第329話「はあ~い、リオ!」

ゴブリンの襲撃で死傷者、果樹園、農地に被害が出て、領主アロイス・カントルーブ男爵も倒れ、悲しみに染まっていたレサン村。


しかし、アロイスの愛娘、領主代行のエリーゼ・カントルーブが呼び寄せた冒険者リオネル・ロートレック、ジェローム・アルナルディが、状況を一変させた。


2年に亘り、人々へ害を為して来たゴブリンは完全に討伐され、

心労で倒れたアロイスも回復したからである。


アロイスは、荒れ果てたレサン村を復興させる為、リオネルとジェロームに、

『支援施策』の依頼をする事を決定した。


決定の翌日午前、カントルーブ男爵家の城館では、大広間でレサン村の『支援施策』が話し合われた。


出席者は、領主アロイス・カントルーブ男爵、愛娘の領主代行エリーゼ、

家令バンジャマン、従士長、レサン村村長、助役、自警団団長、副団長と多士済々、

そして冒険者リオネルとジェロームである。


リオネルとジェロームは、多岐に亘った『支援施策』のメニューを提示する。


外敵から防ぐ防護用の岩壁の建設と整備、その外敵に荒らされた農地の復興。

更に、新規の農地の開拓、畝づくり、作物の種付け、植え付けの各手伝い、

灌漑設備建設の協力。


ワレバットの街からの救援資材の輸送と搬入、依頼地からワレバットへの荷物送付、自警団への武技の指導、昼夜の警備方法の指導、及び周囲のパトロール方法の指導。

墓地の除霊、浄化まで……更に新たなリクエストがあれば、要相談で対応する。


このうち、レサン村における外敵から防ぐ防護用の岩壁の建設と整備は、

リオネルが『特別サービス』で行っていた。


リオネルとジェロームはメニューについて付帯説明を行う。

人力のみでなく、魔法とゴーレムを使い、実施する事。

更にイメージしやすいよう、各地の実績などの経験談なども織り交ぜて話す。


さてさて!

メニューの多さにカントルーブ男爵家側は、喧々諤々けんけんがくがく

迷いに迷ったが、結局は絞った上、優先順位をつけた。


荒らされたぶどう、ももなどの果樹園、農地の整備、復興、新規の農地の開拓、畝づくり、植え付けの各手伝い、灌漑設備建設の協力となった。


料金の交渉も行われ、無事に妥結した。


そして思うところがあっての事なのか、

アロイスは何かあれば自分に相談するようにと言い含め、

今回の『支援施策』の指揮を、領主代行、愛娘のエリーゼに任せたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


同日午後、果樹園……


まずリオネル達は、『支援施策』のしょっぱなとして果樹園へやって来た。


ゴブリンの襲撃が始まってから、果樹園は荒れ放題となった。

村民が襲われ、作業が出来ないのに加え、

せっかく実った果実をゴブリンが、思い切り食い荒らしたからである。


結果、村に隣接した至近距離でのみの作業となってしまい、

生産力は、ひどく落ちてしまった。


カントルーブ男爵家、レサン村の経済の根幹は果樹栽培。

果樹園復興なくして、これからの繁栄はありえない。


昨夜、エリーゼとバンジャマンは、レサン村へ宿泊せず、

城館へ戻った。


エリーゼは、バンジャマン、村長と3者にて、

真剣な表情で何やら打合せをしているが、

父アロイスから、監督者として、何か指示を受けているのかもしれない。


……やがて、リオネルとジェロームは、エリーゼから呼ばれた。


「リオネル様、ジェローム様」


最初は『殿』だった呼び方も、

エリーゼがジェロームとは心を通わせ、リオネルがゴブリンを倒し、数多の人間を治癒してからは、『様』と敬称になっていた。


「はい」

「何でしょう? エリーゼ様」


「予定を変更します。追加発注です」


「追加発注?」

「何を?でしょう」


「はい! 果樹園の周囲にレサン村同様、地の魔法で高い岩石の防護壁を張り巡らせてください。ゴブリンの害はなくなりましたが、猿、鹿や猪などが入り込み、荒らすのでこの際、防ぐ手立てをしようという話に至りました」


「成る程」

「了解です」


「つきましては、リオネル様にこの防護壁の設置を、ジェローム様には指示を別途しますから、別の作業をお願いしたいと思います。」


「分かりました」

「ご指示に従います」


という事で、リオネルは果樹園の外へ出て、地の魔法を行使する事に。


ジェロームは、エリーゼと一緒に、村民達に混ざり作業をする事に。


よし!


気合を入れ直したリオネルは、魔法杖を振るい、地の魔法で岩壁をどんどん生成して行く。


地の魔法杖に見せかけ、杖を使って発動していれば、

リオネルは風の魔法使いのはずであるのにと、不審がられる事はない。


と、その時。


『はあ~い、リオ! 地の魔法をガンガン使ってくれて、嬉しいわあ』


と聞き覚えのある声が、リオネルの心に響いたのである。

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