第614話「ははははは! ぼちぼちでランクS昇格は凄すぎるぞ!」

国賓たるヒルデガルドの警備体制に関して、

ブレーズは、リオネルの希望を最大限考慮すると言い、打合せは終わった。


そして準備期間に2日ほど欲しいと言われ、リオネルとヒルデガルドは了承する。


結果、ワレバッドの街中へ出るのが先延ばしとなり、

ヒルデガルドは少しがっかりしたが、リオネルは、この2日間を無駄にはせず、

ワレバッドの街中へ出る準備期間に充てる事、

その為にまず『買い物の続き』をしようと提案したのだ。


「ええっと、リオネル様、ワレバッドの街中へ出る準備期間に、買い物の続きをするのですか?」


「はい、まずヒルデガルドさんに人間族仕様の革鎧を買いましょう」


「え? 私に人間族仕様の革鎧ですか? 私、革鎧は既に数着所有していますが」


「実は俺、人間族とアールヴ族の革鎧を着比べてみました」


「着比べた? どういう事でしょう?」


「はい、デザインだけは好みによるとは思います。しかしアールヴ族の革鎧と比べ、軽量さ、機能性、耐久性は人間族の革鎧の方が、遥かに優れていると思いましたので」


「な、成る程、そういう事ですか」


「はい、でも実際に着て使ってみないと分かりませんし、さっき言ったように好みもあります。ちょうど良い機会なので、ヒルデガルドさんも人間族仕様の革鎧を試してみませんか」


「はい! こういうのもトライアルアンドエラーですね! 私、人間族仕様の革鎧、試してみますわ!」


「了解! じゃあ店で採寸をして貰い、オーダーのものを2着、既製品を3着くらい買いましょうか」


「分かりました」


「いつもの通り、今日もエステルさんが来るので一緒に行きましょう」


「はい!」


という事で3人はショッピングモールの武器防具屋へ。


まずは採寸。


女性専用の採寸室で、エステル立会いのもと、ヒルデガルドがサイズを測って貰い、

オーダーメイド10タイプのデザインが提示され、

リオネルのアドバイスを受け、2タイプを選んだ。

生地を裁断し、縫製。

聞けば完成するまで特急で3日だという。


こうなると後は連絡待ちである。


次は既製品3着。

店内のトルソに着せている商品を試着し、少し動いてみて、具合を確かめるのだ。

既に衣料品店で同じ方法の買い物をしているから、

ヒルデガルドも戸惑ったりはしない。


またヒルデガルドはスレンダーなモデル体型なので、

既製品の着用も全く問題はなかったのだ。


「リオネル様、どれが良いと思いますか?」


「どれも似合っていると思いますが、まずは自分が気に入ったものを選んでみてください、その上でアドバイスしますよ」


「う~ん。たくさんありすぎて、本当に迷ってしまいますわ」


「ヒルデガルドさんには、どれも似合っていますよ。ただデザインだけではなく、試着してみて、動きやすさ、使い勝手なども確かめてください」


「分かりましたわ。他に何かありますか?」


「そうですね、あとは順番を。気に入った革鎧の順に、例えばベスト10とか、優先順位をつけてみたらどうでしょう。選びやすくなると思います」


「な、成る程」


……という事で大いに迷ったものの、リオネルだけではなくエステルのアドバイスも受け、ヒルデガルドは革鎧を3着を購入、オーダーメイド2着を 完成待ちとした。


「ふう、良かったです。オーダーメイドものと含め、使うのが楽しみですわ」


これは結構な上客!!と店は認識。


こうなると、一緒にいかがと、

武器、その他の装備品をお勧めして来た。


ヒルデガルドがリオネルにお伺いをたてる。


「リオネル様、革鎧だけではなく、この際武器など、装備一式を揃えて構いませんか?」


「ええ、良いですよ。問題ないと思います」


という事で、革鎧を装着したヒルデガルドは、リオネルのアドバイスを受け、

小さな盾、小剣、鞭、装備品なども購入した。


一式、身にまとったヒルデガルドは、まるで冒険者のような雰囲気を漂わせ、

リオネルと並んで鏡に映し、「お揃いみたいですね」と、

いたく気に入ってしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


革鎧以下の一式が、よほど気に入ったらしい。

ヒルデガルドは、着替えず冒険者の出で立ちのままで、次の店へ行くと言い出した。


警備体制の準備が完了し、ワレバッドの街中へ出かける時も、この格好で行くとも。


リオネルにとっても願ったりかなったりである。


人間族の革鎧に身を包んだヒルデガルドは、革兜で特徴のあるとがった耳が隠れ、

近寄りまじまじと見なければ、すぐにアールヴ族とは分からない。


遠くから、ぱっと見ならば、ワレバッドの街中でどこにでも居そうな、

いち女子冒険者。

顔が識別出来るまで近寄れば、

とびぬけた美貌が目立ってしまうのは変わらないが……これは仕方がない。


そして人間族の革鎧を装着すれば防御力も、安全性も上がるのだから言う事なしだ。


その日は3人でランチして、魔法ポーション、魔導発煙筒など、

冒険者に必要な商品を数多購入した。


そんなこんなで、翌日。

エステル経由でブレーズから、準備が出来たが、

万全を期して、事前の確認を兼ね、2回目の打合せを行いたいと連絡が来た。


再び、エステルに迎えに来て貰い、サブマスター室において再び打合せを行う。


聞けば……リオネルの要望は全て通っていた。


ブレーズ曰はく、決定した護衛の数は総勢10名。

えり抜きの騎士、ランカー冒険者が選ばれ、

四方へ10m離れて、リオネルとヒルデガルドをさりげなく警護するという。


そして、


「スケジュールが合う場合は私ブレーズが現場の指揮官を務める」


との事。


その護衛の10名の中に久々に会う顔があった。


がっちりした体躯の男がリオネルに、ぶんぶんと勢いよく手を振っている。


「おう! リオネル君よ、久しぶりだな!」


「おお、ゴーチェさんじゃないっすか。お元気でしたか?」


そう、選ばれた護衛のひとりとして居たのは、

ブレーズの副官で、抜きんでた騎士であり、

現役のランカー冒険者でもあるゴーチエ・バラデュールである。


当然リオネルは事前に索敵で察知。

ゴーチェが居る事を認識していた。


リオネルの声に応え、ゴーチェはにっこりと笑う。


「ああ、俺はすこぶる元気だぞ。そっちこそ、元気そうだな」


「はい、まあ、ぼちぼちですよ」


「ははははは! ぼちぼちでランクS昇格は凄すぎるぞ! 単身フォルミーカへ挑んで、最奥まで行き、良くぞ無事に戻って来たな。まあ、色々話したいが後にしよう」


ここで笑顔のブレーズがゴーチェを紹介する。


「ヒルデガルド様、ご紹介致します。ウチの副官ゴーチエ・バラデュールです。私が不在の時はヒルデガルド様護衛の責任者、現場の指揮官となります」


紹介されたゴーチェは直立不動で、びしっ!と敬礼する。


「ヒルデガルド様! 初めてお目にかかります! お会い出来て光栄の至りです! ゴーチェ・バラデュールと申します。以後、お見知りおきを!」


「こちらこそ、初めまして。イエーラのソウェル、ヒルデガルド・エテラヴオリですわ。ゴーチェ様、宜しくお願い致します」


リオネルとしっかり手をつないで寄り添い、笑顔のヒルデガルドは、

元気よくあいさつした。


ゴーチェは事前にブレーズから、

リオネルとヒルデガルドの『間柄』は聞いているのだろう。

相手が国賓という事もあり、さすがに突っ込んだり、茶化したりはしなかった。


「うんうん」と頷いたブレーズは、


「では、王都の街中で起こりうる様々なケースを想定し、ヒルデガルド様警護のシミュレーションを行います」


2回目の打合せ開始を宣言したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る