第638話「リオネルのささやきを聞き、マウリシオの好奇心がうずく」

「ギルドマスター、受諾するかしないかはご相談です。自分達も無理は言いません。まずお話をして貰えますか? お願いします!」


リオネルは柔らかく微笑みつつ、強くマウリシオへ迫った。


ヒルデガルドも懇願するような眼差しを向けていた。


対してマウリシオは、遂に腹をくくったらしく、


「うむ、分かりました。ではお話だけは致しましょう」


と、話をする事だけはOKした。


マウリシオの表情が曇る。

だいぶ深刻な案件らしい。


「実は……我が国の北方に険しい山岳地帯があるのですが、数年前に邪悪な巨大ドラゴンが住み着きましてな。そして最近はその邪竜がどこからか呼び寄せたのか、手下のワイバーン飛竜まで増えまして、群れで周辺の町や村を襲い、結構な被害が出ております」


「成る程」


とリオネルは頷き、


「それは………」


とヒルデガルドは途中から言葉を飲み込んだ。


ヒルデガルドは「大変ですね」という言葉を止めたのだが、

以前イエーラがオークの被害を受けていた時の気持ちが甦り、

事情も詳しく知らないのに「軽々しく言って欲しくない」

そう思われると考えたからだ。


無言になったヒルデガルドを横目で見て、リオネルは言う。


「ギルドマスター、これって依頼主はどちらでしょうか?」


「はい、国の災害となりますから、この案件の依頼主は当然、アクィラ王国王家です。窓口のご担当は、国王陛下の弟君であらせられる宰相閣下となります」


「成る程。山岳地帯周辺の町村に結構な被害が出ていて国の責任で解決する……それって、アクィラ王国の国民誰もが知りうる依頼ですよね?」


「そうです。王家、貴族以下国民は皆、憂えております。現地の被害者にいろいろな形で支援を行っていますが、いずれドラゴンどもがアクィラ王国中にも害を為すのではないかと」


「討伐状況と完遂条件はどうなのでしょう?」


「騎士隊、王国軍を、ドラゴン出現時から派遣しても、犠牲者が増えるだけで、中々討伐が叶わず、冒険者ギルドへ依頼がありました。報奨金は最初ドラゴンの討伐のみで金貨1万枚1億円でした。そこに数多のワイバーン討伐依頼も加わり、著しく加算されました。群れを全て討伐して金貨3万枚3億円という条件に変わっています」


「了解です。ギルドマスターは、ギルドのデータベースでご存じかもしれませんが、自分はフォルミーカ迷宮でドラゴンとの戦いは慣れています。この案件でも問題なく戦えると思います」


きっぱりと言い切るリオネル。


それでもマウリシオは渋い表情である。


「確かに、ドラゴンスレイヤーたるリオネル殿の戦歴は認識しております。しかしこの案件の首領格のドラゴンは体長20mはありますし、火の息ファイアブレスの威力は凄まじく、鱗におおわれた身体はとても頑丈です」


「ですか」


「ええ、加えて手下のワイバーンは十体以上も居ります。そしてずるがしこい事に奴らは常に群れで行動しますから、戦えば、陸、空と一度にドラゴンを数体を相手にするのと同じ状況になってしまいます。いくらリオネル殿とヒルデガルド様が強くても多勢に無勢だと……」


そんな話を聞いてもリオネルの表情は全く変わらない。

相変わらず柔らかく微笑み、


「100%とは言い切れないですが、ギルドマスターがご懸念されている多勢に無勢とはならないと想定します。自分とヒルデガルド様でも倒すのは充分ですが、念の為、従士を呼びますので」


「ほう、従士を呼ぶとは……それはリオネル殿が召喚魔法を使い、魔物を呼ぶという事ですか」


「はい、その通りです」


「しかし、相手は巨大ドラゴンとワイバーンの混成群ですぞ。生半可な魔物では返り討ちになるのがオチです」


ワレバッド時代に共に探索をした経験のあるブレーズやゴーチェならば、

リオネルの従士を知っているので反応が違うかもしれない。


「大丈夫ですよ、ドラゴンに充分対抗出来る従士を呼びますので」


マウリシオの懸念に対し、リオネルは「しれっ」と言い切ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


しれっと告げたリオネルの言葉を聞き、驚くマウリシオ。


「は!? ドラゴンに充分対抗出来る従士!? ま、まさか!? 対抗出来るくらいのドラゴンを呼ぶとでも!?」


「いえ、とりあえず、ドラゴンは呼びません」


「はあ!? と、とりあえず呼ばないとは!? どういう意味ですか!? リオネル殿!?」


「ギルドマスター、それ以上を話す前にお願いがあるのですが」


「そ、それ以上を話す前に、お、お願い!?」


「はい、ギルドマスターは、この案件の依頼主がアクィラ王国王家で窓口は宰相閣下だとおっしゃった」


「そ、その通りです」


「つきましてはまず、国賓であるイエーラのソウェル、ヒルデガルド様の宰相閣下への面会を求めたいのです。お話ししたい件がありますから」


「むう~~…………」


「どちらにしろ、ヒルデガルド様がご訪問される事はギルドマスターから王家にご報告されているはず。その上で、ギルドマスターがこうしてまずヒルデガルド様にお会いし、それから王家のしかるべき方へ橋渡しをするのは自然な流れ」


「まあ、それは確かに」


「宰相閣下であれば、ヒルデガルド様のご面会のお相手としては申し分ないですし、とりなしをして頂ければ、自分が何を召喚するのか、お教えしましょう」


「むう~~…………ギブアンドテイクという事ですか? リオネル殿」


「いえいえ、そこまでは……そもそも、害為す邪竜どもをいつまでも放置しておくのはアクィラ王国にとっては宜しくないでしょう? 自分が何を召喚して、奴らを倒そうとしているのか、知りたくはありませんか?」


リオネルのささやきを聞き、マウリシオの好奇心がうずく。


冒険者ギルドのデータベースで、リオネルの戦歴は誰もが知る事は可能だが、

戦法や召喚対象は一部の者にしか知られていない。


地上は勿論だが、特にフォルミーカ迷宮はリオネルが単身で探索したので、

ドラゴンや巨人族、上位魔族との戦いぶりなどはベールに包まれているのだ。


「ヒルデガルド様の橋渡しをした上で、リオネル・ロートレックがどんな召喚対象を呼び、どう戦うのかを把握し、宰相閣下へ依頼の方もお話しする……ギルドマスターの責務をしっかり果たすという事になりませんか?」


リオネルの問いかけを聞き、マウリシオはしばし無言であったが、


「………………負けましたよ、リオネル殿。約束します、貴方の要望を叶えましょう。その代わり……」


ようやく発した言葉が終わらぬうちに、


「はい、お答えしますね。俺が呼ぶのは冥界の魔獣ケルベロス、オルトロスの兄弟。そして巨大グリフォンの3体です」


「え!? えええええっ!!??」


またもしれっと言うリオネルの言葉を聞き、マウリシオは驚愕していたのである。

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