第334話「今度は未知の異国へ行く、とても楽しみだ……」
カントルーブ男爵家当主アロイスの書斎……
応接用ふたつの長椅子に、リオネルとジェロームが向かい合って座っていた。
本日すぐに出発すると、リオネルが告げた為、
「ふたりきりで話したら」とエリーゼが気を利かせ、
父アロイスを連れ、席を外してくれたのである。
「リオネル」
「おう」
「改めて礼を言おう! ありがとう! リオネル!」
「こちらこそ、ありがとう! ジェローム!」
「何言ってる! リオネル! お前にはゴブリンどもに襲われて絶体絶命の時、命を助けて貰った。その上、親友として師匠として、何から何まで世話になった。本当に感謝しているよ」
「そうか! こちらこそお前には感謝しているよ、ジェローム」
ここで、ジェロームはリオネルから贈られたアミュレットを改める。
「リオネル、お前に貰ったこのペアのアミュレット……凄いお守りみたいだな」
「ああ、俺が気合を入れ、破邪魔法を
「おお、ありがとう! リオネル、お前にはオークキングの指輪も貰ったよな」
「おお! あの指輪も今後いろいろ役に立つはずだ。大いに活用してくれ」
「リオネル、俺、お前との思い出が尽きない! 一生忘れないよ!」
「ああ、俺もさ! 一生忘れない!」
ふたりは記憶をたぐる。
ワレバット近郊の街道で出会い、冒険者として修行を積み、お互いの境遇を話し、依頼を完遂した。
いろいろな想い出が走馬灯のように甦って来る……
「リオネル、お前と過ごした時間は、俺が生まれてから実家で過ごして来た18年の人生より全然短いけど……」
「…………………」
「……18年より何倍も濃い、充実した時間を過ごす事が出来た。一生の思い出になるよ」
「俺も全く同感だよ、ジェローム」
「ああ! リオネル! これが永遠の別れじゃないぞ! 必ずまた会おう!」
「おう、ジェローム、絶対にまた会おう。これからは、お互いの道を行くって事になるな」
「ああ! 俺はカントルーブ男爵家を盛り立てつつ、レサン村の為に、粉骨砕身で働くよ。お前に教わった事がいろいろ役に立つと思う」
「頑張れ! 但し身体には充分に気を付けろ、ジェローム。お前に万が一の事があれば、エリーゼ様が悲しむからな」
「ああ! 分かってる! 気を付けるよ、リオネル」
「うん! 俺はワレバットへ戻り、しばらくしたら、隣国アクィラ王国の迷宮都市フォルミーカへ旅立つ! 自分の限界を突破したい!」
「そうか! 本当は俺と出会った時くらいにすぐフォルミーカ迷宮へ行くはずだったんだろう? 俺のせいで、だいぶ遠回りさせちゃったな」
「そんな事ないさ、ジェローム。お前と出会い、俺は更に成長する事が出来た。万全の態勢で迷宮へ挑む事が出来る」
「その言葉、俺もそのまま返すよ、リオネル。お前のお陰で俺は凄く成長する事が出来た」
「でも! ジェローム! 俺達は18歳。まだまだ若い。人生の半ばにも達していない。もっともっと成長出来る! 発展途上だ!」
「ああ、リオネル、そうだな! 発展途上だな!」
「成長するだけじゃないぞ! 今までの分を何倍も取り戻すくらい、幸せになれよ、ジェローム」
「ああ、俺はエリーゼ、アロイス父上、部下達、村民達とともに必ず幸せになる! リオネル! お前も素敵な想い人と巡り合い、絶対幸せになれよ!」
話は弾み、尽きないが、そろそろ頃合いだ。
最後に、リオネルはジェロームと拳をタッチ、フィストバンプを交わした。
そして、リオネルは何かあれば助けになる、相談するようにと言い、
冒険者ギルド総本部、もしくはキャナール村宛で、連絡を取るようにと、
師モーリス・バザンの名を伝えたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジェロームとの話が終わり、リオネルは改めて、アロイス、エリーゼ以下、
カントルーブ男爵家の面々にあいさつ。
親しき友として、ジェロームの事を頼むと、城館を後にした。
「さようならあ!」
「お気をつけてえ!」
「また、来てくださ~い!」
全員が正門前まで来て、名残惜しそうに、リオネルを見送ってくれた。
「皆さん、お元気でえ!!」
リオネルは立ち止まり、振り返ると、回れ右。
別れの声に応え、手を大きく打ち振った。
そして踵を返すと、たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!
と軽快に歩いて行き、しばらくして街道へ出た。
ここまで来て、改めて出会いと別れを経験したのだと実感する。
……ワレバットへ戻ってから、万全の準備をしてフォルミーカへ旅立とう!
今度は未知の異国へ行く。
どんな人達に会い、どんな出来事が待っているんだろう。
とても楽しみだ……
城館を出てから張り巡らせている索敵、魔力感知に反応はない。
念の為、周囲を見回しても人影はない。
「さあて、戻るか」
ふっと笑ったリオネル。
「転移!」
瞬間!
リオネルの姿はあっという間に、街道から掻き消えていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます