第72話

「死んだのは昨日かもしれない」



花子を見下ろしていた聡介が呟いた。



「え?」



「少し、臭いがする」



そう言われて気がついた。



この教室内には腐臭が漂ってきているのだ。



「それじゃ、朝のメッセージを送ったのは花子じゃなかったってこと?」



「たぶんな」



頷く聡介に背筋が寒くなった。



誰かがあたしたちをここへ呼びよせようとしたということだ。



あたしは花子の両目をそっと閉じて立ち上がった。



もう残っている商品はあたしと聡介の2人だけになってしまった。



そして、今日も狩の時間が始まる。



「絶対に、許さない」



あたしはハンマーをきつく握り締めて呟いたのだった。


☆☆☆


あたしたちはいつも逃げてばかりだった。



鍵をかけて、安全な場所でやり過ごしてきた。



でも、もう違う。



あたしは先生を1人殺したのだ。



後は何人殺したって同じこと。



不思議と恐怖心はなかった。



3階の空き教室の前に立ち、あたしは先生たちが来るのを待った。



花子の死体を捜して、あたしたちがここに来ることはきっと想定内だろうから。



それから30分ほどして、想像通り1人の先生が階段をあがってやってきた。



隠れもせずに教室の前に立っているあたしを見て、一瞬大きく目を見開いた先生。



しかし次の瞬間にはこちらへ向けて駆け出していた。



「商品が隠れもせずに待ってるなんて、どうしたんだ? もう降参したのか?」



男の先生は口角を上げて大きな声で笑いながら近づいてくる。



あたしは両足を踏ん張り、そして両手でハンマーを強く握り締めた。



走ってくる先生の頭上めがけて、振り下ろす。



ガンッ!



鈍い音と、骨が砕ける感触。



先生の高笑いは途中で消えて、そして倒れこんだ。



頭部がつぶれた先生はもうピクリとも動くことはなかった。



「行くか」



聡介が後ろから声をかけてきた。



その手には同じようにハンマーが握られている。



これは花子が持って逃げていたものだった。



「行こう。今度はあたしたちが狩る番だよ!」

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