第171話「カミーユ危機一髪!」

英雄の迷宮地下2階層……


……どんどんエスカレートした、カミーユからの『メンタル攻撃』が、

ミリアンのぐりごりぐりの『物理攻撃』により、ようやく終了した。


「はああ……何とか意識を保てた……」


リオネルが安堵し、大きく息を吐けば、

モーリスとミリアンは、


「大丈夫か? リオ君」

「大丈夫? リオさん。諸悪の根源、アホのカミーユには、ぐりごりぐりごり、たっぷりお仕置きしておいたから」


と、リオネルの心身へのダメージを懸念し、労わってくれた。


一方、諸悪の根源?アホのカミーユは、


「ひどいっすう! 姉さんの『げんこぐりぐり』攻撃は半端ないっす! マジ痛かったっすう!」


「シャラップ! あんたが、しつこすぎるのが悪いんでしょ!」


というわけで、恐怖の?『虫問答』が終わり……

何とか休憩もとったリオネル達は、小ホールを出発しようとしていた。


出発しようとすると、モーリスが話しかけて来る。

ひどく真剣な表情である。


「しかし、リオ君」


「はあ……何でしょう? モーリスさん、えらくマジ顔ですが」


「いや、マジにもなるさ」


「と、おっしゃいますと?」


「いや、君の事が大いに心配なんだよ」


モーリスは、リオネルの事を心配してくれていた。


「はあ……だと思いました。ありがとうございます。大いに自覚してます……」


「うむ! これからリオ君が行くフォルミーカ迷宮の、とある階層のフロアには、この英雄の迷宮に現れる君の言う『コードネームG』より遥かに大きい個体が……うようよ居るぞ、どうする?」


「げっ! この英雄の迷宮に現れる『コードネームG』より遥かに大きい個体が!?う、うようよ? ……ギルドの図書館で資料本を読みましたが、やっぱり本当……なんですか?」


「ああ、やっぱり、本当だ」


「で、でも……どうするって言われても」


「リオ君!」


「は、はい……」


「覚悟を決め、君自身で頑張って克服するしかない。今後の探索や戦いに響くぞ」


「はあ~あ……参ったなあ……」


ここでひとつ。

リオネルは王都において、

『コードネームG』が出るような場所で仕事をしていたのでは?

という疑問である。


実は……

アンセルムの宿屋を手伝っていた時、当然『コードネームG』は、

厨房その他あちこち所かまわずに出現した。


魔法殺虫剤を使って倒しても、何故かまたリスポーンして?増えてしまうのだ。

『コードネームG』の近くへ絶対に行きたくないリオネルは、

『奴』を見かけると同時に、生活魔法レベルの風で吹き飛ばしていた。


え?

吹き飛ばすなどせず、近付いて、速攻で退治すれば良いのに?


いやいや!

とんでもない!

近付くだけだって、生理的に! 絶対に! 無理である!


記憶をたぐり、全身に悪寒が走ったリオネルへ、今度はカミーユが話しかけて来る。


「リオさん」


「な、何だ?」


「現実逃避しても絶対にダメっす。今後の為に……リオさんが輝ける未来を掴む為、『コードネームG』を克服するっす!」


「おお、『コードネームG』を俺が克服するのか? 逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだって事か?」


「そうっす! 逃げちゃだめっすう!」


「おお、心に響くぞ、そのセリフ。じゃ、じゃあ、どうすれば良いんだ? カミーユ」


リオネルが尋ねるが……

カミーユは、初めてリオネルへ教える事に感動し、陶酔。

打ち震えていた。


「くうう! 俺がリオさんに手ほどきするなんて感激っすう!」


「ええっと……あの、カミーユ?」


リオネルが名を呼ぶと……

ようやくカミーユは現実に引き戻された。


「うおっほん! ……じゃあ、リオさんへ素晴らしい克服方法を教えるっす」


「た、頼む、カミーユ」


「うむ、この俺カミーユに、まっかせなさあい!」


「で、逃げちゃだめだの克服作戦って何でしょう?」


ストレートに尋ねるリオネルの言葉が、カミーユは気にさわったようである。


「何でしょう? じゃないっす! 人にお願いする時は丁寧に、この私に教えてくださいって言うっすよ! リオさん!」


「わ、分かりました。お願い致します。ご教授ください、カミーユ・バザン大先生」


「うおっほん! 良いでしょう! ではカミーユ大先生が貴君へご教授しよう」


「はい! で、『コードネームG』の克服方法は?」


「うむ! ……『コードネームG』なんて、はっしと捕まえて! 気合を入れて! 握り潰してやれば良いっす!」


「はあっっ!!?? カミーユ!! あんた何言ってるの!!」


「え? 姉さん?」


カミーユのとんでもない衝撃発言を聞き、大いに驚いたのは姉ミリアンである。


「え? 姉さん? じゃないって!! カミーユ!!」


「ね、姉さん? 怒ってるっすか?」


「当たり前でしょっ!! 驚愕して憤怒状態よ!!」


憤怒したミリアンは吐き捨てるように言うと、

大きく息を吐き、呼吸を整える。

そして、淡々と告げる。


「ねえ、カミーユ。私……もうあんたとは二度と手を握らないよ。って、いうか二度と私にさわらないでくれる?」


「えええ~~っっ!!」


「それと! もう二度と! 絶対『コードネームG』を握り潰さないって誓いなさい! ……でないと、あんたに愛する『彼女』が出来た時にバラすからね、その事」


「もう二度と」の3連発。

大好きな姉に嫌われるどころか、見放される!

そして、この『悪魔の所業』が、姉から愛する未来の『想い人』へ通報され……

バレたら……本当にヤバイ!


「げええええっっ!!?? ね、ね、姉さん!! や、や、やめて欲しいっすう!! ぜ、絶対に!! 振られるっすう!! は、破局するっすうう!!」


「カミーユ!! ……あんた最低!!」


「えええ~~っっ!! じ、じ、実は!! う、嘘っすうう!! コ、コ、コードネームGを!! に、握り潰してなんかいないっすう!! ご、ごめんなさ~~いっっ!!」


何という事でしょう。

カミーユの衝撃発言は大ウソであったのだ。


しかし、嘘も方便?

意味が違うかもしれないが、何とかカミーユは、姉に許して貰ったのである。

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