第211話「ケルベロスの忠告」

リオネルとモーリスの見事なコンビネーションプレイで、

強敵バジリスク3体を撃破!


「よし!」

「うむ!」


「やったあ! 師匠! リオさあん!

「完璧勝利! 圧勝っす!」


と、リオネルを囲み、喜ぶ一行だが……


5人のうち、ひとりだけ、ぽつんと離れて、不満顔の者が居た。

そう、冒険者ギルド総本部サブマスター、ブレーズ・シャリエの副官、

ゴーチエ・バラデュールである。


つかつかつかとリオネルへ近づき、


「おいおいおいおい! リオネル君よぉ! おっかし~じゃねぇか!」


と、再び「ぶうぶう」ぶうたれる。


ここは正直に真実は告げられない。


対して、リオネルは「申し訳ない」と思いながら仕方なく、


「え、またですか? 一体、何がおかしいというのです? ああ、ウチの師匠の動物の声色こわいろですか? 本当に上手いものですねえ」


と言えば、ゴーチェはぶんぶん首を横へ振る。


「違う!」


「え? 違う? じゃあ、あんなに強そうなバジリスクが、雄鶏おんどりやイタチの声に臆して動けなくなる事ですか? めっちゃ不思議ですよね?」


「何言ってる! 違う! 違うよ! リオネル君、お前、まともにバジリスクと正対したよな!」


「はあ、しましたけど……何か?」


「何かじゃねぇ! バジリスクの奴は、絶対、石化と毒の攻撃を仕掛けたはずなんだ!」


「ああ、それですか。……石化はですね、バジリスクの『がん飛ばし』の視線を合わせないように、ちょっち下を向いていましたよ。それで大丈夫だったようです」


「くうう! 何だよ、その安易な防ぎ方は! じゃ、じゃあ毒は! 毒はどうなんだあ! 今度もアスプ同様、もろにバジリスクの毒息を浴びただろうが!」


「さあ、俺にも良く分かりません。予防ポーションが有効なのか、相当上手く、俺がかわしたんですかね?」


リオネルの曖昧な物言いを聞き、ゴーチェは遂に決断した。


「くううう……もう良い! 俺はこう判断する!」


「え? 何をどう判断するのですか?」


「うむ! リオネル君は毒も石化も無効化すると、しっかりローランド様とブレーズ様へ、ご報告するっ!」


「いやいやいや……それは」


困惑するリオネル。

しかし、ゴーチェは断固としてという趣きで言い放つ。


「それは、じゃねえ! 俺は自分の見た物を信じる! 実際、俺がこの目で見届けたと両名へお伝えするからな!」


「ええっと……じゃあ、『多分』か、『推測するには』をつけといてください」


「いや、そんな曖昧あいまいな報告は出来ねぇ! 俺は事実をありのままに、ご報告するっ!」


こうなったら仕方がない。

リオネルは折衷案せっちゅうあんを出す。


「分かりました。ではせめてゴーチェ様ご自身の『俺が見る限り』と前置きしてください。お願いしますよ」


と、リオネルが頼むと、


「ゴーチェ様、リオ君のお願い通り、せめてそれぐらいは譲歩を」

「お願い、ゴーチェ様」

「お願い致しまっす!」


モーリス、ミリアン、カミーユからも頼まれ、


「わ、分かったよ。そこまで頼まれたら、俺も嫌とは言えねえ。そう、おふたりにはご報告する!」


やっとゴーチェは、しぶしぶ了解してくれたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


アスプをテイム、バジリスクを撃破し、一行の地下7階層の探索が続けられて行く。

当然、依頼された公式地図の確認をしながらである。


フォーメーションは、魔獣ケルベロス、アスプ6体が先導。

リオネル、モーリス、ミリアンとカミーユ、最後方にゴーチェとなっていた。


ここでケルベロスとアスプが反応する。

リオネルが遭遇した事のない、新たな敵の出現だ。


ケルベロスが念話で連絡を送って来るのはもはや、お約束である。


あるじ……またまた初見の敵だ。それゆえわれが敵の名を伝えてやろう』


『ああ、ケル。頼むよ』


『敵は、雄鶏の身体にドラゴンの翼、トカゲの足と蛇の尾を持つ合成獣、コカトリス3体だ』


『おお、遂にコカトリスか!』


『うむ、先ほど主が戦ったバジリスクの上位種と理解すれば良い。毒息と石化の能力は数段上で、先ほどバジリスクに使った奇策も通じない』


『成る程。今度は、モーリスさんのフォローなし、俺の力だけで勝利しろという事だな』


リオネルがそう言うと、ケルベロスは笑い飛ばす。


『ははははははは! 何を寝言を言っている』


『俺が寝言を?』


『ああ、敢えて毒を受けるという破邪魔法奥義『破邪霊鎧はじゃれいがい』のテストをしなければ、主にとって、コカトリスなどは単なる雑魚ざこだ』


『コカトリスなどは単なる雑魚か? ははは、まあケルベロスから見ればそうだろうな』


『何を言う。現状で主の強さは、既に我を超えておる』


『そ、そうかな?』


『謙遜するな! それゆえ我は、主の成長を見越し、異界から呼び出されたのだ』


魔獣ケルベロスは推定レベル65オーバー。

この世界の召喚のことわりでは、召喚者より上位レベルの対象は基本的には呼び出せない。

つまり魔獣ケルベロスは、リオネルには絶対に呼び出せない召喚対象なのである。


しかしケルベロスは、「自身より強くなると見込み、リオネルに召喚されたのだ」

と言い切るのだ。


対して、リオネルは素直に感謝の言葉を戻す。


『ありがとう、ケル。そう言って貰えると自信になるよ』


『うむ! 威圧でもフリーズでも、主の持てるスキルで奴らの自由を奪い、格闘でも武器でも魔法でも、好きな方法で、コカトリスなど瞬殺だろうよ』 


『そうかもしれないな……だが俺は自分の能力を見極めたい』


『ははははは、主の心を通じ、聞いていたぞ。押しかけ騎士の言葉をな』


『押しかけ騎士? ああ、今度はゴーチェ様の事か』


『うむ、あ奴はこう言っただろう。俺は自分の見た物を信じる! と』


『確かに言ったよ』


『うむ……そして、あ奴は、体感したものを、信じたいように信じるものさ。人間とは……昔からそういうものだろうよ』


『何だ? ケル。……今日はいつにも増して、哲学的だな』


『ふむ……我との会話で、主は話術のスキルも上げておけ。高位の魔族と話す事に備えてな』


『え!? 高位の魔族!? 何だそれ?』


『いずれ高位の魔族どもは、全属性魔法使用者オールラウンダーたる主の前に数多、現れるだろう。邪悪な人間も含め、誘惑、甘言などに惑わされないよう、自身の剛毅さを高め、話術を巧みに行えるようにも備えておくのだぞ!』


ケルベロスの言葉はひどく真剣であった。

心の内なる声同様に、リオネルは素直に受け入れる事とした。


『分った。もっともっと俺、自分の心の強さをゆるぎないものとし、話術も徹底的に鍛えるよ』


『うむ、宜しい……とりあえずは、コカトリスを使い、『破邪霊鎧はじゃれいがい』の能力を存分に体感するが良かろう』


『了解!』


返事をするリオネルへ、

新たに出現した敵・コカトリスどもは、どんどん近付いていたのである。

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