第530話「リオネルの興味は尽きない」

次は、自分が話す番……

リオネルの対面にある長椅子に座り、苦笑したイェレミアスは、

自身の事を語るべく口を開いた。


リオネルは、笑みを浮かべたイェレミアスの顔をじっと見つめた


どのような話から始まるのかと思っていたら、

話は唐突に、自身のカミングアウトから始まる。


「リオネル君同様、私も元冒険者だったんだ」


「え? ……イェレミアスさんは、元冒険者なんですか?」


「うむ、だがな……職業というか、肩書きこそ冒険者でも、人間族の作った組織、冒険者ギルドには所属しない立ち位置ではあった」


「成る程。ギルドには所属せず、完全にフリーって事ですね」


「うむ、人間族が作った堅苦しいルールと金にしばられ、振り回され、ギルドに命じられたままに働くなどまっぴらだった」


基本的に、エルフことアールヴ族は誇り高く排他的で、他種族を見下す傾向があるという。

人間族とは、交流もあるが、ドワーフことドヴェルグ族と犬猿の仲なのはあまりにも有名だ。


リオネルは、迷宮探索の途中、ドヴェルグ族と仲良くなったが、

敢えて言わない事とする。


まあ『視点』により、イェレミアスは把握しているだろうが。

尋ねられなければ、話す必要はない。


「…………………………」


それに丁度いいとばかりに、途中からリオネルは無言となった。

イェレミアスのひとり語りを、とりあえず最後まで聞こうと考えたのだ。


一方、イェレミアスの話は更に続く。


「私はだいぶ前に、生まれ故郷のイエーラを出て……自由気ままに旅をし、出会い難儀した者達を助け、彼ら彼女達から心ばかりの謝礼を貰い、また旅をした」


イェレミアスの言葉を聞き、リオネルは推測した。


多分、イェレミアスは生活にはそう困っていない。


リオネルが今まで見て来た冒険者達のような、生活に対する必死さ、ハングリー精神が感じられないのだ。


故郷を出て旅をしながら、片手間に冒険者が請け負うような仕事を行い、

わずかな謝礼を受け取るレベルだったのであろう。


更にここで補足しよう。

……イェレミアスが生まれ故郷だと言うイエーラは、

アールヴ族が住まう、この世界における北方の国。

針葉樹、広葉樹等々が混在する深い森と点在する蒼い湖の美しい国だ。


「…………………………」


イェレミアスは、しみじみと言う。

懐かしいなあという顔つきである。

昔の記憶をたぐっているようだ。


「私はな、世界各地、いろいろな場所へ旅をし、数多の人々と会った」


「…………………………」


「気の向くまま、予定を決めずあちらこちら、様々な場所へ行ったが……唯一、最初から予定して、目指したのは、このフォルミーカ迷宮であった」


「…………………………」


「ちなみに……この世界では有名なフォルミーカ迷宮の存在は、当然ながら知ってはいたよ」


「…………………………」


「但し、この迷宮が他の迷宮同様、単なるただ深い迷宮であるならば、私はわざわざ足を運び、探索に至るなど絶対にありえなかった」


「…………………………」


「私が興味を持ったのは、地下150階より先に未踏破のフロアがあると、各所で噂されていた事だ」


「…………………………」


「実はな、我が家に伝わる古文書に、人間族が造ったという、アールヴ族に匹敵する魔法を駆使した古代都市があるという記載があり、ぜひとも裏付けをとるべく確かめたかった」


「…………………………」


「多分、いにしえの時代のアールヴ族が足を踏み入れ、帰還し、記録を残したのだろう。それがどこかへ漏れ広まり、世間の人々が噂する事となったに違いない」


「…………………………」


「そこで私は、長い旅の末、フォルミーカの街へ到着し、今のリオネル君同様、単独でこの迷宮へ入り探索した」


「…………………………」


「そして、ストーンサークルに隠された転移装置の謎を何とか解き明かし、地下151階層以降へ足を踏み入れたのさ」


自分と同様に単独で迷宮へ?


当時も、これまでリオネルが戦った魔物どもが跋扈していたに違いない。


その中を、話しぶりからだとあまりダメージを受けず、地下150階層へ到着した?


やはり、イェレミアスは、相当な術者のようである。


まずゴーレムに関する知識、技術は底知れない。


更に、ストーンサークルの謎まで解き明かした。


またイェレミアスは、どのような魔法をどのように使うのだろうか?


フォルミーカ迷宮の古代都市だけでなく、イェレミアス自身にも……リオネルの興味は尽きない。


「…………………………」


リオネルは無言のまま、小さく頷いた。

いよいよ話が核心へと入りそうだ。


イェレミアスは、あっさりと言う。


「すると、古文書の記載通り、広大な地下都市のある事が判明した」


「…………………………」


「しかし、残念ながらこの古代都市は完全に機能を停止しており、造った者達の姿もなかった。もしかしたら、何らかの理由で全員が撤退し、一切を放棄したのかもしれない」


「…………………………」


「荒れてはいたが、幸い、古代都市は破壊されてはいなかった。殆どがそのまま残っていたよ」


「…………………………」


「発見した都市のスケールに驚きながらも、大いに満足した私は、探索をしつつ、大量のゴーレム達を発見したから、まずは復活させた」


「…………………………」


イェレミアスはそこまで話すと、美味そうに茶をすすったのである。

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