第158話「既に俺が言ったっす!」
「はははは! ワレバット近郊にある貴族家の婿養子の件だ! もし養子になれば!リオネル君は次期当主となり、『美貌の麗しき貴族令嬢』を『妻』にする事が出来るぞぉ!」
「「「え~~!!!???」」」
という、ブレーズの副官ゴーチェのとんでもない提案。
果たして、リオネルの答えはいかに!
その答えはとりあえずさておき……
あの衝撃的な提案の答えを戻してから、リオネル達一行は農地を経由。
既にモーリスによる防護壁は見事に完成しており、農地は無人。
入り口は封鎖されていた。
どうやらリオネル達がゴブリンを討伐しているうちに作業は終わったらしい。
という事で、リオネル達とともに、ゴーチェも村へ戻って来た。
もろもろの報告をした後……
ゴーチェは自分の独断で婿養子の件を、リオネルへ提案した事を、
専用の宿舎に在るブレーズへ伝えたのである。
リオネルが戻した『返事』を、ゴーチェから聞き、ブレーズは腹を抱えて笑っている。
『爆笑』といって良い笑い方だ。
「あ~っはははははははははははは!!」
「いや、ブレーズ様。……そこは笑うところではないですよ……」
しかめっつらで、ふてくされ気味に言うゴーチェ。
リオネルの答えは……推して知るべしであろう。
「うむ! そうか、リオネル君は即座に断って来たのか」
「は、はい! 自分は本当に良き話と思い、心を込めて勧め、説得しようとしましたが、その前に瞬殺で、きっぱりと断られました……」
ゴーチェは「ひどく落胆した」という雰囲気で、最後は言葉なくブレーズへ告げた。
対してブレーズは大きく頷く。
「うむ、リオネル君はとても勘が鋭い子だ。お前の
「お、思惑などと……私はブレーズ様の為、ローランド様の為、王国の為、ワレバット近郊に良き勇士が増えればと考え……」
「しかし、一見、条件の良い縁談でも、実は遠回しな『囲い込み』だと、すぐ気付いたんだよ、リオネル君は……」
「ですが、リオネル君は有能すぎる素晴らしい人材です。『囲い込み』は妥当な方法です。私には彼の父上が宮廷魔法使いにはあるまじき、実の息子を見る目が全くない節穴の愚物にしか見えません!」
「おいおい、ゴーチェ。声が大きい。そしてそれを、リオネル君の前で絶対言うな。いくら非情に追い出したとはいえ、母親を亡くした彼にとって、ジスラン殿は唯一の親御さんだ」
「わ、分かりました」
「但し、ゴーチェ、私にもお前の懸念は理解出来る」
「ブレーズ様……」
「これまでリオネル君が残した実績と、今回示した提案と実行力。そしてまだ発展途上という底知れぬ可能性……それなのに、まだ18歳でレベル自体は学生並みに低い……末恐ろしい大器だぞ」
「全くの同感です」
「ローランド様があれだけリオネル君へ会いたがるのも、彼の才能を見抜いているからに違いない」
「ブレーズ様のおっしゃる通りです」
「確かに、我がソヴァール王国からの『リオネル君の流出』は避けたい。しかし今、彼を無理に引き止めたら、全くの逆効果だ」
「は、はい!」
「もしも不快感を与えたら、リオネル君は我が王国に嫌気がさし、即座に他国へ行きかねない。既に肉親の絆を断たれているから、なんの
「はい、ブレーズ様。それもおっしゃる通りです」
「かと言って、お前の提案以上の強権発動をするにはローランド様でも難しいだろう。間違いなく王家レベルとなる。王家を動かしてリオネル君を推挙するからには、我々だけでなく、ローランド様ご自身のご進退にまでかかわるだろう」
「そ、それは……さすがにおおごとです」
「ふむ……とりあえずは、リオネル君がこのワレバットに滞在する間は、最大限の尽力をし、王国に対する彼の好感度を上げ、いつの日にかの再会を申し入れ、約束させる……それしかないだろう。……少なくとも私達にはな」
「はい、確かにブレーズ様のおっしゃる通り、これ以上の『強権発動』は王家レベルの域になります」
