第66話
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5日目の昼休憩を知らせるチャイムが鳴り始めた。
その音にビクッと反応してしまう。
「聡介、大丈夫?」
「大丈夫だ」
あたしたしはまだトイレの個室に身を隠していた。
けれど聡介はだんだん立っていることが辛くなってきたのか、額に汗が流れてきていた。
そこか休める場所を探さないといけない。
健康な人だって何時間もたち続けることはできない。
「聡介、あたし鍵が開いてる部室がないか調べてくる」
「今休憩時間中で危ないぞ」
「だけど、もう限界でしょう?」
そう言うと聡介はうつむいてしまった。
「ここには生徒はほとんどこないし、あたしは武器を持ってるから大丈夫」
あたしはハンマーを強く握り締めた。
これがあれば怖いものなしだ。
「何かあったらすぐに連絡してくれ」
「わかってる」
あたしは力強く頷いて、トイレから出たのだった。
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部室棟の廊下には誰の姿もなかった。
物音もしなくて、少し不気味なくらいだ。
ためしに近くにあった文芸部の部室のドアに手をかけてみる。
しかし、鍵がかけられていた。
夜になったらすべての教室のドアが開かれるけれど、今は施錠されているみたいだ。
隣の映画部の部室も、その隣の漫画部の部室も鍵がかかっている。
これじゃ休める場所がない……。
本館へ移動すればいいけれど、それはリスクが高すぎた。
仕方なくトイレへ戻っているときだった。
廊下の前方から話し声が聞こえてきてあたしは足を止めた。
ちょうど渡り廊下を渡ってこちらへ向かってきているのだ。
あたしは咄嗟に後ろを振り向いた。
どの教室も鍵がかけられていて入ることはできない。
下の階に逃げるしかない!
そう考えて体を反転させようとしたときだった。
3人の女子生徒たちが廊下に顔を出したのだ。
驚きのあまり硬直してしまう。
それは相手も同じで、あたしを見て立ち止まり唖然とした表情を浮かべた。
「あ……恵美?」
名前を呼ばれて3人が同じクラスの生徒たちであることにようやく気がついた。
最近では生徒も先生も見れば敵として認識してしまうため、ろくに顔を見ることもなくなっていたのだ。
あたしは返事ができずに後ずさる。
すると1人が戸惑った表情を浮かべた。
「ねぇ、そんなにおびえなくていいじゃん。あたしたちなにもしないし」
そう言われても信用はできなかった。
そのとき「ごめん、遅れて!」と声が聞こえてきてもう1人の女子生徒がかけてきた。
エリカ……。
あたしは目を見開いてエリカを見つめた。
エリカもあたしを見つけて立ち止まった。
「え、恵美……大丈夫?」
エリカが引きつった笑顔で聞いてくる。
「体操服、すごく汚れてるけど」
そう言われてあたしは自分の姿を見下ろした。
商品になってから1度もお風呂に入ってないし、逃げ惑ってひどく汚れている。
今の彼女たちから見れば明らかに浮いている存在だろう。
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