第74話

☆☆☆


それから朝まであたしと聡介は相談室で時間を過ごした。



昨日狩に参加していた先生は榊先生が最後だったようで、誰かが襲ってくることもなかった。



そして、7日目の朝が来た。



「最後の朝だ」



聡介が窓の前に立ち、眩しそうに目を細めて朝日を見つめている。



「そうだね……」



そして今日は日曜日。



生徒たちの登校はない。



水道の水で血まみれになった体を洗い、水分を取る。



そしてまた相談室に戻ったとき、学校内はあわただしさを取り戻した。



狩の時間中は警察官も学校内に入ってこなかったから、これからまた夜まで現場検証などが行われるんだろう。



どうして狩の時間になると警官がいなくなるのか、それはもう、大人たちの娯楽のためだとしか思えなかった。



先生は狩の時間を邪魔されたくないのだ。



そして警察はそれを容認している。



だって、人権剥奪期間は国が定めたルールだから……。



☆☆☆


気がつけば夜になっていた。



窓の外は暗く、時計を確認すると9時が過ぎている。



「聡介?」



暗い相談室の中声をかける。



しかし、返事はなかった。



「聡介?」



もう1度声をかけ、相談室の中を確認するが、聡介の姿は見当たらない。



トイレにでも行ったんだろうか?



もうすぐ狩の時間が始まる。



最後の狩の時間だ。



だけど今回は夜の12時なったら終わる。



あと3時間で人権剥奪期間は終了するから……。



あたしはそっとドアを開けて廊下を確認した。



誰の姿もないし、近くのトイレからも物音は聞こえてこない。



ハンマーを握り締めてトイレに近づく。



「聡介、いるの?」



声をかけながら中へ入った瞬間、足元になにかがあって躓いてしまった。



見ると、それは血がついたハンマーだったのだ。



昨日聡介が使っていたものだ。



その瞬間緊張感が体を駆け抜けた。



「聡介!?」



思わず大きな声で叫ぶ。



しかし、どこからも返事がない。



もしかして、誰かに捕まったんじゃ……!



最悪の事態を想像したとき、スマホがなった。



確認すると、それは聡介からのメッセージだった。



《聡介:1年B組にいる》



たったそれだけの文章に目が釘付けになる。



1年B組はあたしたちのクラスだ。



聡介はそこにいると言う。



助けにいかなきゃ!



そう思い、よろよろとトイレから出た。



あと3時間なんだ。



あと少しであたしたちは人間に戻ることができるんだ。



そう思うと自然と早足になっていた。



聡介はそんな簡素なメッセージは送ってこない。



あたしに心配だけをかけるようなメッセージは送ってこない。



舞はそうやって騙されて殺された。



親からのメッセージだって疑ってかかった。



そんなこと、考える余裕はなかった。



助けなきゃ。



早く聡介を助けにいかなきゃ……。



ただ、それしかなかった。

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