第536話「貴方はかつて偉大なソウェルだった」
「おじいちゃんがイエーラに居ると、どうしても頼っちゃうからね♡」
驚くイェレミアスに対し、
ティエラは、うふふふと悪戯っぽく笑った。
そんなティエラに対し、驚いたイェレミアスはがっくりと脱力。
リアクションせずに無言。
「はあ……」
と大きくため息を吐いた。
そんなイェレミアスを見て、ティエラは引き続き面白そうに笑う。
「うふふふ、イェレミアス。貴方はイエーラにおいては、クレバー、合理的、冷静沈着、決断力がある偉大な
「…………………………」
「貴方の孫娘は、次期ソウェルとして期待されていた貴方の息子の忘れ形見」
「…………………………」
「不慮の事故で、貴方よりも先に逝った今は亡き息子のひとり娘だからね。息子にそっくりの端麗な孫娘。可愛くて仕方がない。溺愛するのも理解出来るわ」
「…………………………」
「イェレミアス、確かに貴方の孫娘は、貴方の資質、亡き息子の資質を存分に受け継いでいる」
「…………………………」
「でも、現時点では、残念ながら彼女の器は貴方や亡き息子には遠く及ばない」
「…………………………」
「そこで貴方は孫娘の成長を促すべく、思い切ってソウェルの地位を孫娘に譲り、旅立った」
「…………………………」
「このフォルミーカ迷宮の謎を極めてやろうという目的もあったわね」
「…………………………」
「残された孫娘は、貴方の信頼を得た側近とともに、期待に応えようと頑張って、ソウェルの重責を果たしている」
「…………………………」
「しかし、イェレミアス、貴方や息子の影響もあり、一族の因習に縛られ、発展しつつある世界に背を向け、何も受け入れず、自国イエーラのみで繁栄を図ろうとしている」
「…………………………」
「結果、イエーラはどんどん、どんどん、じり貧となって来ている」
「…………………………」
「このままではイエーラが、衰退の道を歩んで行くのは避けられない」
「…………………………」
「国を変えて行かねばならない。思い切った手を打ってね」
「…………………………」
「一族の事を第一に考えたら、貴方が孫娘以下へ強権発動し、一族全員を無理やり説得。他種族に対する優越的感情と排他的感情を完全に捨てさせ、人間が造ったこの迷宮の魔導技術を学ぶよう、導入させるしかない」
「…………………………」
「例え全てを学ばずとも、部分的に導入すればイエーラは持ち直せる」
「…………………………」
「却ってその方が良いかもしれない。この迷宮に眠る魔導技術は、凄いものよ。一気に世界のパワーバランスを崩す可能性もある」
「…………………………」
「世界がこの力を求め、戦争になる可能性だってある」
「…………………………」
「もしもそんな事になったら、アールヴ族は戦争を引き起こした張本人として、世界中から非難される恐れもある」
「…………………………」
「その懸念があるから、イェレミアス、貴方はこの迷宮に眠る技術をほんの一部分のみ持ち帰っても良いと考えている」
「…………………………」
「しかし、貴方の推測……否、絶対的な確信では、貴方の孫娘は、いくら説いても、人間が造った技術の導入など、たった一部分でも、100%応じない」
「…………………………」
「で、あれば……本来、貴方は、血のつながりより、一族の幸せと未来を優先し、鬼となって孫娘をソウェル不適格者とし、退位させなければならない」
「…………………………」
「でも、貴方には出来ない。 ソウェルを継いだ血のつながった亡き息子の忘れ形見たる孫娘が可愛いから」
「…………………………」
「いつの日にか、孫娘が、世界へ目を向け、現実を見極め、一族の為に革新的な考えへ変わってくれるだろうと、ありもしない甘い幻想に囚われている」
「…………………………」
「そして貴方自身の誇り、プライドが、人間の造った技術を尊び、人間におもねいたと見られるのを、よしとしない。この迷宮の技術を認め、感嘆しながらも、人間から学ぶなど、死にも勝る屈辱という思いがある。絶対に譲れないと」
「…………………………」
「イェレミアス、貴方の持つ葛藤とは、一族の未来、孫娘への情愛、そして自身のプライド……どれもが壊せない。だから、中途半端な優柔不断の『でもでもだって化』し、思考停止しているのよ」
「…………………………」
「貴方はかつて偉大なソウェルだった」
「…………………………」
「でも、イェレミアス、今の貴方は単なる引きこもりの魔法オタク。クレバー、合理的、冷静沈着、決断力が全て失われてしまった愚か者だわ」
「…………………………」
「で、このまま愚か者で良いと思ってるの? アールヴ族前ソウェル、イェレミアス・エテラヴオリ」
一方的にしゃべり、イェレミアスの窮状を指摘する、
地界王アマイモンの愛娘ティエラ。
対してイェレミアスは、
「ははははは………愚か者か……本当に私の気持ち、事情は全て、 ティエラさまにお見通しなのだな」
と言い、乾いた笑いを浮かべたのである。
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