第533話「まだ、ましだけど」

「この方は、高貴なる4界王のおひとり、地界王アマイモン様のご令嬢、ティエラ様です」


「な!!?? な、な、何いいいい!!??」


先ほど以上に驚愕するイェレミアスを見て、

対面に座ったリオネルは柔らかく微笑んでいた。


「加えてですね。ティエラ様は、今すぐこの場へいらっしゃるとの事で、俺の隣に座りたいとおっしゃっていますが、構いませんか?」


ティエラからの同席の許可を求める念話は、リオネルのみに送られたようだ。


その証拠に、盛大に噛みながら確認を求めたイェレミアス。


「そ、そ、そ、そうなのかっっ!!??」


更に叫ぶように言い放ち、即決する。


「も、も、勿論OKだっ! ぜ、ぜひ! いらして頂きたいっ!!」


イェレミアスがOKを出したと同時に、

「ぱきぱきぱき!」と、

リオネルが座っている長椅子ソファ上の空間が割れた。


更に「しゅ!」と鋭い音がした瞬間。


リオネルの右わきには、ちょこんとひとりの少女が出現し、腰かけていた。


「お、おおお!!?? あ、あ、貴女が!!?? テ、テ、ティエラ様かああっっっ!!!」


イェレミアスは、少女を見て驚嘆。

大きく目を見開いた。


彼の目の前に居るのは……

身長150cmくらいの、栗色の肩までの髪、褐色の肌をした、

人間族でいえば10代前半とおぼしき少女である。


少女は複雑な刺繍ししゅうが施された、茶色の革鎧をまとい、

可憐で愛くるしい顔立ちをしていた。


そう!

この可憐な少女こそ、高貴なる4界王のひとり地界王アマイモンの愛娘、

地の最上級精霊のティエラである。


そのあまりにも強大な魔力はイェレミアスを圧倒する。


……確かティエラは地母神になるべく修行中だとリオネルは聞いていた。


以前に会った時より、魔力のスケールが質量とも、大幅にアップしているのは、

地母神へとなるべく『本格化』しているのかもしれない。


本当に凄いなあ、ティエラ様は……


そして、本当に素敵だ!!


そんな事を考えていると、ティエラはすっとリオネルへ視線を向け、Vサイン。


リオネルが放つ畏敬、憧れ、愛の波動を感じたのだろう。


にこにこにこっと、心底嬉しそうに微笑んだ。


『うふふ、私も頑張ってるよ! リオの頑張りが、私の修行の励みになっているんだもん♡』


という念話の声も聞こえて来た。


Vサインをやめ、ティエラはイェレミアスへ向き直る。


驚き、呆然とし続けるイェレミアスを見て、ティエラは言う。

念話ではなく肉声である。


「うふふふ、は~い! 私とは初めましてだよね? アールヴ族の前ソウェル、イェレミアス・エテラヴオリ!」


「な!!??」


アールヴ族の前ソウェル。


ティエラから、ズバリと出自を告げられ、イェレミアスは大いに驚いた。


ここで補足しよう。


ソウェルとは、この世界のアールヴ族の長たる称号であり、

古代語で『太陽』という意味である。


やはりイェレミアスは、ただものではなかった。

アールヴ族を統括した頂点に位置する存在だったのだ。


ティエラは更に言う。


「うふふふ。リオが言った通り、私は高貴なる4界王のひとり、地界王アマイモンの娘ティエラ。地属性の私はさ、貴方の事はそこそこ知ってるよ、イェレミアス」


「う…………」


「貴方はさ、長きにわたって務めたソウェルの地位を後継者に譲り、自分はぼっちで放浪の旅に出たんだよね」


「むむむ……」


「そしてこのフォルミーカ迷宮へ来て、いのしえの人間が造った文明に触れ、驚嘆しながらも、ぜひとも我が物にしたいと欲したの」


「………………………」


「この文明を調べ学び、習得するうち、とりこになりながら、貴方は悩んだ」


「………………………」


「こんなはずはない! アールヴ族こそが至高の存在。頂点の種族のはずなのに、おかしい! という虚しい葛藤と闘いながらさ」


「………………………」


「実はこの文明を故郷イエーラ発展の為に持ち帰るか、否! 劣った人間族の文明など絶対に持ち帰れない! と大いに悩み中なんだよね?」


「………………………」


「まさか、貴方が独自に、オリジナルで全てを生み出したとか、大嘘をつくわけにもいかない」


「………………………」


「誇り高い貴方は嘘が大嫌いだし」


「………………………」


「結果、まだ全てを習得したわけじゃないからと自分に言いわけしながら、この迷宮にずるずると安住してしまった」


「………………………」


「まあ、貴方は一般的なアールヴ族よりは排他性が低く、他の種族とコミュニケーションをとったりする寛容性があるから、まだ、ましだけど」


「………………………」


「そもそもアールヴ族はさ、風と水の属性を特に尊ぶから、地や火の属性は二の次」


「………………………」


「まあ、貴方達アールヴ族は緑豊かな深い森は好むから、地の精霊であるお父様も私も、最低限の付き合いはしているっていったところね」


歯に衣着せぬティエラの突っ込み。

イェレミアスは完全にたじたじである。


「うむむ……貴女は何から何まで、一族や私の個人的な事情をお見通しなのだな」


「ええ、そうよ。貴方は、ず~っともったいぶってさ、リオの話ばかりを欲しい欲しいのクレクレ君じゃ、それはちょっとずるいんじゃないの?」


イェレミアスと正対したティエラはそう言うと、

「うふふ」と悪戯っぽく笑ったのである。

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