第7話
☆☆☆
仕方なく帰宅したあたしは、いつも通り学校へ向かった。
頬に絆創膏を張っているものの、できるだけうつむいて顔を上げないようにして歩く。
いつ、誰に商品だとバレるかわからない恐怖心から、学校に到着したときには汗まみれになっていた。
今すぐ着替えたかったが、もちろん制服の替えなんて持ってきていない。
B組の教室に入っても誰にも挨拶せずに、すぐに自分の席についた。
うつむいて教科書を読んでいるふりをする。
そうしている間にも緊張で喉がカラカラに渇いてくるのを感じる。
「あ、恵美来てたんだ、おはよう!」
エリカがいつも通りの調子で声をかけてきて、ビクリと体を震わせた。
あたしはゆっくりと顔を上げ、そして無理やり微笑んだ。
しかしうまく笑えていなかったようで、エリカはすぐに不振そうな表情に変わった。
「お、おはようエリカ」
あたしはいつも通りにしたいのに、やっぱり声も震えてしまった。
これじゃすぐに商品だってバレちゃう……!
「どうしたの恵美。体調でも悪いの?」
「ううん。大丈夫だから」
顔を覗き込まれそうになって、とっさに伏せた。
しかし、それでは頬に貼った絆創膏を隠すことができなかった。
「それ、怪我したの?」
指差して言われてハッと息を飲む。
どんどん血の気が引いていくのがわかった。
「恵美? やっぱりなにか変だよ? 体調が悪いなら保健室に行く?」
心配してくれるエリカに「大丈夫だよ。ちょっとトイレ」と答えて、席を立った。
このままじゃすぐにバレてしまう。
一旦教室から出て落ち着かないと。
そう思って出口へ向かったとき、聡介が教室に入っていた。
「あっ」
聡介があたしの顔を見て立ち止まる。
あたしは咄嗟に立ち止まっていた。
でも、いつも通りの言葉が出てこない。
それところか、あたしは聡介の右頬に貼られている絆創膏に視線が釘付けに鳴ってしまっていた。
「聡介、それって――」
「聡介どうしたんだよその怪我! 頬に怪我するとか小学生かよ!」
最後まで言うことがかなわず、聡介の友人が大声を出す。
その瞬間聡介が青ざめたのがわかった。
教室の中で敏感な生徒たちがこちらを見てヒソヒソとなにか会話を始めている。
「いや、これはその……」
聡介は青ざめた顔で右頬を隠すように触れた。
「どうせまたバカなことしたんだろ!」
聡介の友人はなにも気が付かず笑い続ける。
あたしはキュッと唇を引き結び、聡介の腕をつかんで教室を出た。
そのまま向かったのはひと気のない渡り廊下だった。
部室棟へと続くこの廊下を使う生徒は、今の時間はいない。
「それ、どうしたの?」
早足で移動してきて、少し息を切らしながらあたしは聞いた。
「べ、べつになんでもないよ。これはその、怪我しただけだから」
そう言う聡介の笑顔は引きつっているし、顔色も悪いままだ。
「本当に怪我なの?」
真剣な表情で聞くと、聡介の笑顔は見る見るうちに消え去っていった。
そしてうなだれる。
「ごめん恵美。俺……」
そこまで言って口を閉じ、絆創膏に手をかける。
ゆっくりとはがされていく絆創膏にあたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
120.
聡介の頬に書かれている簡素な数字に呼吸が止まりそうになった。
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