第4話 ことのはじまり

人類がまだ西暦と時代に名称をつけ時間をつむいで生きていた時代。人はそれぞれの地域で肌の色や風習約束事は違えど繁栄と成長を繰り返し確かに歴史を刻んでいた。

地球と言うこの星の中のあるひとつの島にジャポネ、ジパング、日本・・・今では呼び名すら忘れられてしまった国があった。一世紀を千年と考えていた当時二十一世紀が始まり数百年たったころその国は黄金期平和の象徴日が出ずるところの国となっていた。繁栄が続きすぎたこの国にある時新興宗教が発生する。この宗教は危険で過激なカルトであり一旦は国の中で統治されるがその教祖の死刑執行日に事件は起こった。このカルト集団の信者の数人が教祖の死を嘆き悲しみ死刑執行時刻と同時に世界にも死の実現を試みようとしたのである。その国の公安部ですら感知できぬ唐突な行動であった。ネットでのハッキングによりこの国の連絡網を完全に麻痺させると同時に当時のエネルギー源であった日本海側にあった原始力発電所に自爆テロ攻撃を行った。チェルノブイリの原発事故に相当すると言われるこの行為により都心部は壊滅。生き残ったわずかな日本の人々は放射能で汚染されたこの島からの脱出を余儀なくされたのである。

当時の最大国である現在のアメリカは中東と原油の利権をめぐる争いを行っていた最中であった。アメリカは脱出した日本の民族を移民として一部土地を解放し受け入れる交換条件としてこの国の消滅は中東のテロ組織による破壊行為によるものだと発表するように交換条件を出し日本に了承させたのである。日本は自分たちの国のカルト集団による自滅と発表するよりアメリカの虚言を呑む他今後の生きる道はないと踏み国連を通しその虚言を発表したのであった。当然のことながら世界はこのテロ行為を憎み各国から中東に対して兵士が集まった。それから何年もの間多くの兵士の血が流された。汚名を着せられた中東側は更なる強硬なテロ活動を各国で行いそれに対し各国は軍の増強を図っていった。文字通り血で血を洗う戦いが繰り広げられた数十年が続いた。ついに中東を始めアラブの諸国はアメリカの手中に収まりアメリカは油田の利権を手中に収めると共にその軍事力を全世界に示し尽したのだった。


この間日本の民族の中には自国民による滅亡と言う過去の汚点を歴史の中から消してしまおうという運動が起こりこの事実を書き記した書籍やデータ類は一切をレッドとしてアメリカの軍とともに取り締まる働きも盛んに行われた。このようにして日本の汚点となる一切の歴史は送り続ける日々の中少しずつ、しかし確実に姿を消していった。このころからアメリカ側からの圧力により日本を変名しヤマト民族と名乗らされるようになる。と同時にこの歴史の改変という成功例はアメリカに新たな試みを生ませることとなる。


その頃同じく限りなく続く対テロ戦争により財政困難となったイギリスをアメリカは買い取っていた。続いて同じ手法でヨーロッパのほぼ全土をアメリカの各州として統治しこの頃で世界の大半を手中に収めることとなる。必要性を認められない貧困のロシアと対核保有国仮想敵国として残存させて起きたかった中国また何の利用価値も見出せないインドアジア諸国アフリカオーストラリアは無視された形となっていた。国連とは名ばかりでもはや何の存在価値も認められず事実上崩壊したに等しい状態になっていった。

また歴史の短さを恥じていた当時のアメリカ人種は日本に下したのと同じように今度はイギリスの歴史を自分たちの歴史と混ぜ合わせさらには自分たちの恥となる歴史の一部分、インディアン狩り黒人奴隷問題ベトナム戦争など失敗の歴史を一つ一つを消滅させていった。当時のFBICIAはレッドと称し関連の文書データを日本のそれと同じように地道に且つ巧妙に消し去って行ったのだった。


日本の滅亡から約七百八十年後の今ではアメリカは長い王朝制度の歴史を持った由緒正しき国として存在している。貧困にあえぐ周辺諸国ロシアや中国が何と非難中傷しようと絶対的多数と財政力さらには肥大化した軍事力により長い年月をかけ正しいのはアメリカが主張する歴史なのだと塗り替え続け主流の歴史はアメリカ人が知る現在のものと今では広く認識されている。全てが輝かしい成功の歴史それは同時に現在のアメリカ人種の優越選民思想を裏づける最大の要因ともなっている。