「うむ」
「自分はそうしても構わないとは思いますが……もしも王家が受けなかったり、リオネル君絡みで、宰相閣下につながるジスラン殿とのいざこざがあれば、ローランド閣下には大変なご迷惑がかかります」
「ふむ、ゴーチェ……お互いに意見があったようだな。……どちらにしても、ローランド様にはすぐに今回の結果をご報告しよう。それと急ぎ『謁見』の手はずを整えよう!」
「御意!」
という会話がブレーズとゴーチェの間で行われている頃……
リオネル達は新たにモーリス達専用の宿舎として提供された空き家へ戻っていた。
実はモーリスの手際の良さ、頑丈な防護用の岩壁があっという間に完成し、
村長、助役が感激。
その場で、ブレーズに許可を取った上で、現状だと手狭だろうと理由をあげ、
村長から、モーリスへ新たな宿舎提供の申し入れがあったのである。
……というわけで、モーリスは得意満面。
「えっへん!」という文字が人間になったような雰囲気であった。
しかしミリアンとカミーユが真剣な面持ちで、ゴブリン討伐の報告をし……
リオネルの去就の話をすると表情が硬くなり、顔色が変わった。
「ふうむ……リオネル君がいずれワレバットの街を出て、フォルミーカ迷宮へ行く意思は固いのだな。それを聞き、ミリアンとカミーユは寂しさをこらえ許容したのか……成長したな、お前達」
「うん、リオさんの人生だもん、私とカミーユは寂しいのを我慢するよ、師匠」
「そうっす! 笑顔でリオさんを見送るっす!」
「寂しいのを我慢し、リオ君を笑顔で見送るか……そうだな、そうしよう!」
「そうよ!」
「そうっす!」
「リオ君と出会ってから、本当に明るくなり、笑顔も多くなったものなあ、ふたりとも」
モーリスは慈愛を込め、ミリアンとカミーユを感慨深げに見つめると、
「ふう」と軽く息を吐き、
「……出来るものならば、私達4人全員でキャナール村へ移住し、一緒に暮らしたかった。しかしリオ君の意思が固いのなら、致し方ない。ゴーチェ様からの『ご提案』も断るくらいだからな」
モーリスの言葉を聞き、リオネルが謝罪する。
「申し訳ありません、モーリスさん」
「はははは、リオ君が謝る事はない。人生は出会いと別れ、別れと出会いだ。それに一生会えないと決まったわけでもない。私とパトリスのように10年後とか、いつの日にか再会する事もあるだろうて」
「は、はいっ! 一旦、別れてもまたいつか皆さんとお会いしたいと思います」
リオネルは言葉に力を込めて言い放った。
モーリス、ミリアンとカミーユだけでなく、今まで出会い『魂の絆』を結んだ全員へ告げる気持ちで。
モーリスは更に言う。
「今回の企画は、いずれキャナール村で暮らす私達の為でもあるのだろう? こういった村で発生するいろいろな仕事や事象をこなせば、貴重な経験則となり、私達は難儀する事無くキャナール村で暮らして行く事が出来る」
「は、はい! ……すべてが万事というわけではありませんが、そう思った部分があるのも確かです」
「ふふふ、リオネル君の深謀遠慮には重ね重ね感謝だな! ……とりあえずはともに暮らす時間を大事に生きよう!」
きっぱりと言い放ったモーリスであったが……
ミリアンとカミーユは苦笑。
「何だ、お前達、私が真面目な話をしているのに何故、笑っている」
「だって! ねえ、カミーユ」
「そうっすよ! 師匠が『どや顔』で言ったセリフ、『人生は出会いと別れ』とか、『ともに暮らす時間を大事に生きよう!』 とかは既に俺が言ったっす!」
「な、何言ってるう! お、お前達、良い事は何度言っても素敵なんだあ!」
と最後は『お約束の掛け合い』も出て……
リオネル達は全員で大笑いをしたのである。
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