第2話 少年

集落の広場では朝早くから男たちが集まって円陣を組み中にいる二人の戦いをはやし立てていた。

「やっちまえ白虎びゃっこ!」

「お前にかけてるんだぞ!黒鷹くろたか!」

腰までもある長い白髪に銀色の目をした少年が汗を流しながら短刀を眼前に身構え黒髪に漆黒の瞳を持つ相手の少年に対し少し怖気づいたまなざしで対峙している。黒髪の少年の方が長めの刀をはすに構え余裕のある表情をしているように見える。白髪の少年の方は身長百七十センチ位の体格に伸びやかな四肢をもっている。銀色の瞳ははっきりとした二重で鼻筋のとおった顔立ちをしている。少年にはもったいないほどの赤い唇が華やかな印象を際立たせている。黒髪の少年は百八十センチはある長身で白髪の少年よりはすこし大柄な印象だ。切れ長の涼しそうな目元にはっきりとした闘志が浮かんでいる。利発そうなすっきりとした顔立ちが印象的で大きな口元から笑うと白い歯がこぼれ少しばかり意地悪そうな表情を覗かせている。しかしどちらの面差しにもまだあどけなさが感じられる年頃だ。黒髪の少年が兄の黒鷹十四歳白髪の少年が弟の白虎十三歳。兄弟で朝の剣の稽古だったのだが真剣に持ち替えたとたん周りにヤジ馬が集まってきたのだった。

白虎が少し後ずさりしながら小さくつぶやくように兄に言った。

「稽古だと言ったじゃないですか!」

黒鷹の唇の端が片側だけ少し上がった。

「そうだ稽古だ。まじな稽古をすると言ったぞ。」

二人を取り囲んだ円陣はいっそう大きくなったようだった。

「うだうだ言ってねえでやっちまえよ!黒鷹!」

「黒にかけるやつはもういないかー?」

「おれ白で!大穴いく!いく!」

騒がしくなってきた周りの様子に舌打ちをすると黒鷹がすっと白虎との間合いをちぢめた。瞬間白虎が飛び上がる。黒鷹も追う。周りの群集があっと息を呑み空を見上げたその瞬間青い空に浮かんだ昼間の白い月を背に逆光となった二つの黒いシルエットが一瞬クロスしキーンという高い音と共に銀色の光がはじかれた。ふたつの黒いシルエットは互いに逆方向へ落ち群集の円陣の外へ着地した。振り返った白虎の頬には薄く細い傷跡がついておりその傷にそって赤い血がうっすらと滲み始めていた。それを見た群集が一瞬静かになりすぐに「おーっ」というどよめきとともに掛け金の小銭がバラバラと飛び交い始めた。群集を掻き分け黒鷹が白虎に近づくと通り過ぎながら耳元でささやいた。

「引き分けだな。お前は優しすぎる。」

白虎は不満そうにきびすを返し黒鷹のところまで走って追いつくと

「黒兄だって最後の瞬間で力を弱めたではないですか!」

と食ってかかった。黒鷹は意地悪そうな眼差しで白虎を見詰めると肩頬でにやりと笑いを浮かべると言った。

「お互い様だろう。」

黒鷹が白虎の真剣な眼差しを見てとりなだめるように少し微笑み弟の肩を軽くたたき、続けた。

「着替えたら翁の所へ行こう。」

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