第453話「効率第一主義の魔法使いなら、こんなに手間のかかる事はしないよな。でも、まあ良いかあ」

頷いたリオネルは、迫るゴーレム30体に備え、

呼吸法で体内魔力を上げた。


やがて通路の奥から現れたのは……

全てゴーレム。


ミスリル製が10体、銀製が10体、水晶製も10体の計30体、

リオネルが索敵――魔力感知で捕捉したのと、

仲間のケルベロス達が報告して来た通りだ。


先ほどと同じ段取りなら、捕獲は容易である。


地の最上級精霊ティエラ直伝『大地の束縛』でゴーレムども全30体の身体機能を、

まとめて一度で奪った上……

ゴーレムを起動した、どこぞの術者が刻んだ魔法文字『真理』を、

さくさく綺麗に削除すれば簡単に済む。


その後で、リオネルは『真理』の魔法文字を刻みなおし、

自分の『仲間』にする。

それが効率を第一に考えたら、ベストな選択だ。


ちなみに、相手を怯えさせ、行動不能とする『威圧』のスキルは、

感情を持たない疑似生命体には通用しない。


恐怖という感情を持たないゴーレムは、怖れるという行為をしないのである。


それゆえ、リオネルは最近、敵を行動不能とする際、

地の魔法『大地の束縛』を行使する事が多い


『大地の束縛』のメリットは、地の加護による魔力消費の少なさは勿論、

属性に関係なく有効な万能性である事。

一度に複数、広範囲の敵に仕掛けられる事。

相手にもよるが拘束時間が平均30分と長い事。

ティエラから使用頻度のアップを念押しされている事等々。


しかし今回、リオネルは特異スキル『フリーズハイ』レベル補正プラス40を使い、

30体のゴーレムどもへ挑む事にした。


……以前から、機会があればと考えていた。

今回がそのチャンスだ。


リオネルは記憶をたぐる。

スキル『フリーズ』を授かった時には、超が付くくらい使い勝手が悪く、

司祭や家族からは外れスキル、屑スキルと散々蔑まれた。


それでも冒険者になりたての駆け出しの頃は、とてもお世話になった。

何度命を助けられたのか、敵を倒す事が出来たのか、数限りない。


そんな『フリーズ』もチートスキル『エヴォリューシオ』習得とその効果により

特異スキルへ劇的に進化。

更に進化し、『フリーズハイ』レベル補正プラス40となった。


現在『フリーズハイ』レベル補正プラス40の有効時間は8分、

射程は800mまで延び、連射は8回になった。

リロードインターバルは、1秒を切る、つまりほぼ不要だ。


フリーズは敵の足を止める等、『毒舌の司祭』が褒めた貴重なスキルといえよう。


しかし、『大地の束縛』『威圧』に比べて使い勝手が悪い。


敵に対し個々に命中させ、効果を発揮させねばならないからだ。


高レベルの敵の『1対1』ならばまだしも、『集団戦には不向き』なのである。

ゴーレムのように捕獲を意図するなら尚更だ。


それでもリオネルが敢えて使うのは、『フリーズ』に愛着がある事。

『フリーズ』の熟練度を上げ、

来るべき使用時にタイマン、一騎打ちに備える為なのである。


幸いゴーレムの動きは、他の魔物に比べると緩慢だ。


身体も大きく、狙いもつけやすい。


リオネルは『フリーズハイ』レベル補正プラス40を8連射。

1秒のリロードをはさみ、8連射。

更に8連射、6連射。

全てが命中し、ゴーレムは30体全てが迷宮の床へ伏したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


迷宮の床へ伏したゴーレムの魔法文字『真理』をひとつひとつ削って行くリオネル。


先に30体の魔法文字を削ってから、収納の腕輪へ仕舞うのだ。


しかし……


「ふ~~~。普通に戦うのなら良いけど、やっぱり、ゴーレムの捕獲だと、フリーズは使い勝手が悪いな」


大きく息を吐き、苦笑した。


行動不能にし、すぐにとどめを刺し、倒すならともかく、

ボディを傷つけることなく、慎重に真理の文字を削るという作業は、

思いのほか時間と手間がかかる。


8分のタイムリミットはすぐに来て、作業中にゴーレムは復活、再び動き出した。


そして、容赦くなくリオネルへ襲いかかって来たのだ。


当然ながら、リオネルは索敵……魔力感知ですぐ気付くが、その都度再び、

『フリーズハイ』レベル補正プラス40を行使し、行動不能としなければならなかった。


そんなこんなで、いつものゴーレム捕獲よりも数倍手間がかかったが無事終了。


幸い、今回は「増援、加勢が現れた」は起こらなかった。


「効率第一主義の魔法使いなら、こんなに手間のかかる事はしないよな。でも、まあ良いかあ」


再び苦笑するリオネルへ、念話で次々に声がかけられた。


『こら! あるじ! 我に仕事を振れ。非効率な事をするな』

『おう! 兄貴の王通りだ! 俺達をガンガン使え!』

『!!!!!!!!』


ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟とファイアドレイク、

そしてアスプ達までも、『もっともっと俺達へ頼れ!』というもの。


嬉しくなったリオネルは、更に地下112階層の探索を続けたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る