第659話「歴史を動かしたのは間違いなく、リオネルの力である」

アクィラ王国王都リーベルタース王立闘技場……


リオネルとヒルデガルドは、国王ヨルゲン・アクィラと会談を行った。


元首同士、互いのあいさつが済んだ後、

『少しでも早くドラゴンどもの死を確認したい』

というグレーゲルの心の波動を感じたリオネル。


「論より証拠」という事で、リオネルは収納の腕輪から、首魁たるドラゴン1体と、その配下のワイバーン3体を搬出した。


広大な王立闘技場のフィールドではあったが、

全てのドラゴンを見せるのは容量不足。


残りのワイバーン7体を出し、

全てのドラゴンどもを展示するには、面積が少し足りなかったのだ。


それでも国王ヨルゲンは、満足したようだ。


フィールドに並べられたドラゴンどもの死骸を目の当たりにし、

間違いなく討伐された!という確信を持ち、

感極まった様子である。


「お、おおっ! ベ、ベルンハルドよ!! こ、これがあのドラゴンどもなのか!? つ、遂に!!と、討伐されたのだな!!」


すかさず兄ヨルゲンへのフォローを入れたのは、弟の宰相ベルンハルドである。


「は、はい!! あ、兄上!! じゃなかった陛下!! 間違いなく!! 我が王国を苦しめ続けたドラゴンどもでございますっ!!」


兄につられ、興奮のあまり、ついつい噛んでしまったが、軽く息を吐き、言い直す。


「陛下!! これまで戦った者達の尊い犠牲、武功は勿論評価されます!! ですが、今回の討伐に関してはヒルデガルド様とリオネル殿のお力です!!」


「うむ!! これでもう我が王国に被害が出る事はなくなるな!!」


「御意!! 我が王国にとっては!! 英雄たる、おふたりに!! 陛下から!! お礼のお言葉をおかけください!!」


「うむ!! アクィラ王国の長として!! 申し上げるぞ!! ヒルデガルド様とリオネル殿には深く深く感謝する!! そして!! イエーラ、ソヴァール王国とも!! 更に仲良く!! 共存共栄でやって行きたい!!」


ひどく上機嫌なヨルゲンの言葉は、

特別な『言質』として、今後における交渉の際の礎となるであろう。


後は具体的な実務をベルンハルドと進めるだけ。


長きにわたり鎖国政策をとって来たイエーラにとって、

国境を接する隣国アクィラ王国とは、常に友好的である事が望ましい。


特別地区のみの一部とはいえ、開国するのならば尚更である。


その為、上級貴族とのコネクションを作ろうとしていたリオネルだったが、

国王ヨルゲンとナンバーツーである実弟で公爵、王国宰相ベルンハルドとよしみを通じたのだ。

更にはアクィラ王国の騎士隊、王国軍統括であるアルヴァー・ベルマン侯爵も、

ヒルデガルドとリオネルには好意的だ。


目指していた目的に対し、まずは『最高の結果』を出した!

と言っても過言ではないだろう。


ここでリオネルは念話でヒルデガルドをフォロー。


『ヒルデガルドさん、国王陛下へ打合せ通りのご返事を』


『はいっ!』


ふうと軽く息を吐いたヒルデガルドは、


「アクィラ王国ヨルゲン・アクィラ国王陛下! 御国の隣国である我がイエーラは古代より始まって、いまだ鎖国中ではございます。ですが、幸いにも争いなく、ここまで上手くやって参りました。鎖国に関して、今後どうなるかは分かりませんが、陛下のお言葉通り、気持ちも新たに共存共栄で仲良くやって行きましょう」


と告げた。


ヒルデガルドの言葉は、これまでの状況が変わる可能性がある事を示唆していた。


……イエーラ歴代のソウェルが、アールヴ族最優秀主義を貫き、

人間族や他種族に対し、一方的な嫌悪感を持ち、

かかわりを持たぬよう、鎖国政策を続けて来た経緯がある。


例外として冒険者となった者、人間族社会に溶け込んだ者を除き、

アールヴ族は誇り高く、他種族に迎合しない。


では対する他種族といえば、古来より特に仲の悪いドヴェルグ族ドワーフは、

アールヴ族を嫌い、かかわりを避けており、大きな争いも多々あった。


そして人間族はといえば、アクィラ王国を含め、ほとんどの国はその圧倒的な魔法力を恐れ、「触らぬ神に祟りなし」とばかり、機嫌を損ねぬよう、

当たり障りにない対応をして来たというのが実情。


しかし今、イエーラは変革の気配を見せている。


ヒルデガルドの告げた言葉を裏付けるように、

人間族の冒険者リオネル・ロートレックがイエーラの政治顧問となり、

長たるソウェルのヒルデガルド自身が、

わざわざ人間族の国、アクィラ王国の国難を排除してくれたからだ。


先ほども述べたように、人間族にとってイエーラは未知の国であり、

住まうアールヴ族は誇り高くかつ気難しく扱いにくい。


それが先方から友好の印を示してくれた。


この絶好の機会をみすみす逃すのは、愚か者のする事だという意見で、

兄ヨルゲンと弟ベルンハルドは一致している。


イエーラが一部でも開国し、交易を開始するのであれば、

出来る限り便宜をはかるという意見も一致した。


「我がアクィラ王国を長きにわたり悩ませた悪しきドラゴンどもは、隣国イエーラの多大なるご厚意と偉大なる英雄リオネル・ロートレック殿により、見事討伐された。両国はこれを機に、新たな歴史を刻む事となる!」


その言葉を聞いたベルンハルド以下の者達は、


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


と大歓声を上げた。


アクィラ王国国王ヨルゲン・アクィラの宣言により、

この世界の歴史は、大きなターニングポイントを迎えたのだ。


そして……歴史を動かしたのは間違いなく、リオネルの力である。


「おい! リオネル! くそバカ! ゴミ野郎! ディドロ家の汚物! 人生の負け犬! いくら言っても足りん! この恥さらしめえ!」


「はっ! 出来損ないで弱虫、ハンパ者のお前が居るだけで、誇り高き我が家が、王国中から物笑いの種となるわあ!」


「お前みたいな人生の負け犬にはなりたかねえ! さっさと俺の前から消えうせろ!」


かつて父と兄から、散々罵倒、誹謗中傷された18歳で平凡以下の少年は、

眠っていた底知れぬ才能を、

自身の懸命な努力と数多の人々のフォローにより見事に開花させ、

『偉大なる英雄』と称賛されるくらいの大器となった。


慈愛と感謝を込め、リオネルを見つめるヒルデガルドは、


『さあ、リオネル様!! 私と一緒に手を打ち振り、この大歓声に応えましょう!!』


と念話で促し、ふたりはゆっくり大きく手を左右に振ったのである。

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