第208話「夢が広がる!」

「あ、ああっ!? な、何をやっているんだあっ! リオネル君よおっ!!」


最後方でゴーチェが嘆いたのも無理はない。

リオネルは、アスプどもの跳びかかりを、真っ向から受けたのだ。

確実に猛毒を吐きかけられたと見たからである。


もし何の対策も立てず浴びたら……気絶し、約10分で死ぬ!……という猛毒!!


毒息を吐きかけたアスプども6体が、そのまま襲って来る!

……のが、リオネルの目には、スローモーションのように見える!


果たして!!??


緊張の一瞬!!

生と死の狭間!!


……………………………………き、気絶しないっ!!

倒れもしないぞおおっ!!!!

発動していなくとも!! ぜ、全然平気だあっ!!


こ、これが!!

破邪魔法奥義『破邪霊鎧はじゃれいがい』レベル補正プラス40で、

得た能力なのかあっ!!


余裕が出た!

アスプの敏捷さも、今のリオネルの動体視力の前ではスローモーション。

かたつむりが這うのと一緒だ!


6体の攻撃を楽々と躱す事が出来た!


と、その時。


「リオ君! 今だっ! 私が教えた言霊ことだまを放てっ!」


「了解っ!」


叫んだリオネルは、なおも襲いかかろうとする6体のアスプどもへ、

「きりっ!」と視線を見据え、


いにしえより生きる魔の者どもよ! 我が言霊ことだまを聞き、我に従えっ! お前達の心を、身体を、我へ、一切渡すが良いっ!」


リオネルは肉声と心の声でそこまで詠唱し、魔力を更に込め、同じく決めの言霊を吐く。


「……支配シィータラっ!」 


すると!


なんという事でしょう!!

……と、ばかりに「異変が起こった」のである。


「戦う気」、「リオネルを殺す気」満々だったアスプどもが、

全て「がくっ!」と脱力。

戦闘態勢を解いたのだ。


「成る程……モーリスさんの話の通りか。……お前達、俺の言霊で心の根幹を縛られたようだな」


すると、不思議な事に、心の内なる声がささやいてくる。

自然と次に発すべき、指令の言葉が出て来るのだ。


リオネルは、改めて厳かに告げる。

当然、肉声と念話で、


「忠実なる魔の者よ、我に従え! さすれば、汝達の道は開かれん!」


対して、アスプからは迷いのない『従属』の波動が伝わって来る。


リオネルには分かる。

この技法は、魂の契約を結ぶ『召喚魔法』

そして対象を飼い慣らして従える『テイム』

両方の要素を合わせ持つ稀有なモノだと。


リオネルは今の経験で改めて思う。


これまで、毒、石化を持つ魔物に挑んだ者達は、自分同様に、

トライアルアンドエラーの精神で臨んだに違いない。


そして対抗手段を見出し、編み出し、完成の域に到達するまでには、

数多の失敗、犠牲があったにも違いない。


今回のような実験はリスクが高く、命に危険が及ぶ場合も多いだろう。


しかしリオネルは、自分は勿論のこと、大切な身内や仲間が居る場合、

「万全の手立てを講じた上で、トライアルアンドエラーで臨むべきだ」

とも実感したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


更に驚くべき事が分かった。


リオネルに従ったアスプ6体は……

何と、『親愛の情』まで示して来たのだ。


アスプは基本『つがい』で行動する事は先に述べた。

そして、『つがい』の片方が倒されると、

残されたアスプは、愛する連れ合いの為、

『復讐』に躍起となると伝えられている。


そこまでアスプは情が深い為なのか、倒さなかったから不明なのだが……

リオネルの底知れぬ実力をはっきりと認識し、

『命を助けて貰った恩』を、しっかりと感じてもいるようだ。


アスプは人間の言葉を発しはしない。


だが、リオネルの念話で捕捉した心の波動は、

「この先も自分達を連れて行って欲しい」という切なるものだった。


つまり、「仲間になりたそうに、こちらを見ている……云々」という事である。


ここで、お約束のイベントが発生した。


チャララララ、パッパー!!!


いつものように……

リオネルの心の中で、あの独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、

『内なる声』が淡々と告げて来た。


リオネル・ロートレックは、

チートスキル『エヴォリューシオ』の効果と、発した支配の言霊、

習得した『召喚魔法上級』レベル補正プラス50と、3つの『派生』により……


『イレギュラーバトルテイム』そして『コミュニケーションテイム』レベル補正プラス50を、

それぞれ100%習得しました。


おおおおお!

すっげぇぞ!

『イレギュラーバトルテイム』か!!


イレギュラーって事は、偶然頼みの部分はあるけれど……

これ、「戦った後に相手が仲間になる!」って事だ!


そして、『コミュニケーションテイム』!!

「戦わずとも、話して交渉する事で、相手が仲間になる」って事かあ!


ええっと、俺は今、『レベル18』だ。

という事は、レベル補正プラス50ならば、

『レベル67』までの奴を従える事が出来るぜ!

それに説得は出来ずとも、遥かに格上の相手と普通に話が出来るって事か?


やったああああ!!!


最近、多忙だから、召喚魔法の研究もとどこおっていたれけど……

テイムも習得したとなれば、先々の楽しみが、ぐ~~んと増えたぜ!


よし!

それと、アンセルムさんから貰った『収納の腕輪』なら、

捕虜を生かしたまま、収納出来る!

今回従えた6体のアスプ達を文句なく連れて行けるだろう。


おいおい!

もしもレベルが今よりも、う~んと上がれば……

巨大なドラゴンとも戦った上で、従える可能性があるのか?


いや、巨大なドラゴンと戦わず、平和的に話して交渉し、説得してテイム。

結果、親しい仲間に出来るかもしれない!

そうなれば、ドラゴンが俺の命令に忠実に従い、敵と戦ってくれるとか!


そしてアスプと同じように、腕輪へ収納し、持ち歩くってか!?

腕輪の容量は、大きな町1個入るってアンセルムさんから聞いたから、

20m級のドラゴンを入れるのも楽勝だろうし!


おいおい! ドラゴンに騎乗するドラゴン使いは聞いた事があるけど、

ドラゴンを腕輪に入れて持ち歩くとか、そんな奴、この世界で今までに居たのか!


それにドラゴンよりも、も~っとレベルが上の凄い奴も、

俺の『仲間』に出来るかもしれない!


召喚魔法だって、もっともっと上達したいし!


……魔法使いとして! 夢がすっごく広がるぜ!


大きく何度も頷いたリオネルは、やる気満々となり……

従えたアスプ達へ、ケルベロスとともに、『先導役』を命じたのである。

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