第292話「ジェロームに思い切り実戦経験を積ませる戦い方をしよう」

自宅地下室において、ケルベロス以下『仲間』を紹介。

己の存在価値に疑問を呈したジェロームをなだめ、叱咤激励したリオネル。


反省したジェロームが謝罪し、ふたりは地上の居間へ戻った。


ふたりは改めて、ギルド総本部から提示された依頼の検討、選択へ入る。


リオネルが言う。


「まず、仲間各自の能力、そして以前ジェロームに説明したクランの役割と付け合わせして行こう」


「りょ、了解」


「ジェロームに紹介した仲間の順番で行くか」


「お、おう!」


「まず、あの犬は……ケルという名だが、ジェロームが考えている通り、使い魔ではなく魔獣だ」


「ま、魔獣か……やっぱりな。あの強さなら当然だ」


ここで勘が良く、魔物の知識に詳しい者ならピンと来るかもしれないが、

騎士一筋だったジェロームは気付かなかった。

冒険者として修行を積んだモーリス、ミリアン、カミーユとは対照的である。


「ケルは攻防索敵に優れ、シーフ職、盾役、攻撃役、後方支援役を安心して任せられる。回復役以外はこなせる万能型だ。俺とは人間の言葉でコミュニケーションがとれる」


「そ、そうなのか! す、凄いな!」


「ああ、凄いぞ。次に魔獣アスプ6体。しなやかで俊敏な彼らはシーフ職、攻撃役を任せられる」


「お、おお、そうか」


「次にゴーレム20体。頑丈な身体とパワーで物理攻撃オンリーの彼らは盾役、攻撃役だ」


「ああ、ゴーレムは俺と一緒だな」


「うん、現状ではな。……でも決めつけず、諦めず、自分が成長する為には、いろいろ可能性を探ぐるんだぞ、分かったな、ジェローム」


「わ、分かった」


「……そして俺は武技に風の魔法、回復魔法その他もろもろも使えるから、全てのポジションをこなせる万能型だ」


「まあ、納得だな!」


「でだ! 俺とジェロームを入れて総員数は29。これを依頼により、様々なパターンを考え、組み合わせてクランを組むんだ」


「な、成る程」


「俺は英雄の迷宮を踏破した際、師匠である大先輩の冒険者さんにリーダー役を任せて貰い、クラン構成、作戦立案、指揮を学び、実践したんだ」


「そうなんだ……」


「ああ、良い経験だった。ジェロームも将来は指揮官になるのだから、いろいろ学んだ方が良いと思うぞ」


「俺が指揮官かあ……」


「あと、その人からは拳法、そして破邪、葬送の魔法を教授して貰ったよ」


「え? リオネルは拳法が使えるのか!?」


「ああ、創世神教会の公式守護拳法で、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんというんだ。特に不死者アンデッドには無類の強さを誇る」


不死者アンデッドにって、……何だか……俺、騎士学校でいろいろな先輩騎士に会ったり、戦ったり、ブレーズ様、ゴーチェ様の試合を見たり、聞いたりしたけど……実際に戦ってみて、リオネルが最強だと思うぞ」


「あはは、ジェローム。それは買いかぶりすぎだって」


リオネルは苦笑したが……

まじまじとリオネルを見つめるジェロームの表情はひどく真剣であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


仲間各自の特徴、戦い方の補足説明がリオネルからあり、ジェロームが不明の部分を尋ねるという質疑応答が行われた後……


冒険者ギルド総本部から出された依頼候補を、

リオネルとジェロームは改めて精査する。


リオネルは勿論、今度はジェロームの表情も真剣である。

というか、しばらく前からずっと真剣である。


いろいろと言葉が交わされ、議論も為され、候補はふたつに絞られた。


ひとつは、ある小村でゴブリン1,000体の討伐。

報奨金は金貨300枚。

もうひとつは同じくとある村で、オーク500体の討伐である。

報奨金は金貨800枚。

ちなみに同じような条件でも報奨金に差があるのは、町村の財政的な事情なので、

ご容赦して頂きたいとギルドの職員から告げられた。


リオネルとしては……どちらを受諾しても、何の問題もない。


ただ、ジェロームに思い切り実戦経験を積ませる戦い方をしようと考えている。


「ジェローム」


「ん?」


「俺はどちらを受諾しても構わない。ゴブリンもオークも戦い慣れた相手だ」


「そ、そうか!」


「基本はケル、アスプに先行、斥候させ、臨機応変にシーフ職、盾、攻撃役を担って貰う。ゴーレム達は盾役と攻撃役、最後方に俺とジェロームが陣取り、仲間達の攻撃を突破して来た相手のみ掃討する作戦だ」


「……わ、分かった」


ジェロームの心の中は分かる。

前に出て戦いたいが、大群たる相手の数から、

少し臆しているというのが本音であろう。


それゆえ、リオネルはフォローする。


「ジェロームは最初から前面に出たいだろうが、戦い慣れるまで待て。何度か戦い、経験を積んでから、ケル、アスプ達の前に位置し、一番先頭で戦う機会も設けよう」


「い、一番先頭!?」


「ああ、俺とジェロームで敵を迎え撃つ形も試すよ」


「うお! リオネル! 今、俺の心の中に、1,000体のゴブリン、500体のオークと対峙したイメージが浮かんだ……さすがに少しびびったぞ! 本当に大丈夫か?」


「大丈夫! 俺は単独で1,000体のゴブリンと戦って勝った事もある」


「え? そ、そうなのか!? 1対1,000って!?」


「ああ、問題なく勝てた」


「す、凄いな! じゃあ、オークは?」


「うん! 対500体という数での単独戦闘経験はないが、これまでオークとは散々戦っているから、剣と魔法で勝つ自信はある」


「自信があるのか?」


「ああ! 実際、上位種のオークカーネルは何度も倒している。それにサイドから仲間達に援護させるから、実際はふたりのみが正面切って、総数500体、1,000体と、まともに戦う事はない」


「な、成る程!」


「ダメージを受けたら回復魔法でケアするし、万が一やばかったら、すぐ撤退するよ」


「お、おう!」


自信に満ちあふれたリオネルの言葉を聞き、表情を見て、

ジェロームは大きな声で応えたのである。

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