第473話「すっげえ再生能力! やはり記録資料や古文書の記載通りだ」

ヒュドラは、ゆっくりと9本全ての首を動かし、リオネルへ向けた……


そして爬虫類特有の無機質な視線も、リオネルへ一斉に注がれた。


リオネルは、念話で仲間達へ指示を出す。

ヒュドラが発する猛毒と瘴気への懸念である。


『お前達、念の為、下がっていてくれ。もしもやばかったら、俺もすぐ転移魔法を使い、撤退する』


『了解!』という意思が戻ると同時に、ケルベロス達は猛毒と瘴気が及ばない位置へ退避した。


仲間達の退避とほぼ同時。


ヒュドラは、リオネルを威嚇するかの如く、9本の首についた顔その口から、

濁った猛毒とおぞましい瘴気を吐く。


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


広大な沼地一帯は、更に猛毒と瘴気に満ち、濃度が、著しく上がった。


そんな中、リオネルは平然と微笑み、腕組みをして立っていた。


……沼地へ足を踏み入れる前、内なる声が報せて来たのだ。


『ヒュドラの毒と瘴気など、全く臆する事はない』と。


その直後に聞こえて来た、違う声もあった。


『怖れる事無く、進め』という、


リオネルの力を認めつつある、意思を持つ至宝

『ゼバオトの指輪』が発した声であった。


……今まで受けたアスプ、コカトリス、バジリスクの毒より、

ヒュドラの毒は遥かに強力らしい。


「らしい」というのは、『破邪霊鎧はじゃれいがい』の効果効能で、

全く刺激を感じないアスプ達の毒に比べ、

ヒュドラの毒は多少ピリピリとリオネルの鼻、肌を刺激するからだ。


しかし!


やはり究極の防御魔法『破邪霊鎧はじゃれいがい』の効果効能は抜群。


常人なら即座に死に至るヒュドラの毒でも、ほんの少し刺激を与えるだけ。


リオネルへのダメージは、限りなくゼロに近い。


泰然自若とするリオネルを見て、ヒュドラは大いにれ、いらつく。


波動も伝わって来る。


こんなはずはない!


たかがちっぽけな人間の癖に!


単なる餌の癖に!


我の毒でたおれろ!


さっさと!


斃れてしまえ!


そのせいか、更に更に!

ヒュドラは猛毒と瘴気を吐き散らす。


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


しかし!


リオネルは腕組みをしたまま笑みを絶やさない。


そして軽く息を吐く。


『それだけか? ワンパターンの毒蛇め』


そんな念話をヒュドラへ送りながら、

リオネルはゆっくりと体内魔力を上げていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ヒュドラを見据えながら、リオネルは、聞いた話、資料を思い起こす。


ええっと、確か……とんでもない体力こそあれ、

ヒュドラの攻撃力自体はそれほどでもない。

9つの大きな口による『丸呑み』くらいだ。


ワイバーン同様、ノーマルドラゴンの火竜タイプのように、

口から火の息……灼熱の火炎を吐いたりはしない。


ヒュドラの決め手、猛毒と瘴気さえ封じてしまえば、残る問題はふたつ。


斬ってもすぐ首が生えて来る底知れぬ再生能力。

加えて9本の首のうち、中央の首ただ1本が持つ不死性である。


古文書によれば、古代の英雄は、剣で斬ったヒュドラの切り口を、

すかさず従者にたいまつの炎で焼かせ、再生を防いだという。


そして不死性を持つ中央の首はどうしても倒せず、

巨大な岩の下へ封じたと伝えられる。


ちょうど良い。

いろいろと試してみるか!


自問自答したリオネルは、まずはジズが使った風の魔法『風斬』を放つ。


リオネルが使っていた『風刃』の上位魔法で威力は約5倍だ。


しゅばばばっっ!!!!!


ずばああっっっっ!!!!!


『風斬』の鋭い大気の刃は見事!

ヒュドラの首1本を斬り落としたのである。


しかし!


むにむにむにむに………


1分たたないうち、切り口から、2本の首が生えて来た。


おお!

成る程。


すっげえ再生能力!


やはり記録資料や古文書の記載通りだ。


俺も古代の英雄のやり方で倒すか?


ふむふむと納得し、頷くリオネル。


首を斬り落とした上に、余裕しゃくしゃく。


そんなリオネルを見て、ヒュドラは憤怒状態!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


ヒュドラは猛毒と瘴気を吐き散らす。


しかし!


リオネルは腕組みをしたまま笑みを絶やさず、

次の魔法発動に向け、体内魔力を上げていたのである。

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