第656話「うむ! 有言実行を示したドラゴンスレイヤーたるリオネル殿に言われれば、百戦錬磨な勇者の言葉として素直に受け止める事が出来るよ」

「侯爵閣下、ご確認が終わられましたら、ワイバーンの死骸を回収し、次に向かいますのでおっしゃってください」


再び、にっこりと笑ったリオネル。


しばし経って、アルヴァー達による確認が終わると、

リオネルはワイバーンの死骸を収納の腕輪へしれっと搬入した。


至宝『ゼバオトの指輪』に匹敵する至宝『収納の腕輪』は、

リオネルが実家から追放された際、父親のように可愛がってくれた恩人、

宿の主人アンセルムから譲ってもらったものだ。


『収納の腕輪』の容量は大きな町ほどもあり、

「搬入した」ものを所有者の意思で分別もしてくれ、

現世とは異なる時間の流れにより、食物等は劣化しない。

そして生物は仮死状態となり、一時避難所や牢獄としても使用出来る。


そこまで説明する必要はないが、

腕輪に付呪エンチャントされた空間魔法により、

ぱっと煙のように消えるワイバーンの死骸に、アルヴァー達はまたもびっくりする。


「さて、では次に行きましょうか」


しれっと言うリオネルを見て呆然とするアルヴァー達を今度はヒルデガルドが促す。


「うふふ、侯爵様。手早く検証を終え、王都リーベルタースへ吉報を知らせましょう」


ヒルデガルドの言う通りであろう。

ドラゴン討伐の報を知らせれば、国王以下全国民が大喜びするのに違いないから。


……そんなこんなで、オルトロス、リオネルとヒルデガルドの先導により、

アルヴァー達は、倒されたワイバーンを丁寧に確認していった。


当然リオネルは、その都度ワイバーンの死骸を回収する。


全てのワイバーンを回収後、周囲を舞っていたジズが、

リオネル達の真上へ移動する。


そしてそして遂に!!


一行はケルベロスが『番』をするドラゴンの死骸の下へたどりついた。


「お、おおお!!?? こ、これが!!?? 我々を散々苦しめたドラゴンなのか!!??」


倒されたワイバーンを見て驚いたアルヴァー達だが、

散々王国に害を為した首魁たるドラゴンの死には、感慨深いものがあるらしい。


アルヴァー達は改めて地へ伏したドラゴンの死骸を凝視する。


体長20mを超える巨大な邪竜は、ワイバーンどもと同様に事切れているようだ。


それはドラゴンの傍らにリオネルの従士ケルベロスが鎮座している事でも分かった。


ダメ押しの安全確認とばかりに弟オルトロスも駆け寄り、兄の傍に座った。


ヒルデガルドが誇らしげに言う。


「侯爵様、このドラゴンは、リオネル様がメインで倒しましたわ」


「そ、そうなのですか!?」


更に、ここでリオネルが「はい」と挙手。


「侯爵閣下、皆様。念の為、自分とヒルデガルド様が先に行きましょう。さあ、ヒルデガルド様!」


空いていた左手を差し伸べるリオネル。


「はいっ! リオネル様!」


そう言い、しっかりとリオネルの手を握るヒルデガルド。


ふたりは、そのまま寄り添い、歩いて邪竜の死骸と魔獣兄弟の下へ。


緊張感に包まれて静まり返る現場…………

だが、やはりドラゴンは「ぴくり」とも動かない。


充分間を置いてから、リオネルとヒルデガルドは、

アルヴァー達へ向かい、手を打ち振った。


「ノープロブレム、安全ですよ」という合図である。


安心したアルヴァー達は、恐る恐るドラゴンに近づいた。


リオネルが倒したドラゴンを、リーベルタースにおいて間近で見たとはいえ、

このドラゴンは特別な存在。

長きにわたり、アクィラ王国を苦しめて来た元凶である。


奴らと戦って来た騎士達にとっては、憎悪と同時に恐怖の対象でもあった。


それが、今や息の根を止められ、死骸と化している。


自らドラゴンの死を確かめたアルヴァー達は、


「おおおおおおお!!!!!」


と大歓声を上げたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ワイバーンの検証も丁寧であったが……

首魁たるドラゴンの検証はそれに輪をかけて念入りであった。


アルヴァー以下騎士達は、隅々までドラゴンを視認し、時には触れ、

確認を行った。


苦しめられた国難は排除されたという喜びからか、口数も多くなり、

皆、笑顔でドラゴンを調べている。


やがて……念入りすぎる検証が終わり、アルヴァーは、リオネルへ声をかける。


「終わった……本当に終わったのだな、リオネル殿」


「まあ、そうですね。ただ……」


「ただ? 何だね、リオネル殿」


「はい、侯爵閣下に申し上げるのは恐縮なのですが、自分は戦いの後、勝って兜の緒を締めよと心がけております」


「ふむ、勝って兜の緒を締めよ……か」


「はい、また新たな脅威が生じるやもしれません。油断は禁物という言葉もありますから、ドラゴンどもが倒されても、普段から警戒するに越したことはないでしょう」


リオネルの言葉を聞いたアルヴァーは、笑顔である。

最初は「たかが冒険者」と見下していただろうが、

ドラゴンどもをあっさり倒したリオネルの評価は180度変わったに違いない。


「うむ! 有言実行を示したドラゴンスレイヤーたるリオネル殿に言われれば、百戦錬磨な勇者の言葉として素直に受け止める事が出来るよ」


「ありがとうございます。ではドラゴンを回収し、リーベルタースへ帰還致しましょう」


「うむ! 帰る事にしよう。国王陛下や宰相閣下も心配されているだろうから」


リオネルは、『搬入』と心の中で念じ、ドラゴンの死骸を収納の腕輪へ放り込む。


やはりというか、ぱぱっと消えたドラゴン。


「失礼して、行き同様、ヒルデガルド様を背負います」


リオネルはそう言うと、


「さあ、ヒルデガルド様」


と背を向けた。


アルヴァー達が検証をしている間、さくっと背負い搬送具を装着していたのだ。


「はい、失礼致します」


ヒルデガルドは、ぱっとリオネルの背におぶさった。


もう何度も背負われて慣れたもの。

それにヒルデガルドは、リオネルから『破邪聖煌拳はじゃせいこうけん』の手ほどきを受けているから、身のこなしも鋭くなっている。


「リオネル様、OKですわ」


「了解です」


返事をしたリオネルは、背負い搬送具のハーネスでヒルデガルドを固定。


「では、侯爵閣下、出発致しましょう」


「う、うむ!」


ケルベロスに先導させ、最後方をオルトロスに、上空をジズに任せると、

ヒルデガルドを背負ったリオネルは歩き出す。


だが、先ほどからアルヴァーは、気おされていた。


しれっとドラゴンどもを倒したリオネルとヒルデガルドにである。


特にリオネルは若干19歳の若輩なのに、

経験豊富な歴戦の勇士という趣きを漂わせている。


堂々と落ち着き払い、言動に全くブレがない。


そして伝説の勇者を遥かに超えたスケール、かつ底知れぬ実力を有し、

超の付く『大器』という言葉がぴったり来るのだ。


そんな事を考えながら、従者に手伝って貰い、アルヴァーは愛馬にまたがる。


そうして馬上の人となってからも……馬をゆっくりと進ませながら、

イエーラとの契約が切れたら、リオネルをアクィラ王国で雇用出来ないかと、

本気で考え始めていたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る