く、この儀式によって、『皆が同一の神を信じる同胞であること』と、『それぞれの種族に向き不向きがあること』を自覚し、結束を固めるのだそうだ。
要するに、これは平和の為の祭典としての側面も持っている儀式なのである。
だから、この儀式が執り行われている間は戦争をすることも禁じられている。
――まったくもって馬鹿馬鹿しい。これほどのチャンスは無いというのに、この国の王は一体何をしているのだろうか。
俺が王だったら、今ごろ他の下等種族の奴らは奴隷としてこの国の人間に奉仕していたことだろう。
……だがまあ、いずれはそうなる。
なぜなら、「俺がこの国の王になる」と、父さんが言ったからだ。
(強い者が力と恐怖によって下民を支配し、富を独占する。下民どもは最下層の存在である亜人を支配し、人間であることの優越感に浸る。『強者はより上へ、弱者はより下に』……それこそが、この世のあるべき姿だ。綺麗事ばかりほざく無能が上に立ち、能力のある者が不幸になる今の世は間違っている!)
(ああ、そうだね。そんな素晴らしいことを考えていたなんて、やっぱり父さんは偉大だ!)
(フッ、やはりお前はアニと違って話のわかる奴のようだな)
俺はかつて父さんと交わした会話を思い出し、ほくそ笑む。
「フハハハハッ! お前らが魔法を授かれば我が家の未来は明るい! さあ、もたもたしてないで行くぞ!」
俺がそう言って背後を振り返った時には、すでに妹達の姿は無かった。
「…………」
どうやら、俺を置いて先に中へ入ったらしい。
「俺の指示も待たずに行動するとは……生意気なクソガキどもめ……ッ!」
家に帰ったら裸で吊るしてしばき倒してやる……!
俺はそう心に誓い、神殿の中へと入っていくのだった。
*
神殿に入ってしばらく待っていると、やがて儀式が始まり、聖女が中央で祈りを捧げ始める。
そしてとうとう、神による魔法の授与が始まった。
並んだ人間に次々と適性が言い渡され、とうとう妹達の番がやって来る。
「メイベル・ヴァレイユ――火属性と強化の魔法、ソフィア・ヴァレイユ――氷属性と幻惑の魔法、エリー・ヴァレイユ――雷属性と治癒の魔法」
刹那、観衆の間でどよめきが起こった。
「全員……適性が二つ……?!」
俺の隣に居た、ネヴィル家の人間が呟く。
「流石はヴァレイユ家ですな。世にも珍しい光魔法の使い手であるデルフォス殿に次いで、三人のご令嬢があれほどの適性を授かるとは……将来が楽しみですぞ」
「お褒めに預かり光栄です」
「んー、どちら様ですかな?」
……流石は我が妹達だ。俺よりは目立たず、しかしヴァレイユの人間としての威厳は示す。
態度こそ生意気だが、自分の立場というものを心の奥底では理解しているようだ。
俺の日頃の教育の賜物だな。
しばき倒す前に、一応褒めておいてやろう。
――さて、用事も済んだことだしこれ以上退屈な儀式を見続ける意味はない。
俺は神殿を後にし、一足先に馬車へと戻った。
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