この長い年月を経る間ヤマト民族の生き残りは人体に受けた放射能の影響によりさらに数が減少していった。少数になった民族の中では同胞意識を高めるために苗字を名乗ることを禁止し各自名だけ授けられるという掟も作られた。数が減少する反面長い年月をかけゆっくりと遺伝子の異変も起きていた。かつてヤマトの民族は黄色い肌と黒い髪黒い瞳を持った特長をなしていたが突然変異のアルビノと呼ばれる白い肌や銀色の髪の種が生まれるようになっていた。そしてそのアルビノの多くは体のどこかに障害を持っていたのである。目や耳が不自由であったり短命であったりと。しかし障害をもって生まれた彼らにはそのハンデを補う新たな能力も備わっていた。あるものは予知能力またあるものは治癒能力。はじめは単なる偶然と思われていたこの現象も外部の民族に知られぬように長い年月をかけてこの民族の中でだけ研究されてきたのである。外部に特にアメリカに知られた場合どのような軍事的利用を試みられるか想像がついたしまた他民族からの差別により暮らせなくなることを恐れたのも理由のひとつであった。


ヤマト民族はこのアルビノを隠語でミコと名づけその特徴を書物に書き残さぬよう代々で聞き伝え進化させてきたのだった。

ミコは白い肌銀色または白色の髪を持ち瞳の色は銀色がかった紫や青緑と様々な種が見られた。全般的にミコは短命な特徴があった。平均してミコの寿命は約三十年長くても四十年とおおよそ人の半分であった。またこのミコの中でも予知能力を抱えた者が一番大切にされた。というのも何時どこで危険が起こるかを教えてくれるこの種を抱えていることで大地震や火山の噴火もっと身近にはテロによる攻撃に事前に対処することが残り少なくなった民族の存続を助ける重要な鍵となったからであった。

その能力を高めるためにもミコと一般の民の交わりは禁止された。またミコたちはアメリカからの発見を防ぐためにもカモフラージュとして宗教的な扱いで一般の者よりも上の位置で奉られることとなった。ただミコの姿形で生まれてもそれぞれの能力は千差万別で十二才位までに能力が発揮されなければ一般の者へ落とされることもあったのである。またこのミコの中でも特に優れたものには護衛として一般のなかから腕の立つ二名の者が警護に付くことに決まっていた。護衛になった者達は一般にクロコと呼ばれるようになった。

「この日本民族が現在流浪の民となっている我々“ヤマト”の祖先なのじゃ。」

“ことのはじまり”を一気に話し終わると翁は少し疲れた横顔を二人に見せた。

白虎はこの話を聞くのは二回目だったが前回も不思議に思った点を思い切って質問してみることにした。

「自国民によって滅んだ歴史をレッドとして取り締まられ現在に至っているわけですよね。どうしてその事実が現代まで伝わっているのでしょう?」

翁は目をそばめて白虎を見つめた。

「我らがアメリカ人と違う一番大きな点は恥を知っておると言うことじゃよ。われらの神は八百万の神。万物全てに精霊が宿っておると考える共存の民じゃ。アメリカ人の神は十字架に貼り付けられたキリスト唯物神じゃ。彼らにとってキリスト以外の者は神ではないのじゃ。」

白虎はとまどう表情を見せ口を少しとがらせて言った。

「すみません・・・おっしゃる意味が良くわからないのですが・・・」

白虎の横から黒鷹が漆黒の瞳で翁をまっすぐ見据えて続けた。

「八百万の神が色んなところから我々を見られておる。恥というものを知っているなら事実を代々へ伝えよ。そして同じ間違いは犯すことなかれ。と言うことですか?」

翁はまた火鉢の火をおこしながらうなずいた。

「うむ。今我々がこうして伝え合っているように先人もそのまた先人も勇気を持って事実を隠すここと無く伝えてきたのじゃ。我等はそういった民族の末裔なのだから自信をもって生きて行けということじゃろうな。」

白虎は翁と兄の黒鷹を順に見つめると大きくうなずき続けた。

「はい。翁。黒兄。私は今のクロコの仕事を誇りに思い紫音様の警護に尽力いたします。」

翁は白虎の声の大きさに少し驚き微笑みながらうなずいた。

「おおミコの紫音様はすばらしい能力を持っておられる。今のところ紫音様の兄緑尽りょくじん様が代をつかさどることとなっており紫音様はあくまで補助的な役割じゃが緑尽様に何かあった場合は紫音様が跡継ぎとなる。心して警護してくれるようにな。縁起でもないことを申してしまったのう。緑尽様にはお前らの兄上の青磁せいじと姉の赤羽あこおがクロコについておる。緑尽に大事があろうはずが無いわ。それはそうと青磁と赤羽あれらは幾つになったかの?」

「青兄が二十歳赤姉が十八歳でございます。」

黒鷹が誇らしそうに上の兄弟のことを語る姿を白虎が少しうらやましそうな眼差しでみつめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る