魔のものと天使と、人間の世界で～王子に恋した天使、争いに巻き込まれながら旅をする～

116 再会～神の試練～

神の試練編

「ロゼス、お久しぶりです。会えて良かったです。どうしてここへ？」　

　パティはグレイ色の瞳に銀髪の兵士の憮然とした顔が懐かしく、近くに寄り、その手を思わず両手で掴んだ。

「パティ、元気そうだな。王子も、ご無事で何よりです」

　ロゼスは少し表情を緩ませたが、淡々と述べた。

「ああ、色々あったが、大丈夫だ。ロゼス、僕たちを尋ねてここへ来たのは、何か用があるのか？」

「はい。俺はマディウス王より命を受け、あなたの護衛に来ました」

「護衛？」

　そう言ったのはパティだった。

「王子、ファントン国の元王女、メイリンに命を狙われているそうですね。王子からの手紙を王は受け取り、俺が護衛に行くことになりました」

「そうだったのか。……だがメイリンはもう、僕の前には現れないかもしれない」

「なぜですか？」

　アルは、事の経緯を彼に説明した。

　メイリンの主である魔族が死に、彼女の魂が開放された今、メイリンの心が恨みに染まるばかりではなくなるのではないか、と。

「――そうですか。ですが俺は信じられませんね、そんな女のこと」

　ロゼスはきっぱりと言った。

　その口調にはメイリンに対する蔑みがあった。

「ロゼス、マディウス王は、メイクール国とファントン国との間に起きたことを何か言っていたか？　メイリンが恨みに思っていることは、本当なのか？」

　アルは、少し迷いながら、そう訊ねる。

「そのことで、マディウス王より手紙を預かっています。後ほどお渡しします」

　アルは、そうか、とだけ言った。

　三人は、クルミたちの待つ宿屋へと歩き出した。

　パティはロゼスに違和感を覚えていた。

　ロゼスは前から無表情だったが、何となく雰囲気が異なっていた。上手く言えないが、感情を隠しているような、元気がないように思えた。

　宿屋に着くと、そこは賑わいを見せていた。あまり大規模な宿ではないため、客はほとんどが仲間の者で埋まっていた。

「よお」

　ダンは片腕を上げた。

「ダン、船に戻ったのかと思いました。みんなと一緒にいたのですね」

「ま、まあな」

　パティに言われ、ダンは頬をぽりっと掻き、曖昧に返事をした。

　クルミがネオと一緒にいるのではないかと気になり、ダンは再び合流をしたのだが、そんな懐の狭い理由で来たと思われたくなかった。

　しかしダンがクルミが心配で宿へ来たことは正解だ。

　ネオはしっかりクルミの隣の部屋を取り、今も彼女の部屋に集まっているが、怪我をしたクルミの隣に座り、包帯を用意したり水を汲んだりと、甲斐甲斐（かいがい）しく世話を焼いていた。

「アル、パティ、待ってたよ。それに、あれ、ロゼス、久しぶりだね」

　へえ、という意外そうな顔で、クルミは面識のあるロゼスに挨拶をし、ダンは、

「よお、兵士の兄ちゃん」

　と、朗らかに言う。

「ああ、お前たちもいたのか」

　ロゼスは二人を見て、クルミが不機嫌になりそうな挨拶をした。しかし怪我をしたクルミを見て、ロゼスは一応、「大丈夫か？」とだけ訊いた。

　皆はクルミが寝泊まりする一部屋に集まっているので、部屋は狭かった。しかし怪我をしたクルミのことを考え、そのまま部屋で話をすることにした。

　そこへ、新たな客人がまた一人現れた。

「なんだよ、ここ、せめーな。もっと他に場所はないのかよ」

　ツバキは、現れるなり文句を言った。

　宿屋の個室に、男五人、女子二人集まっているので、ほとんど、ぎゅうぎゅうだ。

　ツバキは、クルミに「話がしたい」と言われていたので、その宿を訪れたのだ。

「俺は向こうに行っている」

「え、どうしてですか？」

　部屋を出ようとしたロゼスにパティはすかさず訊いたが、

「神具や石の話ならば、俺には関係のない話だ。俺は王子の護衛に来ただけだからな。王子、後で部屋に伺います」

　と言い、無表情のロゼスは退散する。

　ロゼスは予めカイルに石を持つ者のことを聞いていたので、彼も多少の知識は持っていた。

「ロゼス、何だか少し変ではないですか？」

　パティは、ロゼスが立ち去った扉を見つめ、首を傾げる。

「そお？　前からああだったでしょ」

　クルミはほんの数日だったが、ロゼスから槍を習ったことがある。

　あの不愛想な男は人に教える時も、怒鳴ったり注意することはあっても、ほとんど会話というものはなかった。

　はっきり言って、ロゼスには人に教える才能はなかった。

「ツバキが来たから、話を始めようか。ツバキ、君は神具をクルミに渡したそうだね。それならどうして異種試合に参加したんだ？」

　アルは、一国の王子らしく、口火を切った。

「……それは、ある女魔族を探しているからだ」

　皆は、ツバキのその意外な答えに、沈黙した。