第39話 挑戦します

★★★(ウハル)



「ウハル君、やったね!」


「ウハル君、見事!」


「ウハル、よくやったでござるよ」


 ユピタを倒した俺に、アイアさんたちが駆け寄って来てくれた。

 他の連中も残らずすでに沈黙させたようだった。


 ユズさんを救えたという達成感。

 その達成感から、俺の中にひとつの想いが纏まる。


「……アイアさん、俺、あなたに挑戦します」


 ユピタを打ち倒し、アイアさんやオネシさん、師匠の労いを受ける中。

 俺はその言葉を口にした。


 勝てる算段がついたわけじゃない。

 だけど……


 勝てる算段って、一体何なんだ?


 やってみなければ分からない。

 そういうものじゃないか?


 やらない理由を並べ立てて、延々と先延ばしにする。

 それはいくらでも出来るけど……


 一体いつ決断するんだ!?


 そう思ったから、俺は言ったんだ。


 言われたアイアさんは……


「えっ」


 一瞬、驚いた表情を見せ、そして俺を見つめ、俺が本気なのを悟ったのか


「分かった……受けるよ。その挑戦……」


 アイアさんは俺の挑戦を受けてくれた。




 ユピタの一派を完全に処理し、全てを終わらせた後。

 夕方。

 俺は明日にアイアさんとの戦いを控え、ひとりハルバードの型稽古をしていた。


 俺はハルバードを振りながら思う。


 アイアさんは、強いはずだ。


 戦いには木の武具を使う事にしているけど、アイアさん愛用の巨大戦斧じゃなくたって、アイアさんの規格外の身体能力は健在。

 正面からぶつかれば、あっけなく潰されて終わる。


 それが予想できる。


 厳しい戦いになるはずだ。


 自分の持てる力を全て使って、しのぎ切るしかない。


 そして、みっともない戦いだけはするわけにはいかない……。



★★★(ユズ)



 ウハルさんがひとり、冒険者の店の裏で稽古をしている。


 明日、ウハルさんがあの人に挑戦する。

 その挑戦でウハルさんが勝てば、ウハルさんはあの人と恋人になる約束……


 そう、聞いてる。


 私はひとつ、思うところがあった。


 ユピタの一派に攫われるまで、抱く事の無かったその考え……


 私は一度、嫉妬でユピタの願いを叶えそうになっていた。

 自分では諦めたつもりだったのに、全然諦められていなかったのだ。


 自分に嘘を吐いている。


 それが私。


 ……でも、それはやめるべき。


 私はそう思い直していた。


 自分の気持ちに嘘を吐いて、後で醜態を晒すより、自分に正直になって真正面からぶつかった方が良い。


 そう、思い直していた。


「ウハルさん」


 私は、ひとり稽古をするウハルさんに声を掛けた。


「やぁ、ユズさん」


 汗を拭って、ウハルさんが応えてくれる。


「明日ですね」


「うん」


 ウハルさんは真剣な面持ちでそう頷く。


「勝てたら、あの人に恋人になってもらうんですか?」


「そういう約束だから」


 ウハルさんに迷いは無いみたいだった。


 それでも……


「ウハルさん……」


「何?」


 私は言った。


「私じゃ……ダメなんでしょうか?」



★★★(ウハル)



「私はウハルさんが好きです。大好きです」


 突然のユズさんの告白。再び。


「私ならウハルさんに条件なんてつけません」


 前に一度断ったのに


「私ならウハルさんのことを一番に見ています」


「悪い、ユズさん」


 こんなに想われて嬉しい。

 それは正直な気持ち。


 だけど……


「ユズさんはステキな人だとは俺も思う。だけど……」


 俺が今、愛を求めているのはアイアさん。

 それは、動かせない事実なんだ。


 そこまで言うと、ユズさんは悲しそうに口を閉じた。

 そして。


「兎に角!」


 強い口調でユズさんは


「私はウハルさんが好きなんです! それは変わりませんから!」


 言い捨てるように言って、立ち去って行った……。



 そして。

 夜が明け。


 次の日。

 約束の日がやってきた……。

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