第3話
「よかったですわ。今日は良い天気ですのね」
チェルシーは窓から外を覗いた。
「お母様、今日は午後から出かけますわ」
「あら、チェルシーどちらにいらっしゃるの?」
「蚤の市ですわ」
母はそれを聞くと、少し嫌な顔をしました。
「町人達のお祭りに参加されるのですか?」
チェルシーは答えた。
「町の様子を把握するのは、貴族の役目でもありますわ」
心配そうな母親に、チェルシーは付け加えるように言った。
「町人のふりをして、お買い物をしてくるだけですわ。ご心配なさらずに」
「それでは、メイドのラモーナをつれていきなさい」
「はい、お母様」
チェルシーは午後になると、ベージュ色のワンピースに着替えた。
そして、メイドのラモーナに言った。
「ラモーナ、蚤の市は戦いですから、良いものがあったら直ぐに手を打ちますわよ」
「はい、お嬢様」
蚤の市は人でごった返していた。
「アンティークの燭台ですわね。こんな所に出ているなんて、買いましょう」
チェルシーは、いくつかめぼしいお店を事前にチェックしていたようだった。
「あら、この茶器は東洋の有名な工芸士のものですわ。買いましょう」
「また良い品物を見つけていらっしゃるのですか?」
チェルシーは驚いて声の方を向いた。
「クラーク王子!? どうしてここへ?」
クラークは困ったような表情を浮かべ笑った。
「お忍びで遊びに来ました。王子であることは秘密です」
「失礼致しました。ではクラーク様とお呼びすればよろしいですか?」
「それで、お願い致します」
クラークもメイドを連れていた。
「メイドのポーラです」
「はじめまして、チェルシーと申します。こちらはメイドのラモーナです」
「チェルシー様は目利きの上、思い切りが良いですね」
「まあ、そんなことございませんわ」
「いいえ、先ほどから僕が目をつけていた品物を次々と購入されていらっしゃいます」
「あら、それは失礼致しました」
チェルシーはくすり、と笑ってから頭を下げた。
「購入した品物は、やはりお屋敷に飾るのですか?」
「はい」
チェルシーは嘘をついた。
チェルシーは品物をオークションにかけ、ちょっとしたお小遣いをかせぐつもりだった。
「クラーク様は購入した商品はいかがするおつもりでしたの?」
「オークションにかけ、教会に寄付するつもりでした」
クラークも嘘をついた、
クラークは教会などにお金を寄付するような、殊勝な心がけは持ち合わせていなかった。
遊ぶお金、といってもお金があると本を買ってしまうのだが、それに充てるつもりだった。
「今日はチェルシー様に負けてしまいましたね」
「あらあら、そんな風に言われてしまいますと申し訳ございません」
チェルシーはちょっと考えてから言った。
「それでは本日買い付けたものから一品、クラーク様に買った値段でお譲り致します」
「それではお言葉に甘えましょう。その東洋の焼き物をお願い致します」
チェルシーは心の中で舌打ちした。
それは、一番の掘り出し物だったからだ。
しかし、発言を撤回するのはチェルシーの美学に反した。
「それではラモーナ、ポーラさんにお渡しして」
「ありがとうございます、チェルシー様」
クラークは笑顔を浮かべた。
「それではごきげんよう」
「それでは、またお会いしましょう」
チェルシーはクラークと別れてから、ラモーナに愚痴をこぼした。
「ああ、10倍の値段で売れる品物を譲ることになるなんて、つまりませんわ」
ラモーナがどう答えれば良いものか困っていると、チェルシーは一人話し続けた。
「でも、王子様に貸しができたのですから、案外悪いものでもないかも知れませんわね」
チェルシーは機嫌を直し、戦利品の山をラモーナに持たせ屋敷に帰っていった。
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