第252話「全属性魔法使用者《オールラウンダー》のくせに、だっさあ!!」

「うわあ……参ったなあ」


ひと気のない農地でリオネルは、


転移トランジション!」


と発動に発動を重ね、地道に転移魔法の修行を続けていた。


嘆くのも無理はない。

原因は、転移魔法発動によって生じる、リオネルの『移動距離』である。


何と!

リオネルの身体は農地から、出る事はなかったのだ。


何故なら……


最初の発動が、1m。

2回目が、1m50cm。

3回目が、1m。

4回目が、2m。

5回目が、1m50cm……


6回、7回、8回、9回、10回と連続で成功した発動も、

移動距離は、何とか2mを少し超えたくらい。


全然上手く行かない。


目標は限りなく遠く、行く手をはばむ壁はとんでもなく高い……


アリスティドは、リオネルに切々と戒めた。


『未熟なうちは、時たまイレギュラーで上手く行かぬ場合もある! 今後は制御コントロールと移動距離延長の修行を限りなく続け、熟練度を大きく上げ、更なる上達を目指せ!』


と……。


それゆえ、覚悟はしていた。


『アマイモン様とその一族は地脈を使い、世界の様々な場所へ赴く。我は厳しい修行の末、何とか、その入口へたどりつく事が出来た。だが残念ながら、完全に極める事は出来なかった……やっと数kmの距離を、瞬時に移動する事が可能となったレベルだ!』


とも、アリスティドは言っていた。


レベル88の偉大なる英雄、アリスティドでさえ……

想像も出来ないような努力をした末に、

やっと『数kmの距離』を、瞬時に移動する事が可能となった、

超が付く高難度の魔法なのだ。


更にリオネルは、転移魔法を発動し続けた。


100回まで連続で発動。


でも、最大移動距離はたった3m……


「よっし! とりあえず、きりの良いところで、ここまで。先に農地開拓と防護用の岩壁建設、整備を終わらせよう」


転移魔法の訓練で、幸い『未発動』はなかった。


たとえ距離は出ずとも、100%発動するだけでもOKだ!


ぱっ! と、前向きに気持ちを切り替えたリオネル。


黙々と働くゴーレム2体とともに、

リオネル自身もくわを振るって、ひたすら畝づくりに勤しんだ。


訓練したばかりの転移魔法が役に立った。


3mというわずかな距離でも、瞬時に移動し、作業する事で、

畝づくりが、円滑に行えたからだ。


やがて……

畝づくりは終了。


従来の農地に隣接し、荒れ地だった場所が、

整然と畝が並ぶ、『素晴らしい農地』となっていた。


通常なら大人数で時間をかけて行う作業も、

ゴーレムの超人的な労働と、リオネルの身体能力であっという間に終わっている。


まだ時間は1時間くらいしか経っていない。


「気持ちいいなあ。……俺、農作業も大好きなんだ」


感慨にふけるリオネル。


しかし、そうのんびりもしていられない。


鋼鉄製ゴーレムを、水属性魔法『水流』を使って洗い、

鍬と鋤の魔導アタッチメントを外し、魔法の腕輪へ戻した後……

しばし休憩したリオネル。


次に、既存、新規の農地合わせ、農地全体を外敵から防ぐ、

防護用の岩壁の建設と整備を行う事にしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルの習得した地の魔法は……


チートスキル『エヴォリューシオ』の効果により、

同じくチートスキル『ボーダーレス』を習得。


『ボーダーレス』習得により全属性魔法使用者オールラウンダーとなり、

全属性の魔法が習得可能となった……


そして、師のひとり、モーリスの行使する地の魔法『土壁』『岩壁』を、

これまたチートスキル『見よう見まね』で心へ刻んだものだ。


そもそも、リオネルが全属性魔法使用者オールラウンダーであるのを知るのは、現在、モーリス、ミリアン、カミーユ、

そして、いにしえの英雄、ソヴァール王国建国の開祖、

アリスティド・ソヴァールの亡霊、4人のみである。


依頼遂行の際、地の魔法が必要な時は、当然モーリスが行使していたわけであり、

リオネルの、地の魔法の使用頻度は低い。


もっと地の魔法の使用頻度を上げないといけない。


転移魔法は、様々な系統があると言われる。


アリスティドから授かった転移魔法は地の魔法である。


ならば、地の魔法の熟練度大幅アップが、転移魔法の上達にもつながる。

そうリオネルは、考えたのだ。


何回も訓練し、発動。

地の魔法『岩壁』は、無詠唱で発動可能だ。


しかし、今日の修行は基本から行こうと決めていた。


リオネルは、言霊を詠唱する。


「……ビナー、ゲブラー、母なる大地よ! 我らに仇なす侵入者を防ぐべく、大いなる力を与えよ!」


ぼこぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこぼこ!

ぼこぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこぼこ!


ぼこぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこぼこ!

ぼこぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこぼこ! ぼこぼこぼこぼこ!


呼吸法を使い、体内魔力を高めたリオネルの口から……

地属性魔法『岩壁』の言霊ことだまが詠唱されると、

目の前の地面から岩がせり出し、音を立てて盛り上がって行く。


……やがて、盛り上がった『岩』は、

リオネルがイメージしたサイズ通りの、巨大な『岩壁』となった。

長さが30m、高さは10m、奥行きの幅は3mほど。


畝を作った農地から、岩壁を少し離してあるのは、日照の問題だ。


「お~! 上手く行った! この調子で、農地の周囲全てを囲ってしまおう!」


大きく頷いたリオネルは引き続き、『岩壁』を生成して行く……


そしてついに四方を岩壁で囲った。

一方は、出入りが出来るよう、真ん中を開けている。


「完成だ! よっし、俺の任務完了。時間はっと、まだ午後2時かあ」


懐中魔導時計を見て、リオネルはしばし考え、決断する。


いつもの癖で自問自答が繰り返される。


「本当はモーリスさん達の手伝いに行った方が良いかもしれない。しかし、せっかくの機会だ。周囲には誰も居ないし、もう少し、転移魔法の訓練をしていこう」


「その後でモーリスさんへ来て貰い、岩壁のチェックを頼み、口裏も合わせよう」


という事で、リオネルは転移魔法の訓練を再開した。


改めて、呼吸法で体内魔力を上げ、


転移トランジション!」


と、言霊を詠唱すると、転移魔法は見事には発動。


リオネルの姿は、その場から、煙のように消えた。


しかし……

やはりというか、リオネルの姿は、たった3m先へ『転移移動』しただけだ。


と、その時!


「きゃはははははは!! 全属性魔法使用者オールラウンダーのくせに、だっさあ!!」


思い切り高笑いし、侮蔑ぶべつする若い女子の声が、

無人のはずの農地に、大きく響いたのである。

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