第187話「いきなり! 武器が飛んで来たあ!」

リオネルはついて来れるよう、敢えて速度を抑えてゆっくり走ると、

カミーユも「心得た!」とばかりに、続いて走り出した。


ふたりはすぐに、ゾンビ10体、亡霊10体の群れに正対する。

その距離約10m……


「よし、打ち合せ通り、俺がゾンビ10体を引き受ける」


己の虫嫌い同様、カミーユの生理的な『苦手』をおもんばかり、

リオネルはビジュアル的にシビアなゾンビを受け持つ事に。


そんなリオネルの心遣いを、カミーユはよ~く理解していた。


「リオさん! ありがとうございまっす! 感謝しまっす! じゃあ、俺が亡霊10体を片付けまっす!」


リオネルとカミーユは、迫り来るゾンビと亡霊どもに立ちふさがり、


しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ!


……凄まじい速度で、何度も拳を突き出し続けた。


すると!

突き出した拳の先に居るゾンビどもと亡霊どもは、

呆気なく何体も何体も崩れ去り、消え去った。


これは……葬送魔法と同じ効果!


これは以前、王立墓地でモーリスが見せた破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの極意……『破魂拳はこんけん』である。


専用のガントレットから、気合と共に打ち出す拳から放つ魔力の波動が、

迫り来るゾンビどもと亡霊どもを触れずして、魂を破砕しているのだ。


リオネルは拳を突き出しながら、微笑む。


うん!

まだまだ物足りないが、『破魂拳はこんけん』の手ごたえは掴んだ。


このままじっくり修行を続ければ、モーリスさんから手ほどきを受け、

習得した破邪聖煌拳はじゃせいこうけん……

もっともっと上達出来るぞ!

そして、この拳法は、不死者アンデッド以外にも、有効に使える!


ゾンビを破砕しながら、リオネルがカミーユをチラ見すれば……

カミーユも余裕を持って拳を突き出しながら、亡霊どもを消している。


うん!

よし!


俺もカミーユも成長している。

お互いにまだまだ発展途上、限界を目指す!

いや、限界をも突破するんだ!


タイムラグはあったものの、

結局、リオネルとカミーユは予定していた物理攻撃を全くせずに、

ゾンビと亡霊どもを消し去った。

予想以上の成果である。


「ふう! いっちょ上がりだ」


「へい、お待ち! って感じっすね」


「ははは、『破魂拳はこんけん』……見事だったよ。カミーユもだいぶ余裕が出て来たな」


「はいっす! まだまだ余力があるっす! 落ち着いて倒せたっす!」


「おお、凄いな! 余裕が出て来たな、なんて、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんに関しては、お前より『おとうと弟子』の俺が言うのも何だけどさ」


「いやいや! リオさんこそ凄いっすよ。こんなに短期間で破邪聖煌拳を習得したばかりか、師匠レベルまで到達するなんて」


「モーリスさんレベル? それこそ『いやいや!』だよ。でもこれで、課題のひとつはクリアって感じだな」


「俺もそうっす。自分で決めた課題をひとつクリアしたっす。達成感! って素敵っすね」


「だな! 奴らの魂を含め、全て浄化したから、もう大丈夫だとは思う。しかし念の為、練習も兼ね、葬送魔法『昇天』を使っておこう」


「うわ! 石橋を叩いても渡らず、葬送魔法のダメ押しって事っすか? でもリオさん、体内魔力の方は大丈夫っすか? 魔力切れにならないっすか?」


「ああ、全然余裕だし、これくらい使っても、すぐ満タンになるよ。……さあ、ほいっ、昇天と!」


リオネルのガントレットが光を帯び、ゾンビと亡霊が居た辺りの空間と床を浄化した。


「うっわ! ほぼ無詠唱で、瞬時に発動っすか!? 凄いっすねえ!」


「ああ、わずかだけど『昇天』の発動速度が増したようだ。これで課題のふたつ目クリアっと! ……じゃあ、カミーユからモーリスさんとミリアンを呼んでくれ。『終わったぞ』って」


「リオさん、了解っす! ……師匠! 姉さん! 討伐完了っすよう!」


リオネルの指示を受け、カミーユが笑顔で戦闘の終了を告げた。


「おお、リオ君、カミーユお疲れさん!」

「わお! ふたりとも凄いっ! 強いっ!」


対して、後方でスタンバっていたモーリスとミリアンも、

笑顔で応えたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ゾンビと亡霊の群れを倒した後……


リオネル一行は、不死者のフロアを進む。

冒険者ギルドが設置した魔導灯が淡い光を投げかけ、リオネルの行使した照明魔法『魔導光球』がふわふわ飛びながら……

古びた石造りの通路を照らしている。


灯りがあるから、お化け屋敷のように暗い中、いきなりホラーというわけではない。

加えて、レベル60超、冥界の魔獣ケルベロスが先行し、

索敵及び、敵の適当な?排除の露払いをしてくれている。


その後も、ゾンビ、亡霊、スケルトンが出現。


リオネルは、宣言した通り、葬送魔法、破邪聖煌はじゃせいこうけん

火属性魔法を、

カミーユは、破邪聖煌はじゃせいこうけん、シールドバッシュ、

魔法杖を駆使し、戦っていた。


課題クリアと目標点到達に向けて順調だといえよう。


フォーメーションは相変わらず、

そのケルベロスを離れた先頭に、リオネル、カミーユ、ミリアン、モーリスの並び。


いきなり自分が敵と正対するわけではない。

しかし、リオネルの傍らを進むカミーユは少し緊張気味。


「ほぼ克服した」といっても、やはり不死者アンデッドは苦手のようだ。

地下2階層の虫どもに対する態度とは全く違っている。


「リ、リオさん」


「おう、カミーユ、どうした?」


「何度、戦っても俺、不死者アンデッドはやっぱ、苦手っす」


「まあ、俺も虫ほどではないが、ゾンビとか亡霊とか、進んで見たくはないなあ」


リオネルが同意すると、カミーユは嬉しそうになり、声のトーンが一気に上がる。


「でっすよね!! だけどリオさんは必ず俺をかばってくれるっす!! いっつもゾンビと戦って貰って、本当に感謝っす!! でも!! 次は俺がゾンビを克服するっす!! 絶対に倒すっす!! 倒してから姉さんと交代っすよ!!」


「おお、そうか! ミリアンもそうだが、カミーユも前向きだなあ」


リオネルとカミーユがコンビで、ゾンビと亡霊、スケルトンの群れを、

あっさり倒したのを見て、

「しばらくしたら並びを交代ね♡ 私がゾンビを倒すから!」

とミリアンがカミーユへ頼み込んでいたのだ。


「うっす!! 俺も姉さんも前向きになったのは、師匠とリオさんのお陰っす!!」


という会話の中、


「む! 前方に殺気だ!」


リオネルが小さく叫ぶ。


……索敵に敵の『気配』を感じる。

初めての気配である。


瞬間!


びしゅっ!

ぶん!

ぶわっ!


と大気が唸った。


そして、いきなり! 剣とメイスがいくつも、

リオネル達へ向かって、凄まじい速度で飛んで来たのである。

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