第469話「幅3mほどしかない、切り立った崖の頂上で、不敵に笑うリオネル」

『しばらくは、夜、暗闇がない世界が続く。明るくて眠れるのか?』


ケルベロスの問いに答えた通り、明るい中でも平気の平左。

リオネルは、ぐっすりと眠った。


こういう事もあろうかと、『昼間寝る訓練』をしていた事が役立ったのだ。


……結局、睡眠の魔法が付呪エンチャントされた、

目覚ましタイマー付きの特製アイマスクは使わなかった。


しかし、リオネルは無駄とは思わない。


備えあれば、うれいなし。

一手だけでなく、二手、三手それ以上、考え用意しておけば、

何か想定外な事が起きた場合、対応可能となる。

……であれば、リスクは減ると考えるのだ。


さてさて! 翌朝早めに起床。

支度をし、朝食を摂り、リオネルは出発。


122階層へ降りて行く。


リオネルが降りる階段は、上物部分に石造りの小屋が建ち、頑丈だが簡素なもの。

出入り口に扉はない。


左右は5m、高さは5mほど。

人間が通れるくらいで、こじんまりしている。

大型の竜や巨人は、通る事は出来ない。


地下121階層から149階層は、フロアごとの天井が高いせいか、

この階段も深くて長い。

途中、踊り場のような場所もあり、延々と続いていた。


この階段には魔導灯などの照明設備はない。


リオネルのように照明魔法の魔導光球か、

自前で魔導灯か、たいまつなどを用意し、明かりを取らないと、進みにくい。


そんな状況だが、リオネルの足を止め、難儀させる要素はなかった。


ただただ「進む」だけだ。


階段を降りきる少し前で、リオネルは安全を確認する。

索敵……魔力感知をMAXにするとともに、先行させたケルベロス、オルトロス、

ファイアドレイク、ジズ、アスプ10体を周囲の確認にあたらせる。


仲間達は、出口から出て、数km先まで確認。

異常なし、人間族のリオネルに危険がない事を知らせて来た。


「ここまで強くなっておいて臆病者め」と蔑む者が居るかもしれない。


しかし、笑いたい奴には笑わせておけとばかりに、

リオネルはスルー、万全を期すのだ。


「上には上が居る」とリオネルは思う。

ティエラ、そして高貴なる4界王を見て実感している。


油断大敵

おごれるもの久しからず。

他にいくつもあるが、リオネルは常に己を律し、慢心せぬよう、

気持ちを引き締めているのだ。


そんなこんなで、リオネルは外に出て、地下122階層へ足を踏み入れた。


目の前には……

121階層と同じ光景が広がっていた。


天井まで100m以上もある巨大洞窟のような広い空間が広がっている。

その天井から、日光のような高魔力の暖かな明るい光がふりそそぎ、

さわやかな風が吹き込む。


地上は大木が「うっそう」と生い茂った深い密林が殆ど。

ところどころ、川に沼があり、峡谷のような岩場や荒涼な原野、砂漠も混在して見える。


よし!

油断だけはしないけど、昨日の経験が大いに役立つだろう。


気合を入れ直し、リオネルは探索を開始したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……引き続き、フォルミーカ迷宮地下122階層を探索するリオネル。


相変わらず、シーフ職スキルを駆使し、


『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。


やはり、地形は地下121階層と変わらない。

となれば、リオネルは慣れたもの。


転移魔法、飛翔魔法は勿論。


狼、馬の走法、うさぎのジャンプ。


更には、りすの木登りにむささびの滑空などなど。


失われた魔法に加え、チートスキル『見よう見まね』で習得した動物の能力で、

あらゆる地形を楽々とクリアして行く。


リオネルが30mもの高い崖を飛翔し、上昇。

幅の狭い頂上に降り立った時である。


リオネルを獲物として『ロックオン』したのであろう。


数百メートルさきから、凄まじい速度で、接近する飛翔体がある!


それも複数である。

どうやら小群らしい。


どうやら魔物のようであるが、リオネルは、

索敵……数kmを範囲内を捉える魔力感知と、

1,000m先を見通す『大鷲の目』により、既にその正体をはっきりとつかんでいた。


おお!

やっとおでましか!

待っていたぜ!


幅3mほどしかない、切り立った崖の頂上で、不敵に笑うリオネル。


仲間達もすぐ敵襲に対応する。


まずは1mの大鷹と化した鳥の王ジズが猛スピードで駆け付けた。

はばたき、リオネルの前をゆうゆうと旋回。


更に火の精霊サラマンダーに擬態したファイアドレイクが、

飛翔して、割って入り、威嚇するかのように、短く炎を吐く。


『陸戦兵器』のはずのケルベロス、オルトロスも素晴らしい脚力で、

直角に近い崖を、とんでもない速度で駆け上って来た。


幅3mほどしかない、切り立った崖の頂上。

グレー、漆黒、それぞれ灰色狼風に擬態した姿。


魔獣兄弟ケルベロス、オルトロスは、

リオネルを挟むように、守るようにし、低く唸り、迫る敵を威嚇する。


飛翔体の正体は、すぐ誰の目にも明らかとなる。


リオネル達を襲おうと迫って来たのは、

体長が10mに達する飛竜、ワイバーン5体の群れだったのである。

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