第481話「これは、間違いなくアールヴ、イェレミアスの魔力だ」

『……リオネル様が再起動させたゴーレムと同じ魔力の残滓! 造ったアールヴ、イェレミアスとかいう人の魔力残滓だよ!』 


妖精ピクシーのジャンはそう言うと、「ふふふ」と面白そうに笑った。


面白そうに笑うジャンの言葉を聞き……リオネルの記憶が鮮やかに甦る。


フォルミーカ地下街の片隅ににある古い造りの地味な魔道具店 クピディタース。

その店の店長で、元冒険者の魔法使いボトヴィッド・エウレニウス。


リオネルが入店した際、最初はひどく頑固で、取っ付きにくかったが、

買い物をしたりして、何回かのやりとりの末、打ち解けた。


そして、ボトヴィッドはリオネルへ、

世界の至宝『ゼバオトの指輪』を譲ってくれた恩人だ。


そのボトヴィッドが現役の冒険者であった頃、尽くした友情の証として……

自動人形オートマタに近い精巧なゴーレム『アートス』を贈ったのが、

フォルミーカ迷宮の深層に棲むアールヴ、イェレミアスという魔法使い。


リオネルは原因不明で機能停止していたアートスを『ゼバオトの指輪』から授かった叡智の応援もあり……魂修復の秘術を行った。


魂修復の秘術……

リオネルが得意とする最上位級の回復魔法『全快』

そして究極防御魔法『破邪霊鎧』の魔力を練り、魂を穢す邪気を払い、

清めて行く方法で、ゴーレム『アートス』を復活させたのである。


ジャンの報告によれば……

ゴーレム『アートス』を、ボトヴィッドへ贈ったイェレミアスの魔法残滓を、

この地下123階層のある場所で認識したという。


更に詳しい場所を聞けば、このキャンプから東へ約1km離れた地点である。

このキャンプ地と似た地形らしい。


転移魔法を習得したリオネルからすれば、造作もない距離だ。


瞬時に行って、確認し、戻って来る事が可能だろう。


ぱぱぱぱぱぱぱ!とリオネルは考える。


よし!

決めた!

発見者のジャンは勿論、ジズとアスプ10体を連れて護衛と探索役で連れて行こう。


『ジャン、現場へ案内してくれ! ジズ、アスプは同行。転移魔法で一緒に行く! フロストドレイク、アスプ10体はこのまま留守番、外敵からキャンプを守れ!』


リオネルの指示を聞き、仲間達は即座に動いた。


ジャン、ジズ、アスプ10体は同行の為、リオネルにぴたっと寄り添う。フロストドレイクはそのまま周囲へにらみをきかせ、残りのアスプ10体はキャンプの周囲を固めた。


その様子を見たリオネル。


転移トランジション!』


転移魔法を発動し、ジャン、ジズ、アスプ10体とともに、目的地へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ジャンの記憶は確かである。

そしてリオネルの行使した転移魔法の制御も完璧である。


リオネル、ジャン、ジズ、アスプ10体は瞬時に目的の場所へ現れた。


やはりキャンプ地と酷似した空き地である。


すかさず、リオネルの指示が飛ぶ。


『よし! 全員配置へつけ! 外敵に注意だ! ジズは上空から偵察! アスプ10体は周囲に展開! 近づく奴が居たら、各自念話で報せ、且つ牽制しろ!』


対して、ジズは急速上昇で舞い上がり、アスプ10体は、飛ぶように地を走り、散開した。


『OK! 全員迅速で何よりだ』


大きく頷いたリオネル。


続いて、ジャンへ言う。


『ジャン、魔力残滓の反応はひどく弱いようだ。お前が残滓を感じた場所へ案内してくれないか』


『了解! おいらが気付いた時よりもだいぶ弱くなってるね! こっちだよ! リオネル様!』


ジャンはリオネルを魔力残滓のあった場所へ連れて行った。


……ほんのわずか魔力が残っていた。

アートスを再起動したリオネルには分かる。


これは、間違いなくアールヴ、イェレミアスの魔力だ。


多分、この場でイェレミアスは、何か魔法を使ったのだろう。


しかし、痕跡はどんどん薄くなっており、追跡も困難そうだ。


実はリオネル、ボトヴィッドから、イェレミアス宛の手紙を預かっており、

機会があれば渡して欲しいと頼まれていた。


ボトヴィッドには『ゼバオトの指輪』を譲って貰った恩がある。


当然リオネルは、快く引き受けた。


イェレミアスと巡り合えば、ぜひ渡したいと考えているが、

念の為、もしも会えたらという条件付きで。


ボトヴィッド曰はく手紙は『生存報告』らしい。


……そのイェレミアスの手掛かりが遂に見つかったのだ。


リオネルは、この場で急きょ魔獣兄弟ケルベロス、オルトロスを呼び出し、

念の為、魔力残滓の特徴を覚えて貰った。


ちなみに休憩を中断し、呼び戻した事について、

いたわり、詫びた事はいうまでもなかったのである。

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