第66話

☆☆☆


5日目の昼休憩を知らせるチャイムが鳴り始めた。



その音にビクッと反応してしまう。



「聡介、大丈夫?」



「大丈夫だ」



あたしたしはまだトイレの個室に身を隠していた。



けれど聡介はだんだん立っていることが辛くなってきたのか、額に汗が流れてきていた。



そこか休める場所を探さないといけない。



健康な人だって何時間もたち続けることはできない。



「聡介、あたし鍵が開いてる部室がないか調べてくる」



「今休憩時間中で危ないぞ」



「だけど、もう限界でしょう?」



そう言うと聡介はうつむいてしまった。



「ここには生徒はほとんどこないし、あたしは武器を持ってるから大丈夫」



あたしはハンマーを強く握り締めた。



これがあれば怖いものなしだ。



「何かあったらすぐに連絡してくれ」



「わかってる」



あたしは力強く頷いて、トイレから出たのだった。


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☆☆☆


部室棟の廊下には誰の姿もなかった。



物音もしなくて、少し不気味なくらいだ。



ためしに近くにあった文芸部の部室のドアに手をかけてみる。



しかし、鍵がかけられていた。



夜になったらすべての教室のドアが開かれるけれど、今は施錠されているみたいだ。



隣の映画部の部室も、その隣の漫画部の部室も鍵がかかっている。



これじゃ休める場所がない……。



本館へ移動すればいいけれど、それはリスクが高すぎた。



仕方なくトイレへ戻っているときだった。



廊下の前方から話し声が聞こえてきてあたしは足を止めた。



ちょうど渡り廊下を渡ってこちらへ向かってきているのだ。



あたしは咄嗟に後ろを振り向いた。



どの教室も鍵がかけられていて入ることはできない。



下の階に逃げるしかない!



そう考えて体を反転させようとしたときだった。



3人の女子生徒たちが廊下に顔を出したのだ。



驚きのあまり硬直してしまう。



それは相手も同じで、あたしを見て立ち止まり唖然とした表情を浮かべた。



「あ……恵美?」



名前を呼ばれて3人が同じクラスの生徒たちであることにようやく気がついた。



最近では生徒も先生も見れば敵として認識してしまうため、ろくに顔を見ることもなくなっていたのだ。



あたしは返事ができずに後ずさる。



すると1人が戸惑った表情を浮かべた。



「ねぇ、そんなにおびえなくていいじゃん。あたしたちなにもしないし」



そう言われても信用はできなかった。



そのとき「ごめん、遅れて!」と声が聞こえてきてもう1人の女子生徒がかけてきた。



エリカ……。



あたしは目を見開いてエリカを見つめた。



エリカもあたしを見つけて立ち止まった。



「え、恵美……大丈夫?」



エリカが引きつった笑顔で聞いてくる。



「体操服、すごく汚れてるけど」



そう言われてあたしは自分の姿を見下ろした。



商品になってから1度もお風呂に入ってないし、逃げ惑ってひどく汚れている。



今の彼女たちから見れば明らかに浮いている存在だろう。

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